第12話(最終話)

「ん…」


体を起こすと、寝ぼけたままの目をこする。


「んん〜、よいしょっと」


伸びをするとベッドから降りる。


「ん、おはようシャル」


机の上に置いてあるフィギュアは当然ながら返事などしない。

でも何となくいつも話しかけてしまうのだった。


「ってもうこんな時間!?やばっ!!」


慌てて支度を整えると、家を飛び出した。



プシュー


電車のドアが開くとともに僕は電車を飛び降りた。

そのままダッシュで改札を抜ける。

目指すは自宅。

カバンを落とさないようにしっかりと胸に抱きしめる。

だってこの中には大切なものが入ってるから。

休むことなく自宅のドアの前までやってくると、はずむ息もそのままで鍵を開け、飛び込む。


——なんか、懐かしい感じだな。


そのまま廊下を突っ切ってリビングに通じるドアを開け放つ。


「……シャル!」


部屋の中央に置かれた机の上、そこに1人の少女が立っていた。

少女がゆっくりと振り返る。


「さつき、ただいま」


少女が微笑んだ。

そして、泣いていた。

ゆっくりと、暖かいなにかが心の中に広がって行く。

まだ半分夢の中にいるような感覚の中で机に近づく。

そして、少女と手が触れた瞬間、これは現実なんだ、そう実感できた。


「…お帰り!」



「いや〜、まさか、さつきが漫画家になるとは思わなかったよ」

「うん、自分でも全く考えてなかったからね」


シャルと別れてから、僕はかおりさんに無理を言ってアシスタントとして雇ってもらい、一生懸命絵の勉強をした。

そして、努力が叶って、この間賞を受賞することができたのだ。

もちろん主役はシャルだ。

今日は出版に関する打ち合わせがあったと言うわけ。

それもだいたい順調にいって、出版が確定した。

それで、もしかしたらと思っていても立ってもいられなくなって、走って帰ってきたら—


「ん?どうしたの?」


僕の視線に気づいたシャルが首をかしげる。


「なんでもない。…また会えて嬉しいなって」

「私もにゃ!…さつき、ありがとう。」

「こちらこそ、ありがとう。」


僕らはお互いに見つめ合うと、


「これからも、よろしくな?」

「もちろんにゃ!」


一緒に笑い合った。

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異世界最強少女は現実を知る さーにゃ @elsy

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