第42話 脇役は尺の都合を考えろ

 素材屋を出た俺達は、その足で『ヨツシー』の店に向かった。


「マリア達が居ないと思ったら、こっちに来てたのか。ベータテストの時に使っていたあの武器も良かったな……」


 ロビンがベータの時にルイーダが作った両手剣を使っていた事を思い出して、懐かしそうに言うけれど、人殺しの道具を思い出して感傷に耽るのは、一度病院に行って頭の中を精密検査した方が良いと思う。

 まあ、これから行く先にも、ロビンと同じぐらい頭のイカれたクソ女が居るわけだが……


「今度守銭狂にタックルされても、俺の服は掴むなよ」


 振り返ってジンに言うと、困った様子で頷いた。


「守銭狂って桃の事?」


 会話を聞いていたローラさんの質問に頷く。


「アイツは金を持ってる奴が近づくと理性が外れるからな」

「そうね。私も一度受けてから、ここには近づかないようにしているわ」


 どうやら、ここにも被害者が居たらしい。


「多分、うちのギルドで桃がタックルして来ないのは、シャムロックとブラッドぐらいじゃないかしら?」

「確かに冬でも上半身タンクトップ一枚で過ごして居そうなアホとか、金の価値を理解できなそうなガキは、貧乏にしか見えないからな」

「言葉に棘があるけど、その意見には同意するわね。だけど、昨日の今日でまた襲って来るかしら?」


 ローラさんが俺の返答に呆れながらも首を傾げる。


「当然来るだろ。あの女は金の匂いを嗅ぎつけた途端、理性を忘れて野生に目覚め……」

「でってい……ぐあっ!?」


 俺が最後まで言わない内に『ヨツシー』の店の扉が開いて桃が飛び出てきたが、彼女は首輪に繋がれていた。

 どうやらスピアー封じにマリアかルイーダに首輪を付けられたらしい。しかも、その首輪は以前コトカのブロックが経営している雑貨屋で、俺が切れて冗談で買った首輪だった。

 そして、その首輪から伸びたロープに引っ張られて、桃は首が絞められ後ろに転倒し、後頭部を地面に打ち付け悶絶していた。




「とうとう人間を辞めて、畜生に落ちたか……」


 見下ろしていると、正気に戻った桃が俺を見て悲鳴を上げる。


「ヒィッ!!」

「おいおい、そんな脅えた顔をするなよ。ついうっかり殺したくなるじゃねえか」

「そのうっかりで、店中を穴だらけにしたじゃない!」

「昨日はスピリチュアルなノリで調子こいた女が俺をコケにしたから、お礼をしただけだ。普段はブラジャーを付けてるから大人しいぜ」

「本当に変態ね。とりあえず話があるから中に入って」


 桃は立ち上がると、服に着いた汚れをパンパンと払い店の中に入っていった。

 ちなみに、ブラジャーの件は冗談だ。本気にする馬鹿はいないと思うが、一応言っとく。


「ロビンさん。暴れたら宜しくね」

「ああ、分かってる」


 俺の横でローラさんがロビンにお願いしていた。

 どうやらロビンが付いて来た本当の目的は、俺が暴れたら押さえるためだったらしい。




 店の中に入ると壁中が穴だらけで店頭に並んでいる商品も破損していた。まあ、やったのは俺だけど。


「こりゃ酷いな。コンセプトはポストアポカリプスか? 文明崩壊を狙った展示方法は面白いかもしれないけど、チョットやり過ぎだぞ」

「……その冗談は本当に殺意が湧くわ」

「ああ、そう思わせるようにワザと言ってるからな」

「…………」


 桃が睨んできたから、肩を竦めてケケケと笑い返す。


「客か? 今日は休業だから明日って、レイか……」


 店の奥からマリアが現れると俺に気付き、一瞬だけ顔をしかめると近くの椅子に座った。

 俺も鞄からパイプ椅子を取り出してカウンター前に座る。他の皆? 立ちっぱなしだけど、なにか?


「昨日はすまなかったな……」


 謝るマリアに首を横に振る。


「いや、お前は別に悪くないぜ。それに、そんなに怒ってもいないんだ」

「そうなのか?」


 俺の返答にマリアが目をパチクリさせた。


「ああ、昨日ブタ箱に入ってるとき、暇だったからネットでこのゲームについて調べていたんだ。正確には脱獄する方法を調べていたんだけどな」

「それで?」

「脱獄方法は見つからなかったけど、その代わりにこの店のスレッドがあってね。その内容を見たら、どうでもよくなったよ」

「……一体、何が書かれていたんだ?」


 マリアが眉をしかめたから、外部ネットに接続してスレッドの内容を読み上げる。


「えっと……『頭のおかしい店員』、『雌豚三人組』、『欲望に取りつかれたクソブス』、『性病持ちのアバズレ』、『女だからと調子こいて、殴り掛かる一歩手前の暴言と嫌がらせを執拗に繰り替えすクソ』、それから……」

「もういい……」


 俺の読み上げた内容を聞いて、マリアが首を横に振る。


「そうか? レスが300あって、その全てがお前等に対するクレームだったぞ。ちなみにスレッドはパート2になってたから、合計で1297レスだな」

「最初の1を抜いたら1298レスじゃないのか?」


 今の会話を聞いてロビンが首を傾げる。


「最後の1レスは俺の書き込みだからノーカンにしといた」

「お前も書き込んだのか……」

「別に悪口は書いてない。ただピー〇姫を縛ってク〇ボーに襲われる|AA≪アスキーアート≫を載せただけだ。まあ、〇リボーはキノコだから、それなりに卑猥だったけどな」

「それは悪口よりたちが悪いと思うぞ」

「そうか? 豚箱の中で暇だったから結構な力作だぜ」

「「…………」」


 俺とロビンの会話をマリアが無言で聞いていたが、どこか落ち込んでいる様子だった。


「まあ、煽りは俺もよくやるからヘイトプレイに関しては何も言わねえよ。ただ、一度ヘイト認定されちまうとアンチが笑いながら制裁をしてくるってのは自覚しといた方が良い。アイツ等は言葉に責任がある事など忘れて、言葉の暴力で殺しに掛かって来るからな」


 俺の姉もヘイト的な行動を取るが、あの女は他人の悪口なんて気にせず平然としている鉄の女だ。

 そして、今の発言もヘイトスピーチだが、俺も姉さんと同じで気にする性格じゃない。


「……ああ、分かった」

「……ごめん」


 俺の話にマリアが頷いて桃が謝った。


「気にするな。反撃できない相手に向かって攻撃する奴は糞以外の何者でもねえ、無視しとけ」


 俺がそう言うと、後ろのロビンがウンウンと頷いていた。どうやらコイツも炎上被害を喰らった経験があるらしい。


「それで、俺が破壊した被害額はどれぐらいだ?」

「ざっとだが、400gぐらいだな」


 俺の質問にマリアが答える。日本円にして400万か……。


「折半で良いか?」

「それで構わない」

「じゃあそれで手打ちだ」

「え? 本当に払ってくれるの?」


 俺とマリアの会話に桃が驚く。


「当たり前だろ。ただ暴れ回って金も払わず逃げたら世間のヘイトが全部こっちに来るじゃねえか。俺はお前等と違ってちゃんと考えてるんだ。アンチのクソに抵抗するには、信用を得て味方を増やすしかねえんだよ」

「つまりは自分のためなのね……」

「それがズル賢く小利口に生きる方法だバーカ。金に目が眩んで欲望に取りつかれているテメエとは違うんだよ」

「ぐっ……」

「まあ、これに懲りたら、もう少し真面な商売を心掛けるんだな。表向きは誠実に裏ではズル賢く銭を稼げよ」


 桃に答えると、この場に居る全員が微妙な表情を浮かべていた。

 交渉が成立すると、ローラさんがマリアにお金を払った。これで、この件は終わりとする。




「さて、後はジンの装備だけど、その前にルイーダはどうした?」

「アイツなら奥で作成中だ」


 俺の質問にマリアが答える。


「普段ふらふら出歩いているのに珍しいじゃねえか、生理か性病のどっちかで寝込んでいるのか?」

「いや、そのジンの武器を作成している。アイツは一度集中すると自分が納得する物が出来るまで工房から出てこないんだ」

「自分自身に魅力がないから、作品に全ての顕示欲を注ぎ込むモデラーオタクの行動と同じだな」

「レイ君。それ、ヘイトスピーチだから」

「おっと失礼、ナチュラルにヘイトが漏れた」


 ローラさんの指摘に素直に謝る。


「じゃあ、先に防具の方を見せてくれ」

「それもなんだが……」


 マリアが疲れた様子で首を横に振る。


「何?」

「桃の調子が悪くて出来てない」

「なるほど。コイツは金が絡まないと作成品の品質が上がらないからな」


 マリアがそう言うと、隣にいる桃が珍しく落ち込んでいた。

 今回は俺への賠償としてジンの装備を原価と同じ値段で作成依頼をしたから、桃も本来の調子が上がらなかったのだろう。本当に欲望に忠実な女だ。


「まあ、その通りだ」

「と言う事らしいけど、ローラさんどうする?」


 ギルドの財布の握っているローラさんに話を振ると、彼女も「仕方がない」といった様子で溜息を吐いた。


「分かったわ。原価料金ブラス20%でどう?」

「いける、いける、テンション上がって来た!!」


 利益ゼロだったのが二割の利益が生まれるんだから、そりゃテンションも上がる。


「今すぐ作るから、待ってて!!」


 桃はそう言うと、首輪に繋がっているロープを引きずって奥の厨房へと消えていった。




「正直言って助かった。昨日の件で落ち込みが半端なかったから、どうしようかと悩んでいた」

「女は男と違って精神のムラが激しいからな。惚れて結婚した相手でも、その相手がトイレを開けたままクソしていたら、離婚届を叩きつけるらしいじゃねえか」

「私は未婚だから知らないが、もしその立場だったらそうしているかもな。男は違うのか?」

「男だったら新しいプレイを誘っているのか悩むだろうけど……うーーん。やっぱりスカ〇ロは無理だなぁ……」

「……聞いた私が馬鹿だった」


 俺の返答を聞いたマリアが首を横に振ると、ローラさんとロビンも同じ仕草で呆れていた。


「ジンが来てるって本当か!?」


 突然、店の奥から汚れたエプロン姿のルイーダが現れ、ロビンを見るなり目を大きく開いた。


「ワン・ウーマン・アーミー!! 居たのか!?」

「よっ!」


 ロビンが片手を上げると、普段不愛想なルイーダが笑顔を見せた。


「丁度良かった。殺したいプレイヤーが居るから手伝ってくれ。相手は頭のイカれた奴で、声を掛けただけでこの店を穴だらけにしやがった」


 マリアは慌ててルイーダを止めようとしたが、残念ながら間に合わず頭を抱える。

 相変わらず空気を読まない女だ。俺もまさか本人を目の前にして、殺す依頼をしてくるとは思わなかった。


「ソイツはもしかしてレイって名前で、あんな感じの奴か?」


 ロビンが笑いながら俺を指さすと、ルイーダが俺を見て頷く。


「ああ、こんな感じでいつもフードを被ってって……ゲッ!? もう出てきたのか!!」


 今になって俺の存在に気付いたルイーダが顔を引き攣らせる。


「よっ! 殺るなら相手になるぜ。だけど、その前に辞世の句は考えとけよ」


 驚くルイーダに手を上げて気さくな笑みを浮かべると、ルイーダが悲鳴を上げてロビンの背中へと慌てて隠れた。


「そう叫ぶなって、別に本気じゃねえよ」


 笑いながら話し掛けると、ルイ―ダはロビンの後ろから顔だけを出して俺を訝しむ様に見る。


「本当か?」

「ああ、俺もイキってるアホと、低俗なサブカルチャーを上から目線で語るアホは見ていると殺したくなるから、お前の気持ちは理解しているぜ」

「お、おう……」

「それに、お前の突然現れて無自覚で命を賭けたボケを咬ますスタンスは嫌いじゃない。ただなぁ……やっぱり落とし前は必要だと思わないか?」

「…………」

「待て! 今のはルイーダが悪かったにしても、手打ちは済んでるんだ。もう、勘弁してくれ」


 慌てて止めるマリアに軽く肩を竦める。


「安心しな、もう暴れねえって。ただ、コイツを飲むだけで勘弁してやるよ」


 そう言うと、真っ赤な万能薬を鞄から出してカウンターに置いた。


「「「ブフォッ!?」」」


 万能薬を知っているロビン達が同時に吹き出す。ジンは何も言わなかったが、目を大きく広げて恐ろし気に万能薬を見ていた。

 そして、万能薬を知らないマリアとルイーダが眉をひそめる。


「これは何だ? 色的に危険な物だとは分かるが……」

「危険じゃねえよ。ただの万能薬だ」


 マリアの質問に肩を竦めて答える。


「万能薬?」

「ああ、ただし死ぬほど辛い……違うな、辛くて死ぬ。ついでに何故か、あたたか~い」

「レイ君。さすがにそれはダメだと思うわ……」


 ローラさんに言われて素直に頷く。


「まあ、冗談だ」


 そう言って万能薬を鞄にしまうと全員が驚いていた。


「随分と素直だな」


 ロビンの質問に軽く肩を竦める。


「出すのと同時に気付いたんだけど、飲む前ふりと飲んだ後の展開が長くなりそうだからね。俗に言う尺の都合って奴だ」

「それは、正しい判断だ」


 質問に答えると全員が頷いて、マリアとルイーダが安堵の溜息を吐いていた。




「それでジンの武器は出来たのか?」

「あ、ああ、完成している。ホラ」


 ルイーダが手に持っていた武器を俺に見せた。


「何だスティレットじゃないか」


 ルイーダから渡されたのは、俺が持っているスティレットと同じ武器だった。


「昨日、誰だか知らないがこの街で暴れたらしくて、そいつが映っている動画を見たら、この武器で相手を一撃で倒したのを見て触発されたんだ」


 その動画に映っていたのは、どう考えても俺。フードを被って顔を隠していたから、俺だと気付かなかったらしい。

 そして、渡されたスティレットを鑑定してみれば、スチール製で品質が97.9%となっていた。

 以前にマリアから聞いた話だと、品質が95%を超える品の作成率は1000回に1回ぐらいと聞いていたから、良い品なんだと思う。


「ほら、ジン、持ってみろ」


 手にしたスティレットをジンに向かって投げると、ジンは空中で柄の部分を掴んで軽く振り回す。

 そして感触を確かめると、俺に向かって頷いた。


「どうやら、ケツの穴へ刺すのに丁度良い大きさで気に入ったらしい。コイツを購入するぜ」


 ルイーダに言うと、嬉しそうだったジンが露骨に顔をしかめていた。


「ケツに入れるのか?」


 ロビンの質問に肩を竦める。


「好きでケツに入れる訳じゃねえよ。ただ、ローグってのは背後から襲う場合が多いから、武器がケツに刺さる場合が多いんだ」

「別にケツ以外の場所を狙えば良いだけじゃないのか?」

「分かってないな。目の前に誘ってる穴があったら、突っ込みたくなるのが男の甲斐性ってヤツなんだよ」

「残念だが、理解できん」

「まあ、そこが男と女の違いってヤツなんだろうな」


 俺の言い返しを聞いたジンが首を横に振っていたが、お前は誘う方だから理解できないだけだ。


「それでエンチャントはどうする?」

「俺に聞くなよ……ジン、何か欲しいのはあるか?」


 マリアからの質問をそのままジンに振ると、ジンはスティレットをカウンターに置き、メモを書いて俺に見せた。


『任せる』

「テメエは何でも人任せだな。自分の意思ってのがないのか? 受け身なだけじゃなくて、たまには激ピストンでもして女を喜ばせるぐらいの攻めを見せろよ、マグロ男」

「…………」


 俺の文句にジンが困った様子を見せるが、コイツの頑固な奴隷根性をなくさないと、いつまでも俺のケツを追い駆け回すから何とかしたい。


「まあいい。マリア、この武器に似合ったスキルを適当に付けといてくれ」


 俺も他人任せだけどな。


「……分かった」


 マリアは頷くと、スティレットを持って奥へと消えていった。




 マリアと桃が奥へ行き、『ヨツシー』の従業員で残ったのがルイーダだけになる。

 ルイーダは俺を警戒しながらもカウンターの中に入り、客である俺達を放置してネットサーフィンを始めた。


「お前って本当に接客とかしないのな」

「経営とか興味ないし、全部マリアと桃に任せてる」


 コイツは本当に典型的な頑固職人だと思う。しかも経営の出来ない、ダメな性格な方の……。

 ルイーダが金に興味のない職人。桃が金に取りつかれた職人。

 唯一、マリアが経営好きな職人で店が成り立っているけど、二人をフォローしているマリアが不憫で仕方がない。


「そう言えば、銃剣は助かった。礼だけは言っとく」


 俺が話し掛けると、ルイーダが顔をしかめて動きを止める。

 そして、そのまま考え込むと、やがて思い出したのか頷いた。


「……動画の最後の方でお前もショットガンをぶっ放していたな。あの銃の使い心地はどうだった?」

「ああ、人が撃たれて死ぬ様は見ていて楽しかったぜ」

「そうか……一度病院に行って頭の中を見てもらった方が良い」

「ご親切にどうも。だけど俺は既に病院で頭だけじゃなく全部をさらけ出してるぜ」

「今すぐ病院を変えろ」


 ルイーダが呆れていると、奥からマリアが戻って来た。


「ほら出来たぞ。アジリティを+3にして、少し余裕があったから戦闘スキルを+2付けといた」


 俺が持っているスティレットはアイアンだから、基本的なダメージは目の前のスティレットの方が高い。


「いいね。俺がロビンのケツに刺したいぐらいだ」

「ふざけんな死ね」


 俺の冗談にロビンが抗議の声を上げる。


「もし店に出すなら、80gぐらいはするだろうな」

「それで、ジンに売る価格は?」

「そうだな……原価の二割増しだから、エンチャント料込で54gってとこだ」

「まあ、そんなものか……防具が出来たら一緒に払うよ」


 俺とマリアの会話が終わるのを見計らって、ロビンが話しかけてきた。


「しかし、随分と高い包丁研ぎだな」

「やっぱり、一度だけコイツをケツの穴に入れてみるか? ア〇ルバ〇ブも鋭かったら武器だって理解するぞ」

「ただの冗談だ。私は突き刺し系の武器は専門外なんだが、コイツは武器として使えるのか?」

「固い敵。特に甲冑を着ている敵には有効だぜ。力がなくても関節部分の隙間を狙って刺せば、体の奥まで刺さるからな」

「なるほどね」

「まあ、俺はそんな敵と戦ったことねえから、適当に言ったけど」

「聞いた私が馬鹿だったよ!」

「ああ、知ってる」

「…………」




 ロビンを冗談で黙らせたら、奥から悔しそうな顔をした桃が戻って来た。


「なんだ? うんこをしようとしたら、ガキが生まれたような顔をして。いくら便秘気味だとしても、膣とケツを間違えたら、将来子供が泣くぞ」

「本当、ナチュラルにクソね。その性格が冗談に滲み出てるわよ」

「真性クソ女に言われるとか、俺はもうお終いだな。それで、ヒデエ顔の理由は何だ?」

「……ゲームを始めてから、初めて品質100%が出来たのよ。しかも、何故か5連続で全箇所の防具が!!」


 桃の返答を聞いたマリアとルイーダが仰天して、俺は「なるほど」と頷く。


「原価二割で売る条件なのに、良い品が出来て悔しいんだな」

「その通りよ。本当だったら高く売れる品なのに!!」


 桃が目じりに涙を浮かべて、悔しそうに言い返してきた。

 その様子に片方の口角を尖らせて嘲笑う。


「ざまぁ。それで、どんなのが出来たんだ。見せてみろよ」


 催促すると、桃が渋々と作った防具を出した。


・頭  シャークレザー(黒)

・胴  シャークレザー(黒)

・手  シャークレザー(黒)

・脚  シャークレザー(黒)

・足  シャークレザー(黒)


 サメ肌か? BBクリームをチューブ一本飲んでおけ。


「サメの皮って防具になるのか? 生臭そうだな」

「私だってわさびおろしぐらいしか知らないわ。だけど、それ以前に皮の防具の自体がフィクション的な存在じゃない。誰か現実で皮の防具を見た事ある人って居る?」


 俺が突っ込むと、桃が言い返して周りに尋ねるが、全員が首を横に振った。


「でしょ。ファンタジーで素材について考えても無意味よ。素直に受け取っときなさい」

「へいへい。マリア。これもエンチャントを頼む」

「分かった。その前に、銘は如何する?」


 そう言えば、品質が高かったら名前を付けられるんだったな。


「俺が装備するわけじゃないから、要らねえんだけどな」


 そう言ったら、桃に睨まれた。

 どうやら、初めて品質100%を作ったのにぞんざいに扱われるのが不満らしい。


「じゃあ、サメ肌で」

「酷いセンスだ」


 名前を付けたら、ロビンから呆れ声が出た。


「思い付きで適当に付けた名前だからな。それとも、スーパーシャークスタイリッシュハードコアスタイリッシュメガトロンレーザーアーマーみたいな名前にするか? もし俺がその防具の名前って何ですかとか尋ねられたら、こっ恥ずかしくて絶対に言わねえけど」

「確かに、それならサメ肌の方がマシだ」

「さっきも言ったけど、俺が装備するわけじゃないから、どうでもいいよ」


 防具に銘を入れてからマリアに渡すと、彼女は再びエンチャントを掛けに店の奥へと消えた。

 そして、マリアが居なくなった途端、気まずくなる空気。


 俺から話し掛けたら何となく負けな気がして無言で居たら、店のドアベルが鳴って誰かが店に入って来た。

 全員が一斉に入って来た人物に視線を向けると、そこには何故かタカシが気まずそうに立っていた。


「尺が伸びたな……」


 メタ的な発言だけど、長いから次回に続く。そんな感じがした。


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