第3話顔合わせ。

 やっと、放課後だ。

 小学生の遠足の前日みたいな待ちきれない気持ちは終わり、高揚感へとシフトしていく。

 昼休みにタイミングが悪く会えなかった織姫に、やっと伝えられる。

 新入部員も紹介できる。

 廃部を逃れられる。

 部室に向かう足取りは、自然と早くなる。

「・・・ハァハァ。よぅ、織姫。」

 息を少し切らし、部室のドアを軽快に開ける。

「どっ、どうしたの?そんなに息切らして・・・。」

 心配そうに織姫は見つめる。

「・・・ぃんっ、新入部員っ!俺たち、後輩ができるんだ。」

「えっ?」

 驚嘆して、固まっている。

「・・・そっ、そうなんだ。へぇ~、本当に叶っちゃうなんて!お星様、様様さまさまだねっ!!」

「喜び過ぎだ。気持ちは分からなくもないけどさ。」

「その新入部員さんは・・・どんな子なの?」

「あっ!それは、もうそろそろ来るはずだ。」

「あの~、鶫屋先輩。」

 噂をすれば何とやらだ。

 そのとやらは、俺の後ろに隠れるように立っていた。

(まあ、小さいのもあるけど。)

「・・・えっ、女の子なの?」

 織姫は、苦虫を噛み潰したような顔をしている。

 言っていなかったから、困惑するのも当然か。

「そうだよ。1・Sの朧月月子さんだ。」

「・・・どうも。」

 朧月は、俺の後ろにこそこそ隠れる。

 教室に来た堂々とした彼女は何処、行った??

「私は、天道織姫。一応、副部長。よろしくね。朧月さん、S組って特進でしょ?凄いね。」

 優しく声をかける織姫。

 織姫が居て良かった、俺だけなら絶対会話続かねえよ。

「・・・別に。」

 彼女は、相も変わらず素っ気ない。

「どうして、天文部に入ろうと思ったの?」

「それは、俺も気になるな。」

 2人の視線が朧月に向けられる。

「鶫屋先輩が────っから。」

 上手く聞き取れなかった。

「えっ、俺が?」

「っ~、暇だったから。」

 なんとも、彼女らしい回答のように感じる。

「「なっ、なるほどねえ。」」

 相槌が被った。

 織姫も同じ気持ちなのだろうか。

「・・・・・・。」

 長い沈黙が生まれる。

 いかん、何か言わなければ。

「まあ、今日は空も曇ってるし、もう解散にするかっ?」

「そうだねぇ」

 ほのぼのと返事をする織姫。

「・・・次。」

「えっ?」

「次いつ?」

 いつもの調子で解散にするところだった。

 お互い適当に来てる感じだったからな(織姫は基本、俺が行くといつでもいたが)。

「ん~、じゃあ、次に晴れた日だ。基本的に晴れた日が部活活動日だ。」

「・・・分かった。」

 朧月は納得し、そそくさと帰る。

「・・・分かった。ソラ君が言うなら仕方ないね。」

 織姫は、悲しそうに俯き部室を去った。

 俺の判断に間違いはなかった。

 何しろ天文部なんだから、星が見えない日に集まっても意味ないじゃないか。

 『────間違ってないはずなのにっ。』

 俺は、しばらく立ちすくんでいた。

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