第9話

「ちょっと待って!たいむ、タイムっ!あああっ!!」


画面に映し出される、『K.O.』の文字。

あの後レストランで夕食をとって家に帰ってきた僕たちは、ゲームをして遊んでいた。


「むう…こんなのでで勝てるわけないじゃんかぁ!!」


そう言うと、目の前のコントローラーをバシバシ叩くシャル。

サイズ的に、ちょっとした机みたいになっている。


――まあ、そりゃボタン押しにくいだろうなぁ…でも、


「勝てるって言ったの、シャルさんじゃなかったっけ?」

「むう…分かった!これでやる!シャルが勝つまでやるんだからね!?」

「はいはい」


しばらくカチャカチャと、コントローラを操作する音だけが室内に響いて――


「にゃあぁ~~~~!!負けたぁ~~!!——もう一回!」

「望むところだ」

「『——』!!」

「……あっ!?」


シャルが呪文らしきものを唱えた瞬間、僕のキャラが一気に画面端へと吹き飛ばされて、HPゲージが半分ほど減った。


「シャル!なんか魔法使っただろ!」

「ん〜?ちょっと時間を止めただけだよ〜?」

「はあっ!?そんなんチートだろっ!?」

「勝てばいいんだよ〜」

「なっ!?…見てろよ!」


——そうは言ってもプレイ時間が違う。ゲーマーの力を見せてやろう!


「なあぁっ!?」

「惜しかったね~」

「そんなの聞いてないにゃ〜!」


――いや、ほんと危なかったんだけど…さすがに才能がすごいな…


「もう一回、もう一回!」


――こりゃ徹夜モードかな…まあいつものことだけど…


「分かったから、ちょっとタイム!先風呂入って来るから…」


そういうと僕は、コントローラーを置くと立ち上がる。


「え~!?」

「まあまあ、一人でやってて」

「…わかった。早く出てきてよ~?」

「りょ~かい。」


返事をするとリビングを出た。


    ☆


「お待たせ〜…あれ?」


お風呂から上がってきてみると、リビングには誰もいない。

コントローラーは投げてあって、画面もゲーム画面のまま。


「どこ行ったんだろ?…トイレかな?…ご飯でも漁ってるのかな?」


そう思って家中いろいろ探して見たけど、どこにもいない。


「全く、どこ行っちゃったんだ?」


——まあ、シャルのことだから事故にあったりとかはなさそうだけど。…いや、むしろ事故を起こしそうなんだけど!?


「待つしかないよな…」


仕方がないので僕は机の前に座ると、その、上に置いてあったスマホを手にとって——


「ん?」


画面にはなぜか地図アプリが起動されていた。


「どこだここ?」


しかも全然知らない場所。


——なんか怖いな…


そんなことを考えながら、ホームボタンを押すと、SNSアプリ『青い鳥』までもが起動されていた。

しかも、表示されているプロフィールはこれまた知らない人で。


「誰だ?…瀬戸田香織?…職業:漫画家…煮詰まったので気晴らしにお絵描きしてみました…?まあ、上手いけど…それがどうって…」


そのままなんとなくスクロールして——


「なっ!?」


これもお絵かきをツイートしたもの。

でも、そこに写っていたのは、


「これ、シャルじゃんか…」


満面の笑みを浮かべる、さっきまでここにいて一緒にゲームをしていた少女だった。


「『連載終了で寂しい』…?…あっ!!」


僕の脳裏をよぎったのは、今日の朝、シャルが浮かべた寂しそうな顔だった。


「そうか!確かかおりちゃんがどうとかって…」


つまり、これを開いたのはシャルで、住所を特定した彼女はかおりちゃんに会いに行ったということだろう。


「でも、なんのために?…もしかして!」


「私は自分たちの世界に住んでいたかった」

「死んできた」そして『連載終了』。つまり、新たな世界が生み出されなくなって、生きる世界を失った彼女たちは死んだも同然ということ。

そしてシャルのあの悔しげな表情。


「まさか…」


——復讐しに行ったとかじゃないよな…?いや、流石にそれは考えすぎか…そうだよな、ちょっと挨拶に行って懐かしい話をして…とかそんな感じだよな…でも…


考えれば考えるほど想像は悪い方へと向かう。


「どうしたら…」


血まみれの女性の前に立ち尽くす少女。

その手には血に染まった感が握られていて。

その光景が頭に浮かんだ瞬間心は決まった。


「止めに行かないと!」


最小限の準備だけ整えると、僕は家を飛び出した、










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る