第44話 半生なきのこはどう見てもアレ

 帰る途中、馬の事を伝えるため、以前乗馬をしたロイヤルカントリーに向かったチンチラに通信チャットで連絡を入れた。

 彼女に馬が最低2頭必要だと伝えると、「1頭じゃないの?」と驚いていた事から、どうやら俺と同じゲームを考えていたらしい。


≪えっとね。牧場のオーナーさんが言うには、牧場で馬を管理するのも良いけど、他の共同厩舎に預けたり、うちのギルドハウスに厩舎を作ってからNPCの人を雇って管理する事もできるらしいよ≫

≪へぇ……俺が思うに、その牧場で管理してもらうのが一番楽じゃね? まあ、俺に決定権はないから、義兄さんに相談して決めてくれ≫


 面倒な事と責任がある事は、他人に振るのが一番楽。


≪分かった。それと、オーナーさんがね、御者を一人紹介してくれるって言うんだけど頼んで良いかな?≫

≪御者か……≫


 確かに素人に馬車をひかせようとしても難しい。

 運営もゲームだから簡略化すればよいのだが、このゲームの運営は馬鹿なのか、時々プレイヤーに無理難題を押し付けてくるから、その考えは恐らく甘い。

 ここは御者を頼むべきだろう。だけど、俺が紹介しようにも、知っている御者はブスっとしたツラでファンキーなゲイトークをするバイセクシャルな変態ジジイ。彼と同類と思われたくないから、できれば避けたい。


≪俺達だけだとログアウトしなきゃいけない時間もあるから、頼んだ方が良いと思う≫

≪了解。じゃあ、オーナーさんにお願いするね≫

≪分かった≫




 牧場のオーナーといえば、あの股間におっきなキノコを生やしたお馬様か……。


「突然、黙ってどうした?」


 チンチラとのチャットを終えて考えていると、横のロビンが話し掛けてきた。


「なあ、ロビン。長さが50cmを超えるチ〇コって、お前のあそこに入るか?」

「はぁ!?」


 突然の質問にロビンがあんぐりと口を開き、後ろからはローラさんとジンの「ブッ!!」と吹き出す声が聞こえた。


「入るわけないだろ!!」

「でも俺が前に見た動画だと、日本人の女性が黒人のぶっといナニをぶち込んでイクイク言ってたぜ。まあ、三分の二も入ってなかったけどな」

「そいつは凄えな! だけど、なんでそんな話を突然したんだ? 理由を説明しろ」


 問われて、ロイヤルカントリークラブのオーナーさんの股間にぶら下がっていた、おっきなきのこの話をした。


「つまり、お前はそのイチモツを思い出して、私にセクハラトークをしたと?」

「まあ、そういう事だ。お前って性格がガバガバだから、あそこもガバガバだと思ってね」

「……殺すぞ」


 ロビンが睨んだから、睨み返す。


「本当に死ぬぞ」


 ゲームで死ぬと現実で死ぬかもしれない俺だから使える卑怯な返しである。


「……卑怯なヤツだ」


 俺の言い返しを聞いたロビンは、呆れたようにため息を吐いていた。




 ギルドに行こうと思ったけど、義兄さん達への報告はローラさんがすればいいやと、途中で別れて自分の家に戻る事にした。


「本当はレイ君にも戻って欲しかったけど、ポーション作成があるなら仕方がないわね」

「ギルドだと作成に必要な設備がないからなぁ」

「火が必要だったら厨房で作ったら?」

「……臭うよ」

「じゃあ、今のはなしで……」


 女性は男女差別のない仕事を求めるけれど、嫌な仕事は男に押し付ける卑怯な生物である。

 ローラさんと別れたら、ジンは仕方がないとして何故かロビンが付いて来た。


「何? お前も来るの?」

「ああ、人が多いのは苦手なんだ」

「俺、知らんけど『萩の湯』ってそんなに人が多かったっけ?」

「そうだな……今は40人ぐらい居るぞ」

「おっさんが40人か……」


 ロビンが来るのは嫌だけど、俺も40人のおっさんが居座る家は臭そうだから気持ちは分かる。


「まあ、いいや。ただし、ベッドは俺のだからソファーで寝ろよ。それと、ジンとやりたくなったら、俺に聞こえないように外でヤレ」


 それを聞いたロビンが苦笑いをする。


「お前は女性に対する態度が酷いな」

「ああ(怒)?」

「紛らわしいから、わざわざ(怒)って言うな!」


 顔を顰めるロビンをジロっと睨む。


「そんなのはどうでもいいよ。なあ、もしお前がネトゲで知り合っただけの男が突然、現実の家に行きたいって言ったらどうする?」

「……断るけど、ここはゲームだぞ」

「ああ、ゲームだな。だけど俺は現実だと病院で生活していて、プライベートなんてありゃしねえ。隠れてシコろうとしたって監視の目があるんだ」

「お前はオ〇ニーをしないのか?」

「いや、見られてもシコった結果、薬で性欲を押さえつけられた」

「最低だな!!」

「ああ、最低だよ!! 無理やりさせられる禁欲ってのは、ただの虐待だ!!」


 目の前に転がっていた空き箱を蹴っ飛ばすと、良い音が鳴った。


「私が言った最低なのはお前の事だ。それで話が逸れた気がするけど、何が言いたいんだ?」

「すまねえ、つい日ごろの恨みが言葉に出た。俺が言いてえのは、現実にプライベートがないからゲームでプライベートが欲しいだけだ。それなのに何で女を家に入れる? パコパコできねえ女なんて、俺からすればただの邪魔でしかねえ」


 ちなみに、病院のVRサーバは患者一人一人にプライベートルームを設けているが、あそこは通知なしで看護師が突然現れるから油断できない。

 中学時代、発散中に「あら、成神君。若いわね」って、気づけば若くて美人の看護師に見られていたとか、ご褒美、違う、悪夢である。

 しかも、その看護師が実は代理ミュンヒハウゼン症候群で、俺を殺そうと狙っていたらしい。

 もし、姉さんが証拠を見つけていなければ俺は殺されていた。


「お前がこのゲームで一人な時の行動が予想できん」

「別に大したことはしてない。ノスタルジーに浸っているか、スピリチュアルなノリでノスタルジーに浸っているかのどっちかだ」

「どっちもノスタルジーじゃないか!」

「過去の恥ずかしい思い出やってヤツは、何時も突然舞い降りてくるんだ。仕方がない……」


 歩きながらロビンとくだらない話をしていたら、家の前に到着した。




「ジン、ここが俺が住んでいる家だ。寛ぐのは自由だが、シコって部屋を汚すなよ」

「…………」


 コンソールで入室許可ユーザにジンを登録する。

 俺のセリフにジンは何ともいえない表情を浮かべて、横に居たロビンも似たような表情だった。


「それじゃ、俺はポーションを作ってくるから」

「チョット待て」


 二人に手を上げて作業部屋に入ろうとしたら、ロビンに呼び止められた。


「何が言いたいか分かってるけど、何だ?」

「ジンと二人っきりにされても困る」


 ロビンが言うと、ジンも同じ意見だったのか頷く。


「お前、本人を目の前にしてそれを言っちゃダメだろ。デリカシーの無い女だな」

「だって、会話ができないんだぞ」

「筆談は出来るから、自分の性癖でも語ってコイツをその気にさせろ。じゃあな」

「待て!!」


 慌てるロビンを無視して作業部屋に入ると、鍵を閉めて誰も入れさせないようにした。




 まずは俺の調合スキルが上がって覚えた、ステータスアップ上昇率が中程度増える薬を作成する事にした。

 最初にリンカの実を取り出す。これはステータスアップの薬に必要な素材だが、調合すると何故かうんこ、いや、柔らかいかりんとうに変化する不思議な実でもある。

 このリンカの実に、マントリウムという鳥が出す体液、略してマン汁を混ぜると目的の薬が完成する予定なので、まずはレシピ通りに作成してみた。


 その結果、ぶにぶにするけど固いキノコができた。見た目はちんこ、どう見てもちんこ。

 何故か柔らかいかりんとうの片方にカリが付いて先っぽがチョット割れた松茸みたいな勃起おちんちんになった。もう、伏字でごまかすのもかったるい。

 もちろん俺は何も弄っていない。リンカの実にマン汁をぶっ掛けたら、勝手に形が変化した。

 これは俺が思い出した牧場オーナーのでっかいチンコが伏線だったのか? さすがにそんな伏線は俺も予想できない。


 しかもこのちんこ、前回と同様に各ステータスごとに色が異なっていた。

 筋力アップはおっきいけどぶにぶにしている白人系、体力アップはガチガチでビックな黒人系、敏捷アップは小さいけど固い東洋系、知力アップは皮に包まれた包茎、器用アップはプール上がりなのか白く縮んでいた。

 薬を作っていたつもりが、バイブを作った俺の精神が半分崩壊する。

 ゲームにリアリティを求めるのは間違っていないが、こんなリアリティはいらない。


 まあ、柔らかいかりんとうだろうが、おちんち……いや、きのこだろうが、粉にしちまえばバレないだろう。

 ということで、前回同様に乾燥させてから粉にして元の形が分からないようにした。ちなみに、粉にしている時、玉がヒュンとした。


「ロビン、チョットこれを飲んでくれ」


 調合部屋を出て、気まずい空間の中に居たロビンに筋力アップの粉を見せる。


「ん? それは何だ?」


 俺が部屋に入るのと同時に何故か緊張が解けたロビンとジンが、テーブルに置いた薬をジッと見つめていた。


「改良した筋力アップの薬だ。飲んで効果を教えてくれ」


 元が白人系のおてぃんてぃんで、女性にそれを食べさせる行為は明らかにセクハラだがバレなきゃ問題ない。


「自分で飲まないのか?」

「ああ、飲まない!」

「……そう清々しく宣言されると、突っ込めないな」


 ロビンが薬をジッと見る。


「本当に大丈夫なのか?」

「あの激辛万能薬と比べれば体に負担がないと思いたい」

「お前は最低を比較対象にしても、気休めにならない事に気付け」


 そう言ってから、ロビンは俺が用意した水と一緒に薬を飲んだ。


「味はどうだ?」

「薬の効果より先に味を聞くのか? ……そうだな……何となくショッパイような、どこかで口にした味だな……」


 まさか、ちんこの味か? しゃぶった事がないから、ちんこに味があるかは知らない。新宿で働くピンサロ姉さん、男の味を教えて。


「……ああ、思い出した。松茸のお吸い物の味だな。微妙に化学調味料が入ってるぽい感じがするぞ」


 セーフ、ギリギリセーフ。もし、ロビンがちんこ味とか言って来たら、コイツを心の中でビッチと呼んでいたかもしれない。

 まあ、今もたまに呼んでいるけど、そこは気にしない。


「なるほど……ついでに聞くけど、ステータスはどうなってる?」

「そっちがついでかよ!!」


 ロビンが文句を言いながらもコンソールを開いてステータスを確認すると、彼女は驚いて目を丸くしていた。


「筋力に+10だ。これは凄いな……」

「前回と同じなら、効果時間は10分ぐらいだけどな」

「10分なら十分だ」


 どうやら、コイツは10分で逝くらしい。感じやすい女である。


「それじゃ、こいつをポーションに入れて来る」

「チョット待て、また二人にさせる気か!?」


 後ろで声を荒らげるロビンを無視して再び調合部屋へと戻った。もう、あの女は用済みである。

 それから、一時間掛けて大量のポーションとMPポーションを作成し終えた。

 もちろん、ステータスアップの薬を入れて、体力を回復させるのと同時にステータスもアップさせる、売れば確実に儲かる薬が出来た。




 調合部屋から出ると、外は暗くなっていた。

 照明がついた部屋の中では、ジンとロビンが筆談をしていた。


「どうだ、ジン。コイツの性癖の異常性は理解したか?」

「お前は私を何だと思っているんだ?」

「……精神のどこかが異常をきたした何かのクリーチャー」

「何だそりゃ!!」


 俺の冗談にロビンが突っ込みを入れている間に、ジンが何かを書いて俺に手渡した。


「何々? 『戦い方について教わっていた』? ロビンに色気がないのは知っていたけど、本当に色気のない話だな」


 ロビンの見た目は勝気な美人なのに、何故か女性の色気というのが存在しない。


「色気が無くて悪かったな」

「別に悪いとは思ってない。本気で色気を出したかったら、股間にバイブを入れてログインしろよ。もしかしたら、色気が出るかもよ」

「誰がするか!!」

「はいはい。お前が色気を出そうが殺気を出そうがどうでもいいよ。ジン、飯でも食いに行こうぜ」

「私は誘わないのか?」

「……お前、今日はアビゲイル達と飲みに行く約束してたじゃねえか。もう忘れたのか?」

「あ、そうだった!」


 どうやら、本当に忘れていたらしい。それで、コイツと約束事を交わしても当てにできないと把握した。

 ロビンが挨拶もそこそこに飛び出て行って、その後で俺とジンはのんびりと家を出る。


『どこに行く?』

「そうだな。満員だったら別のところだけど、とりあえずジェイソンでいいか」


 店の名前を聞いてジンが首を傾げる。


「異世界と現代を融合させたタイアップという企業努力が食える店だ……まあ、行けば分かるよ」


 やはりジンは首を傾げたままだったが、それを無視して店へと向かった。




 ジェイソンの店は混んでいたが何とか席には座れた。

 俺達が席に着いたその後で、ロビン、アビゲイル、ローラさん。それに、冒険者ギルドのクロミと、おまけに虎のトラコちゃんが店に入って来た。

 そして、彼女達は席がないので、何故か俺のテーブルの相席となる。


 アビゲイルとローラさんは酒豪だと知っていたが、ロビンとトラコちゃんも酒に強く、それに付き合った冒険者ギルドのクロミは……。


「もう飲めないにゃ~~」


 と、潰れていた。

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