第2話 トカゲぷかぷか

「そうだな……」


 俺の横に座っていたビートに馬車の操作を教えてくれと頼んだら、彼は暫く考えると無言になった。

 その様子に訝しんで横を向いた途端……。


「ヘクショイ!!」

「…………」


 ……このクソ爺、俺に向かってくしゃみを飛ばしやがった。

 手で口を覆う最低限の礼儀すらせず人の顔に向かってくしゃみをするのは、どう考えても喧嘩を売っているとしか思えない。


「風邪でもひいたか? 肺炎になる前にクタバレよ」

「うむ。すまん」


 顔についた唾を袖で拭きながら抗議をしたが、どうやら嫌味は聞き逃されたらしい。

 ビートはハンカチで鼻をかむと話を始めた。


「それで俺が馬車ギルドを辞めて個人経営を始めたのはな……」


 ……おかしい。俺は馬車の操作を教えてくれと頼んだだけなのに、この野郎は何故か独立した理由を話し始めた。


「ある日、大口の輸送を終えて八人全員で飲んだんだ。そんで、その時のリーダーがゲイでな……」


 ……そして、忘れてはいけない。この野郎はバイセクシャル。

 LGBDなんて穴さえあれば男でも女でも構わん! という考えの持ち主だ。


「そいつが突然、俺のケツを撫でやがったんだ。その時、俺はピンと来たね。コイツは狙っていると……」


 ……分からない。その話が馬車の操縦とどう結びつくのか、俺には分からない。


「まあ俺もその時は酔ってたからコイツでもいいやと思って、連れションと言って2人で席を離れたんだ。それでいざヤろうとしたら、ソイツはどうしたと思う?」

「んあ? ションベンでも飲まそうとしたか?」

「ちげえよ。俺のケツにナニを入れようとしたんだ!!」


 ビートが大声で怒鳴って来たから、俺も怒鳴り返す。


「知らねえよ、カマ野郎!!」

「カマじゃねえ、バイだ!!」


 どうしてそこにこだわる?


「いいか? 男同士でやる場合は、どっちがアレを入れるかを事前に決めるんだ」

「そんなうんちく聞きたくねえ!!」

「バカヤロウ、何も準備しないで突っ込んだら感染するぞ。洗うのを長く放置したら……目も当てられないことになる。本当だ、いいか」

「オーケー。俺は異性愛を貫こう」

「俺は自分のケツはクソを捻り出すものと決めてるから、心を許したヤツにしか許さねえ」

「厳しいセキュリティーホールだな。それと、俺には絶対心を許さねえでくれ」

「だから、マナーがなってねえリーダーをぶん殴って気絶させた後、礼儀を教えてやろうと俺がソイツのケツに突っ込んでやったんだ」


 馬車の操縦ってヤツは馬のケツにナニを突っ込めばいいのか? 間違いなく違うだろう。


「ついでに、ションベンもしたくなったから、ケツ穴にしてやったぜ。ガハハハハ」

「ははははは……」


 全然、楽しくねえよ。


「それで、スッキリしてから戻ると、残ってた全員が乱交ハーティーを始めてやがった」

「業務上の乱交パーティーか? それなら俺も知ってるぜ、チーム研修ってヤツだろ」

「研修かどうかは分からねえが、どうやらリーダーが興奮剤の薬物をメシに入れてたらしくてな。それで全員おっぱじめやがった」

「ちなみに性別は?」

「全員男に決まってるだろ」

「薬物乱交ホモパーティーときたか……それ以上のトークは、書籍化ほぼ確定でも編集者会議で落とされるぞ」

「そうだな……そろそろ終わらそう。結局、薬物が衛兵に見つかり、リーダーは逮捕されてギルドは解散。仕方がねえから退職金替わりに馬車を拝借して、一人で運送屋を始めたって訳だ」

「オーケー。今の話で世の中はクレイジーなクソってのは理解した。だけど、今の話と馬車のレクチャーがどう結び付けられているのか、それが理解できねえ」

「お前、馬鹿か? 今の話を聞いて馬車の操作が出来るわけねえだろ」

「…………」


 馬鹿と言われたけど、まともに話を聞いた俺が馬鹿だと自分でも思ったから、何も言えなかった……。




「忍法見なかった!!」


 俺とビートが御者席で無言でいたら、馬車の中からチンチラの大声が聞こえた。

 彼女もログインしたらしいが、どうやら腐女子の力作を見て拒絶反応を起こしたと思われる。


「馬に水をやるから、一旦停めるぞ」


 ビートが馬車を停めたタイミングで、御者席から逃げる様に降りると再び馬車の中に入った。


「大声がしたけど、やっぱりチンチラか」


 チンチラは目を瞑り両手を組んで、忍者が忍法を使うみたいに人差し指だけを立てながら「見なかった、今のは何も見なかった」と呟いていたが、俺が声を掛けると安堵した様子で目を開けて話し掛けてきた。


「……あ、レイ君もログインしてたの?」

「ああ、チョット馬車の中の空気が腐ってたから外に出てた。まあ外は外で狂っていたけどな」

「……? よく分からないけど、今はどの辺り?」


 先ほど俺がしたのと同じ質問をしてきたから、ニーナさんに聞いた話を伝える。

 ちなみに、ニーナさんはチンチラの大声で目を覚ましたクララをあやしに奥へ移動していた。

 アルサ? 困惑しているジンをモデルにして何かを必死に描いてるぜ。

 そして、先ほどのチンチラの絶叫から判断して、何を描いていたのか確認する必要はないだろう。


「そうなんだ。だったら夏休みの宿題でもやろうかな」

「俺も課題が大量に出てたから、手を付けないと」


 真面目なチンチラの呟きに俺も頷くと、彼女は少し躊躇いがちな様子で俺の方を見ていた。


「……何?」

「えっと、もしかしたら怒るかもしれないけど、レイ君ってなんで学校に行ってるの?」


 チンチラは遠慮していたが、その質問はよくされる。


「つまり、あと少しで死ぬから勉強する必要なんてないのに、何で学校に行っているかって事?」

「……確かに間違ってないけど、本人から面と向かって言われると罪悪感が……その、言いたくなかったら答えなくていいよ」

「その手の質問は結構受けるから平気。それで答えだけど、趣味のため」

「趣味のため?」


 チンチラが首を傾げる。


「もしかして、俺が死ななかった事を考えて勉強しているなんて真面目だなぁ、とか勘違いしてた?」

「うん。でも、違うの?」

「そんな事考えて勉強してたら、死ぬ間際に後悔するんじゃないかな? うん、間違いなくするな……」

「…………」


 俺がうんうん頷いている横で、チンチラが無言になる。


「これは持論だけど、趣味ってヤツは、たまに触れるから楽しいのであって、ずっとやってると苦痛になる」

「何となく分かる気がする」

「しかも、その苦痛が続くとアンチになって、他人の批判しかしない卑屈な野郎に成り下がる」

「そうなの?」

「卑屈な人間になっても人生楽しくなさそうだという事で、趣味に浸るよりも普段は勉強をして息抜きで趣味を楽しもうってのが俺の考え。ついでに親からの評価も上がって小遣いが増える」

「何となく分かったけど、レイ君の趣味って何?」

「エ、いや、プロレス鑑賞」


 おっと、危うくエロ動画鑑賞と言うところだった。


「確かにレイ君って戦う時、よくプロレス技とかやってるもんね」

「まあな」

「うおっ、なんだ!? 俺のケツはやらんぞ!!」


 チンチラとの会話が終わったタイミングで、外からビートの叫び声が聞こえた。

 内容はともかく切羽詰まっている声だったので、戦闘可能なメンバーで外に出る事にした。




 外に出ると、ビートが沼に引きずりこまれていた。


「ビート!! 爺が泥プロレスをしたって誰も興奮しねえぞ!!」


 泥プロレスはビキニを着たセクシーな姉ちゃんがやるから面白いのであって、爺が泥まみれになっても田んぼでズッコケた田舎者にしか見えない。


「バカヤロウ、冗談は休み休みに言え。つべこべ言わずに、とっとと助けろ!!」

「仕方がねえな。ジン、手を貸せ」


 ジンと一緒にビートの手を掴み沼から引き上げようとするが、ビートを沼に引きずり込もうとする力が強く綱引き状態になった。


「ガンバレー」


 その様子を見ていたクララが馬車から顔を出して応援しているけど、人の生死の境目で無邪気を振り舞うのはやめておけ。

 俺とジンが引っ張っている間に、チンチラがゴンちゃんを召喚すると、俺達と替わってビートを引っ張り上げた。


「トカゲしゃんだ!!」


 そして、ビートを沼から引き上げると、彼の足をしがみついているトカゲが姿を現して、それを見たクララが歓声をあげる。

 ビートにしがみつくトカゲは身長2m近くあり、全身は泥の付いた緑色の肌で覆われて、首元から胸にかけて鱗が付いていた。

 口は大きく凶悪な牙が並び、目は爬虫類特有の有鱗目が俺達を睨む。

 だけど爬虫類、お日様大好き。


「なあ、ビート。スタートレックに出てくるカーデシア人みたいなトカゲ野郎が、お前の足コキを強請ってるぞ」

「カーデシア人が何かは知らねえが、突然沼から現れて襲い掛かって来やがった!!」


 ビートは掴まれてない足でトカゲを顔を蹴飛ばすと、馬車の方へと慌てて逃げた。

 一方、トカゲは立ち上がると、口を大きく開け舌なめずりをして俺達を見る。


「そこのトカゲ、もし哺乳類と友好を結びたいと思っているなら、両手を上げてケツを振れ」


 敵か味方か分からないから忠告してみたが、トカゲが立ち上がってゆっくりと歩き始める。

 それと同時に、トカゲの背後の沼地から同族のトカゲが3体現れた。




「レイ君どうする?」


 チンチラが4体のトカゲを見ながら話し掛ける。


「どうやらコイツ等は人類に変わって、生態ピラミッドの頂点に立とうとしているらしい。二足歩行で歩くのがその証拠だ」

「つまり、戦うって事?」

「その通り。人類がどれだけの数の種族を故意に絶滅させたかを体験させてやろう」

「分かった」


 チンチラが頷く後ろでは、アルサがトカゲを見ながら溜息を吐いていた。


「こいつ等、リザードマンね。沼地に生息していて、馬車を停めると偶に襲って来るのよ……」

「襲う理由は性行為が目的か?」

「捕食よ、本当に変態ね。だけど凌辱物としてはアリかしら?」


 アルサのセリフを聞いてチンチラが両耳を押さえる。


「忍法、聞かなかった!!」

「スマン。本当にスマン。聞いた俺が馬鹿だった」


 ちなみに、謝った相手はアルサではなくチンチラ。


「…………」


 俺達の会話を聞いていたジンだったが、背中からショットガンを取り出すとトカゲに向かって構えて何時でも撃てる準備をしていた。


「ジン、撃つのはまだ早い。お前は銃の撃ち方は様になって来たけど、ショットガンの戦い方ってのをまだ知らねえな」


 ジンが首を傾げる。


「いいか、銃ってヤツは接近武器と違って、構えてから狙って撃つという3つの動作が必要になるから、接近武器としては使いづらい」

「…………」

「そして、ショットガンは弓よりも射程が短い事から中距離で戦う武器だと思え。つまり、ショットガンで戦う基本は初めに相手を油断させる事が重要なポイントとなるんだ」


 俺の話を聞きながら、ジンが頷く。


「俺が実例を見せてやるから、よく見とけよ」


 そう言うと、ショットガンを片手で持ちながらリザードマンに近づく。


「ハァイ、ジョージ」


 笑顔で友好的な態度を見せつつ左手を軽く上げて挨拶をすると、その様子にリザードマンが訝しんで動きを止めた。


YOU!! FLOAT!! TOO!!テメエもプカプカ浮かべ!!


 映画にもなったホラー映画のピエロのセリフを叫ぶと同時に、ショットガンを近距離からぶっ放す。


「ギャギャーー!!」


 不意を突かれたリザードマンは近距離からの銃撃に吹っ飛んだ。


「と、まあ、こんな感じだ」

「…………」


 俺の攻撃を見ていたジンが眉間にシワを寄せる。


「レイ君……今のは酷いと思う」


 チンチラからの突っ込みに軽く肩を竦めた。


「ゆーふろーとつー」


 そして、馬車の中ではクララが俺のマネをしてきゃっきゃと騒いでいた。




 接近距離からのショットガンを食らったリザードマンは、血まみれになりながら地面の上を転げ回っていた。


「死んでなかったか。コイツ等、結構固いぞ」

「了解。ゴンちゃんを前に出してガードするね」

「私はそうね……馬を守ってるわ」


 チンチラとアルサが自分の役割を伝えてきたけど、アルサは面倒だからとさぼるつもりらしい。

 コイツが先に言わなければ俺も同じことを言っていたので、悔しいけど何も言えない。


「ジンは遠距離で攻撃しろ。俺はアタッカー兼ジャマーになってようかな」


 ジンに命令した後、自分も鞄から銃剣を取り出してショットガンにセットする。


(ねえ、ねえ。僕の出番は?)


 戦おうとしたら、腰のテクノブレイカーが話し掛けて来た。


(今のロールは軽戦士アタッカーだから出番はねえな。あ、それと、お前はアサシンの時のア〇ル専用にしたから、普段は大人しくしてろよ)

(……え?)

(要は邪魔だから黙れって事だ)


 テクノブレイカーが何かを叫んでいるけど無視してリザードマンと対峙する。


「それにしてもデケエ口だな。ほら、その口で俺を元気にしてくれよ」


 そう言いながら、股間の左右をチョップして腰を突き上げる。

 今のジェスチャーを理解したのか分からないが、リザードマンの一体が襲い掛かって来た。


 リザードマンが両手で俺を掴もうとするのを、倒れるように体を低くして足を引掛けレッグ・シザーズを仕掛けた。

 そのまま倒れるかと思ったが相手の図体が大きく、その場に立ち止まり失敗に終わる。

 リザードマンはジロリを俺を見下ろすと、殴り掛かって来た。

 だけどその前に立ち止まったリザードマンをチャンスと見たのか、ゴンちゃんがリザードマンの胴体目がけてビックブーツで蹴っ飛ばし、相手がノックバックで吹っ飛んだ。

 相変わらずこのゴーレムはやる事がワイルドである。

 巨体形レスラーが使う蹴り技を見て味方で良かったと思いつつ、すぐに起き上がると倒れたリザードマンの肩を踏みつけ、銃剣で強引に口を開き銃口を突っ込む。


「口内麻酔のお時間です。ハイ、アーン」


 ダン!! ダン!! ダン!!


 リザードマンの口の中に3発撃ち込んでから、相手の応援が来る前に素早く離れる。

 体はビンビンの海綿体みたいに固いが口の中までは固くなかったらしく、今の攻撃でリザードマンの一体が死亡した。

 俺が倒している間、ジンは俺が最初に撃ったリザードマンを狙い、弾丸を足に当てて行動不能にさせる。

 そして、チンチラが動けなくなったリザードマンにDot系の毒の魔法を唱えて、なぶり殺しの刑にしていた。

 戦い方は地味だけど、敵を殺す事を容赦しない。フロム・ヘルは伊達じゃないと思う。


 前線ではゴンちゃんは残りの2体を相手に戦っていた。

 リザードマンの一体がゴンちゃんに噛みつく。ゴンちゃんはそれを無言で見下ろすと、左手で相手の首元を掴み右手で横っ面をぶん殴った。

 どうやらゴンちゃんは決まり手「噛みつき攻撃」を克服したらしい。

 続けざまに右腕を後ろから首に回すと、後ろに倒れてリザードマンの脳天を地面に叩きつける。


「ギャーギャー!!」


 ゴンちゃんのジャイアントDDTに、リザードマンが悲鳴を上げる。

 だけど、その隙にもう一体のリザードマンが倒れたゴンちゃんに襲い掛かった。


「失せろクズ、汚ねえツラを蹴っ飛ばすぞ。このぬるぽ野郎」


 リザードマンに向かって走り軽業スキルの『ホップ』で高く飛んで、顔面に向かってライダーキックを放つ。

 キックはトカゲの横っ面にめり込み、リザードマンが「ガッ!!」と叫んで動きが止まった。


 その間にゴンちゃんは立ち上がると、両手を高々と上げてリザードマンの首筋にモンゴリアンチョップを叩きつける。

 そして、俺に視線を向けるとリザードマンの太もも辺りを掴み上げ、左肩に担ぎそのまま後ろ向きに倒れ始めた。


「オーケー、シャッターマシーンだ!!」


 俺もショットガンを放り捨てると高く飛び上がり、空中でリザードマンの上顎を掴むと両膝を下顎に押し付け、ゴンちゃんが倒れるのと同時に俺も背中から地面に倒れた。


 シャッターマシーン

 ゴンちゃんが相手を持ち上げてフェイスバスターをするのと同時に、俺がダブルニ―フェイスバスターを仕掛ける。

 この技は高角度から落下する衝撃と膝攻撃を同時に受ける事で、顔面に大きなダメージを与えた。

 ちなみに、この技はシャムロックさんを相手に実証済みで、技を食らった彼はゲーム時間で3日間、固形物が食べられなかった。


「ギャャャャッ!!」


 シャッターマシーンを喰らったリザードマンの顎が粉砕する。


「しゃったーましーん!!」


 そして、俺とゴンちゃんのツープラトン攻撃を見ていたクララが馬車の中で大はしゃぎしていた。




 俺とジンが半死状態のリザードマンにとどめを刺して馬車に戻ると、アルサが半目になって俺がをじーーっと見ていた。


「その腐った眼で男を見るのはやめろ」

「ねえ、そこのドスケベ」

「……ん?」


 後ろを向いても誰も居らず、死体となったリザードマンが沼にぷかぷか浮いていた。


「アンタの事よ」

「もしかして俺か? そう言われたのは初めてだったから気付かなかった」

「気付いて良かったわね。それよりも、ここに来るまで襲撃なんて一度もなかったのに、アンタたちが現れて半日もしない内に襲われたんだけど、どういう事?」

「偶然じゃないのか? 俺はデブじゃねえから、モンスターを呼び寄せる腐ったハムの臭いなんざ出してないぜ」


 自分の脇を嗅いで確かめるが、別に臭くはない。


「前にお爺ちゃんが言っていたけど、異邦人にはモンスターを呼び寄せる何かがあるって言ってたわ」

「お前のお爺ちゃんって、暗殺ギルドの町会長か?」

「ギルドは解散したから元よ。それに町会長って……突っ込むのも疲れるわね……」

「まあ、あれだ。自分を神様か何かと勘違いしたプロデューサーってヤツが、コンテンツ不足を紛らわそうと突発的襲撃イベントでもしてんじゃねえのか?」

「何それ?」

「要は馬鹿な連中は他人の迷惑を考えねえって事だ……俺を見んじゃねえよ」

「迷惑な存在だとは思っているけど馬鹿とは思ってないわよ。それで、アンタ達が現れたって事は、これからも危険が発生する可能性が高くなるって事?」

「その可能性はあるな。って事でビートだけじゃ不安だから、そのまま御者席で見張りを宜しくな」


 そう言って馬車の中に入ろうとしたら、アルサが呼び止めた。


「チョット待ってよ。何、勝手に決めてるの?」

「だって、お前、馬を見張ってるだけで戦いに参加してねえじゃん。それに自分で危険だって言ったんだから、そのまま見張ってろよ」

「ぐぬぬ……」

「それと、お前って男同士が絡むのが好きなんだろ。ビートからガチの同性愛ってのを聞いてみろよ。男の下半身は原始人から何も進化してねえってのを知る機会だ」


 そう言うと、アルサが眉間にシワを寄せながらビートを見る。


「アンタホモだったの?」

「ホモじゃねえ、バイだ!!」

「ホモでもバイでもどっちだっていいわ。詳しく聞かせてもらうわよ」


 怒鳴り返すビートを気にした様子もなく、アルサが御者席に座った。


「俺はあまり喋る性格じゃねえんだがな」


 嘘つけクソ爺。

 ビートの戯言を無視して全員が馬車に乗り込むと、再び馬車が動き出した。

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