第10話
八月の初旬を迎え、夏本番がやってきた。
浩太の生活スタイルはこれまでと変わりがない。
朝に起きて冒険者にカップメンを売り、夜になれば一発抜いて寝るだけだ。
毎日のように家の中にいるのだが、蘭子に店番を頼めば外出することはできる。
今のところダンジョンの秘密は守られており、生活そのものは順調といっていい。
「しっかし、今日も暑いな。こうも暑いと俺はとろけるチーズになった気分だぜ」
場所はリビング。
ソファの上であぐらをかく浩太は、パタパタとウチワを仰いで愚痴をこぼした。
家の中は蒸し風呂状態となっている。
秘密が漏れないよう、窓とカーテンを閉め切っているので当然だ。
おまけにエアコンなどの家電製品は壊れたままだし、快適な生活空間とは程遠い。
カップメンの売り上げで金は貯まったものの、家電製品を買い直すことは無理。
なぜなら、落雷の影響でコンセントそのものがぶっ壊れているからだ。
もちろん、修理の業者を家に入れることは許されない。
唯一の救いは、ダンジョンから入り込む、ひんやりとした空気である。
そのおかげで熱中症にはならないのだが、それでも暑いことには暑かった。
「つーか、この時間帯は暇だな」
「そうですね、殿下」
チャムも向かいのソファに座り、ウチワで生ぬるい風を送ってくれていた。
昼時が過ぎれば客がはけ、カップメンを売る必要もない。
たまに客はくるものの、夕方まではこんな調子でダラダラと時間が過ぎるのだ。
二十四時間、緊張の連続!
手に汗握るノンストップの大アクション!
なんて危機感を募らせていた浩太だが、こうしてみると案外暇なものである。
「さてと、風呂にでも入ってくるかな」
「殿下、午前中にも入ったばかりですよ?」
風呂とはいっても入るのは水風呂だ。
原始的かつ効果的、体を冷やすのはやはりこれに限る。
ちなみに温水器は壊れたままなので、水しか出ない。
「せっかくの水着なんだからさ、チャムもいっしょに風呂入ろうぜ」
「もう、殿下ったら」
二人は暑さを緩和するため水着姿となっていた。
浩太はピッチピチのブーメランパンツ。
チャムはというと、貝殻ビキニを身に着けている。
このセクシーなマーメイドビキニは、浩太がホタテの貝殻を使ってこしらえた。
ケツは丸見えに近い。
「いいから、いいから、ほら風呂に行くぞ」
「殿下がそう言うのであれば……」
やや恥じらうチャムを連れ、浩太は風呂場へと移動した。
伯爵の件以来、彼女の忠実度はより高まった。
貝殻ビキニ姿のままジャンプしろと命じれば、そのとおりにしてくれる。
浩太の目玉もそれに合わせて上下する。
「うおー、気持ちいいー」
「殿下、涼しいですね」
水風呂で涼をとりながらも、浩太は対面するチャムのおっぱいに釘づけだ。
実りに実った、タワワなふたつの果実。
それがプカプカと水に浮かび、十七歳童貞の心を否応なく刺激する。
「チャム、おっぱいさわってもいい?」
「ど、どうぞ……」
浩太はチャムの下乳を両手で持ち上げ、たっぷんたっぷんさせてみた。
たっぷんたっぷんする。
「チャム、おっぱいの谷間に手、入れてもいい?」
「で、殿下のエッチ……」
頬をぽっと赤らめるチャムだが、いやがっている様子は見られない。
まさに王子に仕える従者の鑑、百億点満点の献身さだ。
スマイル0円ごときで悦に浸る世の男どもに、浩太はこう言いたい。
余の勝ちである、と。
ひとまず浩太は、チャムの下乳よりおっぱいの谷間に手を滑らせた。
さらには前腕を上に動かし、指先を谷間よりこんにちは。
「殿下……くすぐったい……」
「ニュルニュルニュル~、ほ~ら蛇さんだぞ~」
手を引っ込めては出し、出しては引っ込める。
「殿下……わたし……おかしくなり――あんッ!」
「ほ~ら、ほ~ら、もっとおかしくな~れ。ニュルニュルニュル~」
これは一歩間違えば、もう引き返すことのできない危険な領域(変態さん)。
その境界線に片足を突っ込んでいる感は否めない。
だがこれが許される前提なら、どうせ警視総監でもこうしているはずだ。
ニュルニュルしてなにが悪い。
日本の治安を守る警察組織のトップを変態扱いし、浩太はその行為に酔いしれた。
そんなとき――。
(浩太よ――)
天の声だ。
またしても天の声が浩太の頭の中に降臨した。
(それはまさしくパイズリという行為ではないか。しかし本来パイズリとは、手を挟むものではなく、股間のナニを挟むもの。そなたはそれでよいのか。間違ったパイズリに満足していてよいのか)
(でもそれじゃ、エッチするのと変わりないじゃん! そんなことしたら俺、一発で終われる自信がねーよ! リビングを長時間ほったらかしになんかできねーよ!)
浩太は心の中で、天の声と会話をはじめた。
危険な状態だ。
(心配することなかれ。そなたなら、三こすり半で大輪の花が咲く。それは花火大会と同じこと。一万発規模の花火大会ですら、わずか一時間で打ち上げ作業が終わるのだ)
そうだった。そのことを失念していた。
朝までズッコンバッコンコース?
無理無理無理。
ベテランAV男優でもないのに、長距離マラソンは不可能だ。
童貞の一発は、一瞬で打ち上げられ夜空に消えるはかなき花火。
せいぜい三十発で、吉岡浩太主催の花火大会は終わるのだ。
開始から終了まで予想される所要時間は、およそ三十分。
花火大会を開催したとしても、なんら問題はない。
浩太はそう結論に達し、天の声の導きに従うことにした。
「チャム、パイズリって知ってるか?」
「パイズリとは聞いたことがありませんが……」
「これをおっぱいの間に挟むことだ」
浩太はジャプンと立ち上がり、己の股間を指差した。
ピッチピチのブーメランパンツだけに、息子は社会に羽ばたく寸前だ。
「で、殿下!」
チャムは両手で瞳を覆い隠し、首が骨折しそうな勢いで顔をそむけた。
「やっぱ、いやだったか?」
「そうではありません! いきなりだったもので驚いたのです!」
「じゃあ、パイズリしてもいい?」
「で、ですが……」
チャムは顔をそむけながらも、指の隙間から浩太の息子を覗き見る。
彼女もまた年頃のうら若き乙女。
オチンチンにまったく興味がないというわけではないらしい。
「俺も強制はしない。したくもない。いやなら正直に言ってくれ」
「いやじゃありません……。殿下となら……できます……」
顔を隠していた手をそっと下ろし、チャムは浩太の股間に視線を注いだ。
生卵を落とせば目玉焼きができそうなほど、彼女の顔は真っ赤となっている。
「じゃあ、パンツを脱ぐぞ? 本当にいいんだな?」
「は、はい……」
チャムのお許しが出た。
その無償の愛に溢れた忠義心に対し、浩太は誠意をもって応えることにした。
ここはパンツの引っかかりを利用して、バッチーン! と露出するのが最大限の礼儀というもの。
よそよそしくパンツを脱ぐなどもってのほかだ。
羞恥心に耐え、お目をまん丸にしているチャムに、それでは面目が立たない。
「いでよキングピンクドラゴン! 今こそ大いなる空に羽ばたくとき! さあ、ゆけ!」
たいして大きくもないドラゴンの頭をパンツに引っかけ、下方向へ両手を動かす。
このパンツの引っかかりうんたらは、エロ動画でときおり目にするAV男優の所作である。
そんなとき――。
「誰かー! 誰かいないのかー!」
リビングからそのような呼びかけが聞き届く。
ここぞというタイミングで、不運にも客が訪ねてきたらしい。
「ちっ、こんなときに誰だよ」
浩太は所作をいったん中断し、客の対応に出ることにした。
優先順位は、あくまでもダンジョンである。
両手で股間を押さえ、腰を屈めながらダンジョンの入口へ向かうと――。
「君、ちょっといいかな?」
ダンジョンの入口で待つ一人の男、二十代前半と思しき青年が声をかけてきた。
だが浩太はその風体を目にし、この者がただの客でないことを理解した。
なぜなら、彼は銀色に輝くフルプレートアーマーで身を固めているからだ。
鎧の随所には装飾が施され、目を見張るほどの高級感が漂っている。
真っ白なマントまで羽織るその様は、一介の冒険者ではないことを物語っていた。
兜こそかぶっていないが、セレブであることに間違いはない。
「なんの用だよ」
浩太はひとまず対応に出た。
パイズリを中断されただけに、接客マナーとしては最低だ。
「それより君は裸でなにをやっているのかな?」
「自分の家でどう過ごそうが、俺の勝手だろ」
「自分の家? ということは、君が日本王国の王子だとでも言うのかい?」
「そうだよ。俺が王子だ。なんか文句あんのかよ」
ブーメランパンツ一丁。
腰を曲げ、なおもピンコ起ちした股間を押さえる、なんとも情けない姿。
王子としての品格は皆無であり、疑問に思われるのはいたしかたない。
「殿下、あの男、王国軍第三近衛部隊隊長、ギニス・エイガーです。王国軍十傑の一人。お気をつけください」
浩太の背後より、チャムがそっと耳打ちをした。
どうやら大物が訪ねてきたらしい。
「そこのはしたない格好をしたお嬢さんから聞いたと思うが、僕の名はギニス・エイガー。ランテリア王国の兵士だ」
「で、それがなんだよ?」
「ランテリア王国、第三王女、エリル・ランテリアさまが、君を宮殿に招待したいと申されている。君のことは王室の耳にも聞き及んでいるのでね。僕はそれを伝えにきたというわけだ」
「日本王国のことも知らないくせに、なぜ俺なんかを招待できるんだ? なにか裏があるんじゃないのか?」
「空間変異作用により、ダンジョンから異国の扉が開かれたことは僕たちも知っている。その国の王子である君が、カップメンとやらを冒険者に売っていることもね。はじめは警戒していたが、敵対の意思はないと判断し、君を宮殿に招待する運びとなったしだいだ」
「俺を招待したって、いいことなんてなんもねーぞ」
「そんなことはない。エリルさまがカップメンとやらをどうしても食べたいと申されているのだ。是非、その願いを聞き入れてはくれないだろうか」
客の冒険者に紛れ、ランテリア王国側の兵士が調べにきたのだろう。
そこは浩太も想定の範囲内であり、さほど動じることではない。
それはそれとして、答えはすでに決まっている。
「断る」
「なんだって?」
「断るって言ったんだ! 聞こえなかったのか、この金髪豚野郎!」
浩太は自らの意思を強く伝えた。
招待を断る理由はみっつある。
まずひとつ目は、異世界に立ち入りたくはないということだ。
伯爵の元へ出向いたことは、チャムを守るためなのでしかたがない。
しかし確たる理由もなしに、これ以上異世界に足を踏み入れることは許されない。
それが日本を、全世界を守るためでもある。
ふたつ目。
招待を受けたとしても、浩太には護衛や付き人の用意ができない。
チャムがいるにはいるのだが、従者一人だけというのはあまりにも不自然だ。
偽りの王子の嘘がバレてしまえば、リビング防衛線はたやすく突破されてしまう。
みっつ目。
これが最たる理由としてここにあげられる。
浩太はこのギニスという男に嫌悪感を抱いた。
すべての年代の女性を虜にできるであろう、金髪碧眼超絶イケメン。
その若さにして、王国軍第三近衛部隊隊長であり十傑の一人。
早くに童貞を卒業した(確定的)、名実ともに人生の勝ち組。
ぶっちゃけ、いけ好かない。
彼の歩んできた輝かしい人生において、『緩んだ肛門筋』、なんてあだ名は、間違ってもつけられたことはないだろう。
浩太はそれがある。
「王子、よく考えたほうがいい。エリルさまはランテリア王国の第三王女だ。その招待を断るということは、ランテリア王国に対して侮辱ともとれる非礼な行為。君は我が国が示した友好の意思を、拒絶するというのか?」
「そうは言ってない。俺はあんたの国と争う気なんてこれっぽっちもない」
「ならばなぜエリルさまの招待を断る?」
「こっちにも、もろもろの事情があるんだよ。でもカップメンが食いたきゃ、王女さま自らこっちにくればいい。好きなだけ食わせてやるさ」
「エ、エリルさま自らダンジョンに足を運べだと!? 君は正気か!」
ギニスは度肝が抜かれたかのごとく、その切れ長の瞳をグワっと見開いた。
「ここは地下三階層だ。出没する魔物も弱い。あんたらの護衛がついていれば、まず危険はないはずだ。もし王女がここにくるなら、それは何日後なのかを教えてくれ。こっちにも準備があるからな」
「その言葉、そのままエリルさまに伝えてよいのだな?」
「ああ、いいぜ」
「わかった。それと、王子にひとつお願いがあるのだが……」
ギニスは気恥ずかしそうに眉の横をかく。
「お願いだ? 便所の紙ならいま切れてるぞ」
「そうではない……。僕もカップメンとやらを食してみたいのだが……」
「そんなことか。いいぜ。ちょっと待っててくれ」
浩太はカップメンにお湯を注ぎ、三分待ってからそれをギニスへ運んだ。
すると彼は黙々とカップメンを平らげ、満足気に口を開く。
「なるほど、これはうまい。冒険者たちの間で評判になるのもうなずける」
「それはよかったな」
「では、僕はこれで失礼する」
「おい、ちょっと待てよ」
「なにか?」
さっとマントをひるがえし、その場を立ち去ろうとしたギニス。
彼は浩太の呼び止めにくるりと振り返った。
「カップメンを食ったんだから、金を置いていけって言ってるんだ」
「なんだって!? 僕から金を取るというのか!?」
「もちろん王女さまなら、金を取る気はさらさらないさ。しかしあんたは、ただの兵士だ」
「た、ただの兵士だと……僕は王国軍第三近衛部隊隊長――」
「そんなこと関係ない!」
ギニスの言葉を遮り、浩太は強い口調で言い放つ。
そして己の真意を元に、このバカタレ兵士を説き伏せる。
「王子の俺からしてみれば、あんたはただの兵士だ。階級もクソもへったくれもない、ただの公僕だ。それに俺は金がほしくて言ってるわけじゃない。ここでカップメンを食べていく冒険者たちに、道理が通らないからこそ、金を置いていけって言ってるんだ。イケメンだからってなんでも許されると思うなよ」
「わ、わかった……。金なら置いていく……。釣りはいらない……。失礼した……」
ギニスは渋面をつくり、金貨三枚をテーブルの上に置きその場をあとにした。
たぶん、この金貨三枚なら、3Dゲームもヌルヌル動くパソコンが買える。
儲かった。
「あのギニス・エイガーに対し、惚れ惚れするような毅然とした立ち振る舞い。さすが殿下です。感服いたしました」
「なんかあいつ、終始見下した感があったからな。ビシっと言ってやったまでだ」
「そ、それでは殿下……。その……パイズリとやらをもう一度……」
チャムは人差し指をクネクネ合わせ、こっぱずかしそうに下を向く。
その乙女の振る舞いは純朴そのものだが、ケツ丸出しの貝殻ビキニ姿だ。
「それはまた今度にしておく。俺が本当にそうしたいと思うときまでな」
パイズリする気など、とうに失せた。
それに浩太はギニスにある意味感謝した。
彼はチャムの水着姿をはしたないと口にしたが、そんなことはまったくない。
こうして改めて見ると、美しく可憐でマーメイドのような水着姿だ。
そう思えるからこそ、チャムをもっと大切にしたい。
短絡的なただの欲望で、彼女を真っ白に汚してはならないのだ。
「それよりチャム、ポテチでも食べようぜ。キッチンから持ってきてくれ」
「はい、殿下!」
子犬のように喜色を浮かべ、キッチンへ駆け走るチャム。
そのケツをマジマジとガン見し、浩太は股間を押さえて深く身を屈めた。
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