第11話

「かおりさん、いい人で良かったね」

「うん!」


肩の上のシャルと顔を見合わせて笑う。

かおり宅からの帰り道。

あの後、おしゃべりをして、飲んで(僕はコーラだが)、騒いで楽しい時間を過ごした。

3時ぐらいにかおりさんが潰れてしまったので、布団をかけて、手紙を残して抜けてきたのだ。

もうみんな寝てしまったのだろう。

通りはしんと静まり返っている。


「かおりちゃん、ちゃんと覚えていてくれてよかった」


そう言うシャルの顔は本当に安心して、嬉しそう。


——そんなシャルを見ていると、こっちまでほっこりしてくるな


「そうだな」


そのまま少しの間、会話なく歩く。

決して不快な沈黙ではなく、お互い話さなくても分かり合えるような、そんな心地よい沈黙だった。


「…さつきも、本当にありがとう」

「そんなしんみりするなって。まだ時間あるだろ?」

「うん、そうだけど…」

「あっ!そうだ、シャルって瞬間移動って使えたりするの?」

「にゃ?急に何で?」

「いや、ほら、水族館の時、水槽の中から出てきたろう?」

「ん、できるよ」

「遠くてもいける?」

「もちろん!」

「僕も連れて?」

「いけるよ!…さつきは私を誰だと思ってるのかにゃ?」

「そりゃあ、ねぇ…」

「「『最強』のシャルルリエ・フェーリエ!」」


僕らは顔を見合わせると再び笑った。


「最後に、色んなところ、見て回らない?」

「行く!」

「じゃあ、こんどは頼んだよ、シャル!」

「任せてにゃ!」


「「れっつごー!」」



「いや〜、楽しかったね〜」

「うん」


深夜なので中に入ったりはできなかったけど、空を飛びながらの観光はなかなか楽しかった。


「さすが、シャルだな。空も飛べるなんて…」

「むふ〜」


シャルは胸を張ると、ここぞとばかりにドヤ顔。


「さつきにもいろいろお世話になったしね、たのしんでもらえたならよかったよ」


そう言うとシャルは僕の隣に腰掛けた。

そのまま静かな時間が流れる。

眼下には、昼とはうって変わって、静かに眠る町の姿があった。


「…そろそろ、お別れかな?」

「…そうみたいだね」


シャルの体が透けてきていた。

他の方からゆっくりと全身に広がって行く。


「もっと一緒にいたかった」

「もう、それはなしにゃ。期限は1日、そうでしょ?」


シャルは僕の方に飛び乗ると、人差し指を唇にあてる。


「本当に、さつきのところに来れてよかった」

「2回目だな」


僕は小さく笑った


「それぐらい嬉しかったってことにゃ」


そう言うとシャルも笑った。


「また会える?」

「いつかね。…さつきの中に私の居場所があるのなら」

「それなら、きっとまた会えるな」

「ありがとう」


そう言うとシャルは笑った。

出会った時と同じ、あの微笑みで。


「ありがとう」

「——」


シャルが消えた。

ただ、水平線から昇る朝日が誰もいない空間を照らしていた。

しばらくそこに立ち尽くした後。


「…帰るか」


——なんか、無性に人に会いたくなってきた。


シャルのおかげで、どこか変われたような気がした。

僕は朝日に向かって、初めの一歩を踏み出し—


「…どうやって降りればいいんだ〜〜!!?」


スカイツリーの展望台の上からの叫びは、今起き始めた街に吸い込まれて消えていった。

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