第6話

「いや〜、楽しかったね〜」


僕の肩に腰掛けたシャルが言う声はとても満足そう。


「そりゃあ良かった」


そう返しながらポケットからスマホを取り出すと、時間を確認。

液晶画面に映し出された時刻は、2時をちょっと過ぎたところだった、


「ん、まだ時間あるけど、どうする?」

「どうすると言われてもにゃ〜、さつきが決めていいよ」


のほほんとした顔で答えるシャル。


「どうすっかな…」


ー最近の男女はどこに行ってるんだ?…そうか!


僕はシャルが肩に乗ってるのとは別の手でスマホを取り出すと、Google先生を起動。


ーーデートスポット、おススメっと…


出てきたサイトのうち一番上のものをタップ。

どこぞの雑誌の会社が開いているサイトらしく、トップには『100人に聞く人気スポットランキング!』の派手な文字が踊っている。


ーー100人って微妙だよな…


そんなことを考えながら画面をスクロール。

『第3位 高級レストランでディナー』


ーーうん、却下だな。なぜかって?財布がもうだいぶ軽くなってるからな。


『第2位 夜景の綺麗な高級ホテルでディナー』


ーーうん、却下!理由は同上!


『第1位 高級リゾート地でディナーー」


ーー却下!論外!…てかどんだけディナー好きなんだよ!?しかも全部『高級』って付いてるし!聞いた人間違えてんじゃ無いのか!?それ、男カモられてる可能性大じゃ無い!?


僕は画面を落とすと、自分で考えることにした。


ーーうーん、まあベタなところで行くと映画とかか?でもそれだとわざわざ3次元に来た意味が…


「どうかした?さつき、顔が怖いよ?」

「え?」


横を見ると、こちらを覗き込んでるシャルと目が合った。


「いや、どこがいいかなと思って」

「それ、さっきも言ってたね〜」

「うっ…」

「まったく、ゲームばっかりしてないでもっと外に出ないとダメだよ?」

「はい…」

「ほら、私はどこでもいいから、思いついたとこ、言ってみなよ」

「ん〜……水族館とかはどう?」

「とは?」

「いろんな魚が見れるとこ、かな?」

「それはすごい!行きたい!」


身を乗り出して、目をキラキラさせているシャルに、ちょっと安心して


「じゃあ、行くか!」

「うん!」



僕は悩んでいた。

そんな僕を、不思議そうにみながら人々が通り過ぎて行く。

僕が今いるのは、駅の改札にある自動切符売り場の前だった。

急がないと後ろに人がたまって行く。


「さつき、早く〜」


耳元でシャルが急かすが、僕の中でまだ結論は出ていない。

別に行き先に迷ってるわけじゃ無い。

一番近くの水族館とその最寄り駅はスマホがあればすぐ分かる。

そんなことより、僕が悩んでいるのはーー


「シャルの運賃は払うべきなのか?」


ーーシャルは年齢的には大人料金を払うべきだろう。でも、この表示…『小人』…これが引っかかる。…要するに小学生以下ってことだが、そのままの意味で取ると…小さい人…つまりシャルはこの中に入るのか?というかそもそも切符がいるのか?


「ほら〜、人がたまってきたよ〜」


後ろを見たシャルが報告してくる。

悩むんなら大人2人分払えって?

それが水族館のとこまで行こうと思ったら結構な値段になるんだよ!


「ああ、どうすれば…」


僕は頭を抱えるのだった。



「はあ…」


迷った末結局大人2人分購入してホームにやってきた。

肩の上ではシャルが興味深そうに切符を眺めている。

電車もさっき行ったばかりで次のまではまだ少し時間があるようだ。


「そんなに珍しいか?」

「まあ、初めてだからね〜」

「…そうだ」


僕はシャルの持っている切符の隣に自分のを並べると、


「どうしたの?」

「ちょっと暇つぶし。ほら、ここに4つ数字があるでしょ?」

「うん」

「その4つを使ったら、必ず10になる式が作れるらしいよ」


そういうと、僕は自分の切符で実際にやってみせた。


「なるほどにゃ〜」

「シャルもやってみ?」

「うん!」


それから時間が経つこと10分ほど。


「……」

「……できた?」

「もうちょっと…ここが7だったらいいのに…」


と、ホームに電車の到着を告げるアナウンスが流れた。


「ほら、シャル、電車きたからそろそろ…」

「待って、もうちょっとで…うにゃ〜!!できない!ここが7だったらいいのにゃ〜!」

「まあまあ、電車に乗ってからも時間あるからそこで考えたら…」

「はっ、そうか、ここを7にしちゃえば…」

「ちょっとシャルさん!?」


切符にかざしたシャルの手と切符が光に包まれてーー


「待って!そこ変えちゃったらその切符使えなくなるから!早まらないで!」

「えいっ!」


シャルの掛け声とともに、光が消えて、そこには…


「できた〜!」


6が消えて7が出現していました。

ミッションクリアしたシャルはご機嫌そうに、


「ほらほら、さつき、行くよ〜!」

「うん…(泣」

「いや〜、電車も初めてだし、楽しみだな〜♪」

「そだね…」


ーー俺の電車賃があぁぁ!


心の中で叫ぶ皐月でした。



※切符は後でシャルさんがちゃんと元どうりにしました。





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