第5話月の魔法使い。

 何時間、図書室ここにいたんだろう。

 外は、もう真っ暗だ。

 いつの間にか、雨も止んでいる。

 月が綺麗だ。

 明日は、久しぶりに部活が出来そうだ。

 ”チリリン、チリリン”

 このベルの音は、閉館の合図だ。

「20時です。閉館時間なので、出てくださーい。」

 司書は、『早く帰れ』という追い討ちをかける。

「はーい。」

 考え過ぎても仕方ない。

 織姫あののことは、ゆっくり解決していこう。

「あっ、そうだ。少し遠回りして部室に寄ろう。」

 今は、少しでも他事で頭を埋めつくしたい。

 ちょっとした現実逃避だ。

部室ここへ来るのは、久々な気がする。」

 ドアに手をかける。

 まあ、鍵も持ってないし開くはずはない。

 ただ、通りすがるだけのつもりだったし。

 ”カラカラッ”

「あれ、開いてる??」

「こんばんは。初めまして、鶫屋ソラ先輩。」

 誰だ、こんな時間に部室にいるなんて。

 月明かりに照らされて、は段々と映し出された。

「────朧月?」

 だが、いつもと雰囲気が大分違う。

「嫌だなぁ、先輩。『初めまして』って、言ったじゃないか。私は月子じゃないよ。」

 彼女は、微笑する。

 でも、立っている彼女は容姿も声も、紛れもなく朧月。本人だ。

「おちょくるなよ、朧月だろ?」

「んー、は月子と共有してる。でも、は違う。」

「どういう事だ??」

「別に、1つの体に対して1つの魂・・・じゃなく、1つの体に対しての魂があるって事かな。」

「多重人格って事か?」

 彼女の話が、分からない。

「正確には、『1つの体に複数の魂を入れた』。けれど、今はそう考えて差し支えがないよ。」

 多重人格?

『1つの体に複数魂を入れた』??

 聞けば聞くほど、彼女の話は訳が分からない。

 でも、今ハッキリさせないといけないことは分かる。

「じゃあ、君は誰なんだ。」

「紹介が遅れたね。私はおぼろとも使。よろしく。」

 彼女は、嘲笑う。

 ・・・えっ?魔法使い??

「・・・朧月、先輩をからかうのもいい加減にしろよ。」

 魔法使いなんて、信じられるわけがない。

 いくら何でも、話が飛躍しすぎだ。

「まあ、流石にそうなるか。いいだろう、今日は挨拶だけのつもりだったし。」

 彼女は、呆れた顔した。

 俺の理解力が悪いのがいけないのだろうか?

「────『朧朋』は、月が3つ。現実では有り得ない、まさに霞んだ月。先輩は、に手が届くかな?」

「どういう意味だ、朧!?」

「朋でいいよ。じゃあ、またね。」

 彼女は、一瞬で消えてしまった。

の魔法使いかよ。」

 全く訳が分からない。

 織姫のこと。

 朧朋のこと。

「・・・っなんなんだよ!!意味わかんねぇよ!!!!」

 叫ばずにはいられなかった。

 ────今日、唯一分かったのは、『久々に見る星空は妙に明るく、綺麗だ』ってことだけだ。

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