第2話小さな夢なら叶うはず。

 昨日の帰り道、織姫は何も言わなかった。

 ただ、星が降りやんだ静寂な空を眺めるだけだった。

 その横顔は、言葉では表せない想いを抱えていたに違いない。

 ・・・彼女は、何を想っていたのだろうか?

「おはよう。」

 元気半分に挨拶をこなし、教室へと入る。

 勿論、座る前にお隣さんの挨拶を忘れない。

「おはよう、宇美。」

「・・・・・・。」

 返事はない。

 まあ、いつもの事だが・・・。

 昨日の現国のような『助け舟』の方が珍しい。

「はぁ~。」

 少し長い溜息をく。

 窓から空を見上げる。

 今日は雨降るかな。

 厚い雲で覆われ、太陽の光を完全に遮っている。

 放課後でも、今日は星は見えそうにない。

「・・・ねぇ、昨日のっ────。」

 隣から、1年に1回目あるかないかの話が振られた。

 しかし、その話は会話する間もなく終了を迎えた。

「あの~、鶫屋ソラ先輩ですか?」

 ”・・・ざわ・・・・・・ざわわ。”

 クラスメイト達は、俺と目の前で仁王立ちしている彼女に釘付けになっていた。

 それも、その筈だ。

 いくら高校うちの規則が緩いからって、一瞬でと分かる。

 水色の艶のあるショートカット。

 澄んだ紫の大きな瞳。

 赤色の大きなヘッドホン。

 少し着崩したブカブカな制服。

 ヘッドホンや服のせいか、小さく目に映る(実際に小さいし、幼い)。

 それら全てが異質な存在に感じさせる。

「そ、そうだけど。君は?」

 あまりの事態にどもってしまった。

「私、1・Sの朧月おぼろづき月子つきこ

 彼女は、俺に一枚の紙を見せた。

『天文部。部員募集。興味のある方は、3・A鶫屋ソラまで。』

 彼女がここに来た理由がなんとなく分かった。

「もしかして、入部希望者?」

「…そう。見てわかるでしょ。」

 一応の確認というやつだったが、そんな野暮は言わない。

「ありがとう、来てくれて。詳しいことは放課後、天文部に来てくれないかな?もうそろそろ授業が始まるから。」

 ”キーンコーンカーンコーン”

 予鈴が教室に響く。

「…分かった。」

 彼女が帰ると、教室の異質な騒めきは授業に向けて霧散むさんした。

 反対に、俺の心の騒めきは、高鳴る一方だった。

『早く放課後にならないかな。』

 そんな思いを抱きつつ、空を見上げる。

「宇宙ゴミにしろ、願ってみるもんだな。」

 少し笑みが零れる。

「続きは、鶫屋!鶫屋っ!!」

「すっ…すみませんっ。」

「……。」

 助け舟は聞こえない。

「何やっとるんだ。もういい、早乙女、代わりに頼む。」

「…はい。『どれだけ悔やんでも、もうあの頃には戻れない。彼女が愛していたこの街に別れを告げなくてはならない。僕は最後にメロンソーダを飲む。…』」

 知ってたなら教えてくれれば良かったのに。

 さっきから不機嫌そうに、隣から睨まれている。

 今日は、下手に触れない方が良いのかもしれない。

 ―――何にせよ、早く織姫にも伝えなくちゃな。





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