第3話 ハーレムプレイはバツゲーム
馬車に戻ると、チンチラが真剣な表情を浮かべて話し掛けていた。
「レイ君、VR病のニュース見た?」
「テレビをつければテレ東以外同じニュースしかやってないし嫌でも見るよ」
「チャック・〇リスって格好良いよね。それで、あの病気ってレイ君が掛かっている病気と同じ?」
「俺はチャールズ・ロ〇ンソンの方が好きだけどな。俺の脳みそで暴れているVR病は亜種で病原菌の癖にせっかちらしいぜ」
「そっか……やっぱり私も感染してるんだよね」
チンチラは俯きぼそりと呟く。
「実際に感染してるかどうかは最新鋭の加速装置付きのCTスキャンをしないと分からないけど、感染してるんじゃね? まあ、スキャンするにしてもあれって保険が効かないからスゲー金取られるけどな」
「いくらぐらい?」
「俺は被検体という事でただにしてもらってるけど、一回で5万は軽く超えるって」
「高いね」
「今日看護師に聞いた話だとそれでも予約が殺到しているらしいぜ。今までVR病なんて何の関心もなかった連中が自分も感染してると思った途端に焦ってるってさ。俺が思うに健康オタクってヤツは一番贅沢な趣味なんじゃねえか?」
「テレビだと直ぐに死ぬ病気じゃないって言ってたけどね」
「治療法がねえのに、調べてどうするんだ」
俺が肩を竦めていると、後ろでキャッキャッと笑い声が聞こえてチラっと見れば、クララがミニゴンちゃん相手に人形遊びをしていた。
「幸せの条件というのは、死に対する恐怖がないって事なんだろうな」
「そうだね」
クララを見ながら呟く俺にチンチラが頷く。
そして、俺とチンチラは学校から出された課題をすることにした。
休憩を交えながら宿題を粛々と終わらせていると、馬車の速度がゆっくりになった。
コンソールを開いて時刻を見れば既に17時を過ぎていて、窓の外では太陽が大地に沈もうとしていた。
チンチラと一緒に馬車から顔を出すと行く先に小さな村が見えてきた。
「今日はここに泊まるのかな?」
「かもな。襲撃するには丁度良い感じの村だし」
「……冗談だよね」
村を見ていたチンチラが俺に視線を向ける。
「
「じゃあ、この村は大丈夫そうだね」
チンチラはそう言うと窓から出した顔を引っ込めて席に座った。
この女、さらっと遠回しにこの村を貧乏と言いやがったな。
馬車は村に入ると大きな家の前に停まって、馬車の中に居た俺達は外に出た。
馬から降りてアルサを見ると、予想通り頭を抱えていた。
「ガチホモの体験談を聞いて現実を思い知ったか?」
「……BLの基本はイケメンが前提なのが分かったわ。この爺、ケダモノよ!!」
俺とアルサの話を聞いていたビートが「ケッ!!」と言いながらアルサを睨む。
「この程度でへこみやがって、まだ獣〇ネタが残っとるわ!」
うわぁ……この爺、マジでケダモノだった。
「忍法、聞かない。何も聞いてない!!」
俺の横ではチンチラが耳を塞いでしゃがみ、現実逃避をしていた。
「いらっしゃい。お泊りですか?」
俺達がNPCの荷物下しを手伝っている途中、家から10歳ぐらいの少年が出てきて俺達に声を掛けてきた。
その可愛い少年を見てアルサの目が獲物を狙う鷹の目になる。
思わず手に持っていた水筒をアルサに投げつけた。
「何するのよ!!」
水筒がアルサの胴体に当たって、文句を言いながら水筒を投げ返してきた。
「見境なしに男のケツを狙ってんじゃねえよ。理性を保て!」
水筒をキャッチしながら注意をすると、アルサが俺を睨みつけた。
「私の趣味に口を出すのはヤメテ」
「腐ったBL臭をまき散らすのをヤメロと言ってるんだ」
俺とアルサのやり取りに出てきた少年が戸惑っていた。
「……えっと?」
「気にするな性癖が腐ったサキュパスに警告しただけだ」
「サキュパスですか!?」
「安心しろ。このサキュパスは男同士の絡みを見て
「はぁ……それにしても変わった形の馬車ですね」
少年がタクシー型の馬車を珍し気に見て質問してくる。
「だろ。上に乗って村の中を一周してみるか? 自分が異常者だとアピールしながらパレードするにはもってこいだぜ」
「や、止めとくよ」
「それがいい。君は道を踏み外すにはまだ若い。それで話を戻すが、女が4人、男が3人、子供が1人だけど泊まれるか?」
「いや、儂は馬車の中で寝るから食事だけでいいぞ」
俺の話を聞いていたビートが自分は泊まらないと言ってきた。
「そうなのか?」
「この馬車を狙う馬鹿が居てな。村に泊まる時は儂が馬車の中で寝る事にしている」
「それで、何となく予想はついているが、その馬車を狙った馬鹿はどうなった?」
「翌日にはケツを押さえて逃げて行ったぞ。もう懲りて二度と馬鹿なマネはしねえだろうな」
「馬車を汚してんじゃねえよ!!」
どうやら俺は知らず知らず、ホモご用達カーセッ〇スの馬車に乗っていたらしい。
「えっと……女が4人、男が2人、子供が1人ですね。泊まれますよ。えっと男女は別々の方がいいですか?」
「俺は女性と一緒でも構わねえけど、別けてくれ」
若妻にメイドに幼女に女子高生、夢のハーレムだが、ここはジッと我慢する。
アルサ? そう言えば居たな。コイツと同室だと寝ている最中に体を弄られそうだから死んでもお断りだ。
「でしたら、二人部屋が三部屋で、お子さんも二人部屋でもいいですか?」
「ニーナさん、それでいい?」
「いいわよ」
ニーナさんに確認すると、彼女が頷いたから少年にオーケーサインをする。
「じゃあそれで」
「ありがとうございます。前金で、えっと……3gですね」
「あいよ。それと、領収書を頼む」
何故か知らんが俺が支払って領収書を頼むと、少年が首を傾げた。
「えっと、領収書って何ですか?」
少年は領収書と聞いて首を傾げる。しらばっくれてるわけではなく本当に知らない様子だった。
どうやらゲームを作ったイカレ野郎は中世ヨーロッパの田舎には領収書がないと思っているらしい。
「……とりあえず便所の紙でも生理用ナプキンでも何でもいいから、3gとこの店の名前を書いて俺にくれ」
「分かりました、待っててください」
そう少年は言い残すと、家に入ってすぐに戻って来た。
「はい、領収書です」
少年はそう言って俺に生理用ナプキンを渡す。そこには3gと店の名前の「マドリーズ」と書かれていた。
受け取ってあれだが冗談を言ったのに、まさか本当に生理用ナプキンを渡されるとは思わなかった。
どうやらこのゲームを作った変態野郎は、中世ヨーロッパに生理用ナプキンがあると思っているらしい。
「……レイ君」
横に居たチンチラがジト目で俺を見る。
公然の場所で生理用ナプキンを持つ男が居たら、俺でもソイツは変態だと思うだろう。彼女の行動は間違っていない。
「……使う?」
「……バカ」
「そこで、そのセリフを言うアンタがマジで凄いわ」
アルサが突っ込み、チンチラは顔を真っ赤にして先に宿へ入って行った。
俺もナプキンをポケットに入れると、彼女の後を追って宿に入る事にした。
部屋に入ってジンと二人っきりになる。
「さて、ジン。分かっていると思うが、旅先で心ルンルン気分だからと俺のナニをしゃぶったらマジで殺すからな」
「…………」
その忠告にジンが頷く。
「どうしてもやりたくなったら馬車へ行け。ビートが馬車泥棒と間違って、お前を天国へ逝かせてくれるぞ」
ジンが慌てて紙に書いて俺に見せてきた。
『絶対にいかない』
「あのジジイに前立腺を刺激されても逝かねえか。まあ、この話は終わりだ。飯でも食おうぜ」
眉間にシワを寄せているジンを誘って一階の食堂に降りる。
食堂はここの村人や俺達と同じような旅をしているNPCが数人弾んだ会話をしながら食事をしていて、その中でビートが一人テーブルに着いて酒を飲んでいた。
どうやら女性達はまだ降りてきてないらしい。
「先にやってるぞ。お前も飲むか?」
「俺が飲んだら、怪我するぜ」
そう言いながら同じテーブルに着く。
「なんだ酒癖が悪いのか?」
ビートが訝しみ、ジンも席に座りながら首を傾げた。
「いや、かくし芸が野外専用なだけだ」
未成年限定、酒瓶ロケットシーフ号は室内禁止である。
「……? お前は時々意味が分からねえ言動をするな。タルを被って寝るし……」
「アブノーマルから身を守ってるんだよ」
「その行動がアブノーマルじゃねえか」
俺達が喋っていると、この宿の女将さんと思われる女性が注文を取りにきた。
彼女はまだ若く美人で、ブリュネットの髪を後ろで結わいでいる。
「いらっしゃい。今日の夕食メニューはチキンのバーブ焼きだけどいいかしら?」
「それでいいよ。あ、出迎えた少年って女将さんの息子さん?」
「ランスの事かしら? そうよ。可愛いでしょ」
俺の質問に女将さんが笑顔で答える。
「女に喰われそうな顔だよね。それで、お子さんはランス君だけなのかな?」
「女に喰われそうな顔? よく分からない表現ね。そうだけど、それが?」
「いや、何でもない。美味しい料理を期待してるよ」
質問の意味が分からず首を傾げながら女将さんがその場を立ち去った。
だけどこれで確信した。俺のポケットに入っている生理用ナプキンは彼女のだ。
「……何だよ」
気付いたら、ジンとビートが唖然とした様子で俺を見ていた。
「面と向かってナプキンの持ち主を特定するテメェに呆れただけだ」
「名探偵とはかくあるべきだね」
ビートに向かって両肩を竦めると、笑みを返した。
それから女子の全員も降りて、皆で食事をする。
食事は鶏肉の中にハーブを入れて焼いた料理とパンが出た。
一口食べたらハーブの風味が広がって、肉の臭みを消すのと同時に素材の旨味をぶっ殺す味だと思う。
もし俺がグルメリポーターだったら、間違いなく店の店長に殴られて追い出されているだろう。
「クララ、きちんと食べなきゃだめよ」
「苦いでしゅ」
お子ちゃま舌のクララがチキンを一口食べるなり、ぺっと出して苦そうな顔をするが、それを見ていたニーナさんに叱られていた。
「ニーナさん。この料理はハーブが少しキツイから、クララちゃんに合わないかも」
「そうかしら?」
その様子を見ていたチンチラからの指摘でニーナさんが顔を困らせる。
「サンドイッチならあるぞ」
そう言って、鞄からキンググレイス風サンドイッチを出す。
まあ、キンググレイス風と言っても、ミートボールが入ったただのサンドイッチ。何がキンググレイス風なのか依然として分からない。
だけどミートボールは子供のお弁当には定番の皆が大好きなオカズでもある。
ちなみに、俺の大好きな夜のオカズは……。
「そっちがいいでしゅ」
おっと、危ない。危うくR18を超えるところだった。
俺が最後まで思う前にクララがサンドイッチへ手を伸ばしてきた。その仕草が俺を性犯罪へと導く。
「オーケー、じゃあ交換だ」
「ありがとうでしゅ!!」
「ごめんなさいね」
ニーナさんが謝ったけど「気にしない、きにしない」と言って、クララの料理とサンドイッチを交換した。
クララはサンドイッチを両手で掴んでハムハム食べると、俺に向かって「おいしいでしゅ」と礼を言った。
欲望が土石流の様に溢れて理性が決壊しそうなる。
クララが食べ残したチキンはパンに挟んでサンドイッチにしてから鞄にしまった。
このサンドイッチはキンググレイスに帰った後で、性犯罪者でもあるロン毛のベド野郎に高額で売る予定。
食事後の予定は特にないので、ニーナさん達の護衛はチンチラとアルサに任せ、ビートは酒瓶を持って馬車へ行き、俺も自分の部屋へ戻ってプロレス動画でも見ようと席を立った。
もちろん、俺から離れようとしないジンも俺の後を追う。
だけど、出口近くのテーブル席に座る男女二人組の横を通り抜けようとしたら、突然、女性が席を立ち俺の腕を掴んできた。
「私、この人と結婚する!!」
「…………」
どうやらイベントに捕まったらしい。
改めて女性を見れば、年齢は二十手前ぐらい。やや金髪の茶色い毛をした美人で、服装は中世ヨーロッパの田舎娘みたいな格好をしていた。
俺も中世ヨーロッパの田舎娘なんてハードコア系の洋物ポルノぐらいでしか見たことねえけど、ファンタジー系のサブカルは適当に中世ヨーロッパと言っとけば大抵通じる。
「……と言う事で、あなたとは結婚しないわ」
女性は男性を睨みながら俺の腕に体を密着させてきた。
腕に当たる胸の感触に、豊胸とは違う生の柔らかい弾力。そう、オッパイぼよよん。
「ふざけたマネをするんじゃない!!」
「ふざけてなんていないわ、真剣よ!! ね、ア・ナ・タ」
強制イベントに捕まって文句の一つでも言おうとしたが、オッパイに負けて何も言えなくなった。
「俺たちの結婚は親が決めたんだぞ、破棄したらどうなるか分かって言ってるんだろうな!」
「もちろんよ! あなたみたいな浮気男とは絶対、結婚しないわ!!」
男性や貧乳の女性がおっきなオッパイを触りたがるのは、エロでもスケベでもなく愛情表現である。
ちなみに、女性が勃起前のふにゃふにゃオティンティンを触りたがるのも同じ愛情表現らしい。
「おい、オマエ。先程から黙っているけど、聞いているのか!?」
「……ん?」
男性の怒りの矛先が俺に替わって現実に戻される。
「ごめん、今日のログインボーナスを堪能してて聞いてなかった。で?」
俺が首を傾げると、男性が俺の胸ぐらを掴んでメンチを効かせて顔を近づけてきた。
「人の女に手を出したんだ。覚悟は良いんだろうな!!」
「ヤメテよ!!」
女性が俺から離れて男性の腕を掴み剥そうとするが、男はそれを乱暴に振り払って女性がよろめいた。
女に手を出す? はて? 何の事やら。
俺が児童ポルノ小説みたいにハーレムタグを付けて、読者ブチ切れのいちゃいちゃプレイをしたとしよう。
プレイヤー、NPC見境なしに複数人の女性を惚れさせる? まあ、俺の顔なら可能だな。
だけど、下半身。そう、俺の下半身が薬物で死んでいる。VR病が治って点滴投与から解放されない限り、俺はハーレム乱交パーティーの参加が許されねえ。
つまり、俺がハーレムプレイをしたら、それはただの罰ゲーム。
「無視してんじゃねえ!!」
「ウルセェ、クソ野郎!!」
ガン!!
男に怒鳴り返して、鼻ツラに頭突きを一発食らわした。
「グハッ!!」
不意打ちを喰らった男は俺の胸ぐらから手を離して、のけ反ると鼻を押さえる。
「テメエに俺のツラさが分かってたまるか!! 女が居るのに浮気だぁ? その……羨ましいなコノヤロウ!!」
男の目の前で両手の中指を突き立てて挑発。
すぐさま股間を蹴り上げ、男がうめき声を上げて前のめりになる。
背を向けると男の顎を肩に乗せて、尻餅を着いてスタナーを喰らわせた。
「ガハッ!!」
男は俺の体を通して襲う床の衝撃を顎に受けて仰け反ると、後ろへ倒れて気絶した。
気付くと、突然の展開に店中が静まり返っていた。
「…………」
無言で立ち上がってズボンに付いたホコリをパンパンと払ってから、口をあんぐりと開けている女性に話し掛ける。
「イベント終了でいいかな?」
「……イベント? えっと……とりあえず、あ、ありがとう」
「んじゃ、戻るわ」
「え?」
これ以上付き合うのはゴメンだと、彼女が何かを言う前にジンと一緒に食堂から立ち去った。
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