第5話+α

「シャルも、クレーンゲーム、してみる?」

「する!!」


僕が手をどけると、シャルがボタンの隣に降り立った。


「……」


そのまま首を後ろに倒してこちらを見上げるシャル。


「……やらないのかい?」

「……私、お金持ってないよ?」

「……了解。」


僕はお財布を取りだすと、百円玉タワーをシャルの隣に建設。


――まったく、こっちの世界はなんてお金がかかるんだ!!


(ゲームの中ならすぐに億万長者なんですけどねぇ…


そんな僕にはお構いなく、シャルは鼻歌交じりに100円を投入。

ボタンをポチッ、ポチッ、ボチッ、ボヂッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンバンバンバンッ…!!


「さつき!こいつ、動かないにゃ!!…こいつ、私の命令が聞けないなんて、この後どうなるかわかって――」

「いやそれ2ボタンだから!!やめてあげて!?ボタンに罪はないから!!」

「…なるほど。」


シャルは納得したように、ボタンをべしべしするのをやめて、顎に手を当てて小さくうなづくと、


「…ごめんね、さっきは乱暴にして――」


いたわるようにボタンに手を置いて、


ポチッ


「へ?…ああっ!!待って、そこじゃな――ああ…」


全く見当違いのところで止まらアーム。


「むぅ…さつき、パス!」

「…無理。」

「だったら私が魔力を使って動かす――」

「…はいはい」


――それ直接プライズ動かしたら早くない!?


心の中で突っ込みながら僕は適当にアームを下ろす。

空をつかんだアームは再び元の場所へと戻ってきた。


「ほら、もう一回やってみ?」

「ん。……よし!次は……やった!」


どうやら今回は思い通りに行ったようで、確かに箱の側面すれすれにアームが下ろされている。

張り付いて見るシャルの前で、アームがゆっくりと上昇して――


するっ


側面をなでていきました。


「「……」」


「クレーンゲームも意外と難しいんだね……」

「まあ、やっぱり慣れるまではそうなんじゃないかな」

「かくなる上は…」

「かくなる上は?」

「(中に)行ってくる!」

「だからダメだって!!」


      ☆


「ん~、他になんかいいものはないかな~っと…あれとかどう?」


僕が指さしたのは、昔ながらの、あのワニをハンマーでたたくやつだ。


「ん?どういうやつ?」

「えっと、あっこの穴の中からワニが――」

「クロコダイル!?」

「違うよ!…とにかく出てくるから、それをたたくゲームなんだけど、どう?」

「やるに決まってるのだよ!…この私に倒せない敵などいない!!」


そういうと、ゲームの台に華麗に着地。


「さあ出て来い、クロコダイル!!」


――だから違うんだけどな~…まあ、そうかもしれないけど。


そう言うとシャルは剣を構えて――


「わ、待って、シャル!!剣はダメ!だめだから!!」

「なんで~?倒すんでしょ?」

「いやまあそうだけど…あれじゃない?倒しすぎると後始末がめんどいというか…」

「それもそうだね…血が流れると始末がめんどくさい」


うなづきながら剣をしまうシャル。


――いや、それ怖すぎるんだけど…


「じゃあ、これ、代わりに。」


僕は代わりに、専用のハンマーを渡す。


「ん?ちょっと柔らかすぎない?」

「まあまあ、そんなもんですよ」


パフパフしながら眉をひそめるシャルさん


「ふぅん…まあ、私の力にかかればこれでも粉々だけどね!!」


――すっごい嫌な予感がするんだけど?…それ僕が流血(金)沙汰になんない?


「優しくだよ?」

「うん、シャルさんに任せなさい!!」

「うん…」


僕は一抹の不安を抱えながらも100円を投入。


「さあ、こい!」


シャルがハンマーを構えて、緊迫の瞬間が訪れ――


「動かないよ?」

「動かないね?」


ワニさん、どうやら冬眠中だったみたいです。


と、シャルがワニのほうに近付くと、ワニに背を向けてこっちを振り返り、


「ほら、さつき、ワニさん私の迫力におびえて出てこないんじゃないかな?」


胸の前で腕を組んで、どや顔。


「ん、そうかもな~」


僕は、返却口から発見した100円玉を取り出しながら答える。

ちゃんと投入されていなかったらしい。


「うんうん、やっぱりシャルさんは最強ですからな~」

「そうだね~」


と、いうわけで、再投入。


ちゃらら~♪


機械音が鳴り響いて、


「にゃにゃっ!?」


びっくりしたシャルが降りむいて――


ぱくっ


――あれ、なんだろう。この光景どこかで見たことがるような…


「ってシャル!?大丈夫!?」

「もごもご~!!」

「あ、ちょっ!まって!」


ワニさん、シャルを咥えたままねぐらの中へ


「もごもご、もごもご~!!…ぷはっ!!」


と、じたばたしていたシャルが、やっとの思いで脱出。


「おまえ~!!許さん!」


ワニさんから飛びのいたシャルは、背中の剣を抜くと構えました。

その件に暗い炎がともって――


「うにゃーーー!!」

「やめろーーー!!」



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