第41話 義理の母と万能薬

 会話をしている間に貴族街を抜けて冒険者ギルドに入った。

 俺達が入ると、ローラさんを目ざとく見つけた受付嬢で虎の獣人のトラコちゃんが、獰猛な瞳で俺達をガン見してガバッと席から立ち上がった。その迫力にションベンが漏れそうになる。

 トラコちゃんは慌てて奥の部屋へ消えると、クロミを連れて戻って来た。


「これはこれは、ニルヴァーナさま。ようこそおいで下さいましたにゃ」


 揉み手をしながら笑顔のクロミがローラさんに挨拶をしてきた。

 笑顔なのに何故か哀愁を感じる。これが本当の営業スマイルというヤツなのか?


「オッス、なんか元気がないな。気持ちいいところを舐めて元気にしてやろうか?」

「ニャニャーン! お、お前は!!」


 ローラさんの横から話し掛けると、クロミが俺に驚き声を荒らげた。


「お前?」

「失礼しましたにゃ」


 俺が眉をひそめると、クロミが慌てて笑顔に戻って愛想を振りまいた。軽くプライドをへし折る。


「昨日は突然ごめんね。ちょっと込み入った用があって、全額引き下ろさなきゃいけなかったの」

「いえいえ、確かに大変だったにゃ、いやいや、上司に怒られたにゃ、いやいや、大丈夫にゃ」


 ローラさんが話し掛けるとクロミが笑顔で答えたけど、本音が駄々洩れである。


「まあ、これも俺のせいなんだけどね」


 本当の事だけど冗談を口にしたら、クロミがローラさんに見えない様にギッと睨んだ。


「それで今日はまた入金をお願いしたいんだけど、いいかしら?」


 ローラさんの依頼を聞いたクロミが一瞬で笑顔に戻る。仕事の出来る猫だ。


「もちろんですにゃ。奥の部屋で受け付けますにゃ」


 クロミは腰を低くして、俺達を奥の事務室へと案内した。




「それで、本日はおいくらお預け頂けるのかにゃ?」


 ビップ待遇で事務室のソファーに座ると、クロミがローラさんに話し掛ける。


「えっと、300Pプラチナほどお願い」


 日本円にして30億になる金額を聞いて、クロミが突然泣き始めた。


「うわぁぁぁぁん。良かったにゃーー。助かったにゃーー。これで左遷されずに済むにゃーー!!」


 両目を手で押さえて大声で泣くクロミを見て、少しだけ罪悪感が生まれた。


「ほらほら、涙を拭けよ。せっかくの美人が台無しだぜ」


 ソファーテーブルの上に置いてあったティッシュの箱から数枚抜いてクロミに渡す。


「ありがとうにゃ。お前って以外と優しかったんだにゃ」


 地獄の底に叩き落としてから親切にする。スパルタ指導する部活の監督と考え方が同じである。

 お金を受け取ったクロミが事務処理をしている間、ローラさんが俺に1Pプラチナを渡した。


「はい、これで買い物してね」

「ありがとう」


 日本円にして一千万円に該当するプラチナ通貨を普通に受け取る俺をクロミが事務処理をしながらガン見する。

 今日ニルヴァーナが預けた金は300Pだが、実際は盗賊ギルド、ラヴィアンローズ、暗殺ギルドに金を貸していてローズ商会を経営しているから、資産合計は3万Pを軽く超えている。ぶっちゃけ1Pなんてはした金に等しい。


「お前等の金銭感覚はどこかおかしい」


 やり取りを見ていたロビンがため息を吐くと、ジンとクロミも頷いていた。




 事務室の扉からノックの音がして、「失礼します」と言いながらトラコちゃんが部屋に入って来た。


「トラちゃんどうしたにゃ?」


 青狸に似ているニックネームだけど、濁点をなくせば相手は身長2m近くある獰猛な虎。

 クロミが話しかけると、トラコちゃんが要件を言ってきた。


「アビゲイル様が来ましたが、部屋に呼んでも良いですか?」


 それを聞いて思わず顔をしかめる。顔をしかめた理由は、あの女が事務仕事をするのかという不安と驚きが表情に現れただけ。


「こちらは大丈夫だから呼んでも良いですよ」


 ローラさんがトラコちゃんに言うと、虎が「分かりました」と吠えて部屋を出た。


「なあ、アビゲイルって、もしかして元女海賊のNPCか?」

「そうだよ。コトカで片耳って海賊をぶっ潰した時に、協力してもらったんだ」


 巻き添えを食らったともいう。


「そういえばそうだったな。私も一度会ってみたかったんだ。楽しみだ」

「サバサバした性格が共通してるから、仲良くなれるんじゃね?」


 ズボラでガサツともいう。




 しばらくするとトラコちゃんに連れられてアビゲイルが部屋の中に入って来た。


「おっ? レイじゃないか。久しぶりだな」


 アビゲイルが部屋の中の俺を見つけると、嬉しそうに声を掛けてきた。

 ちなみに、アビゲイルにはキンググレイスに行く途中で俺に向かってアサシンと呼ぶのを止めさせている。

 代償としてアビゲイルを姉御と呼ぶのを禁止されたが、町中でアサシンと大声で呼ばれるぐらいならこのぐらい容易いし、名前を訂正するやり取りは正直めんどい。


「そっちも元気そうだな」

「私よりも、お前の方が元気そうじゃないか。昨日の夜は暴れたんだって? 商人達が騒いでいたぞ」


 アビゲイルが笑いながら空いているソファーに座る。


「何十人かぶっ殺しただけだから、大した事はしてねえよ。それよりも、ここに来た目的は銀行強盗か? 人手が足りなかったら手伝うぞ」

「やめて欲しいにゃーー」


 俺の冗談にクロミが涙を流して震え出す。


「相変わらずだな。ここに来たのは、スコットから預かった上納金を納めるためだ」


 ローズ商会は利益の一割をニルヴァーナの借金返済に充てていて、彼女の言う上納金とはその金の事を言っている。やくざから金をせしめるギルドというのもどうかと思う……。


「何だ普通に事務仕事もしてるじゃないか。チョイ悪おやじとジャスミン号の船長が「アビゲイルが仕事がしねえ!」って泣いてたって聞いてるぞ」

「私だって陸に上がったら仕事はする……ただ、陸に上がる回数が少ないだけだ」

「どうせリゾート地のラヴィアンローズでサボってるんだろ」

「……そうとも言う」


 アビゲイルが笑いながら肩を竦めた後、懐から金の入った革袋を取り出してテーブルに置いた。


「いつもありがとう。クロミさん、これも預けといて」

「分かったにゃ。手数料はいつも通り引かせてもらうにゃ」


 ローラさんの指示にクロミが頷いて、革袋からジャラジャラとお金を出すと会計処理を始めた。




「結構あるな」

「二か月分だから、ざっと30Pほどある」

「うちの取り分が一割だから、ひと月150Pの利益か……」

「ああ、片耳の残党を倒せば倒すほど保険加入者が増えて、予想収益の3倍の売り上げがあるぞ。ところで、そろそろそこの二人を紹介してくれないか」

「そう言えばそうだったな。こっちの人食いオーガの女がロビン」

「オイ!」


 俺の紹介にロビンが文句を言う。


「ずいぶんと美人なオーガだな」

「違う、普通の人間だ」


 ロビンが訂正すると、アビゲイルが笑い出した。


「あははは。分かってるって、コイツの冗談には慣れている。レイの知り合いなら歓迎するよ」

「もし海賊との争いで戦力が欲しかったらコイツに言ってくれ、オーガーでもトロルでも一刀両断にするからな。残念ながら、それしか能がねえ」

「お前、ケンカ売ってるのか?」

「家事ひとつまともにできない居候が偉そうに言うな」

「……うっ」


 ロビンを黙らせた後、ジンを紹介する。


「で、こっちの男でも女でもケツを見たら舐めそうなのが、お前の義理の息子になる予定のジンだ」

「……!?」

「はあ?」

「え?」


 俺がジンを紹介すると、ジンとアビゲイルが目を開き、横で話を聞いていたローラさんも驚いていた。


「ジン、コイツがお前のママだ。挨拶代わりにオッパイを舐めてやれ」


 俺が突然こんな事を言い始めたのは、アビゲイルを見て「あ、コイツなら信用できるし、ジンの里親になれるんじゃね?」と思いついたからだ。


「私はまだ未婚なんだがな。何がどうなっていきなり義理の息子を持つ必要になったのか、説明してくれないか?」


 アビゲイルが目頭を押さえて溜息を吐き、ジンは訳が分からないといった表情を浮かべてアビゲイルを見ていた。


「ああ、実は……」


 アビゲイルにジンの事を話すと、彼女は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。


「事情は分かったが、無理だな」

「息子が無理なら彼氏にしても良いぜ。コイツは色々と仕込まれてるから、満足な夜を過ごせるぞ」

「私は別に痴女じゃない」


 アビゲイルが言い返すと、「痴女」という言葉にローラさんがビクンと反応する。


「問題は息子でも部下でも、私と一緒になるという事は船に乗る事になる。声が出せないのは致命的だ」

「そうなのか?」

「もし船から落ちても救援を呼べないだろ」

「なるほどね。だったら陸に住まわせたら?」


 俺の提案にアビゲイルが首を横に振る。


「ない」

「何が?」

「私は船が家みたいなものだから、家を持ってない」

「お前の母ちゃんが経営している服屋はどうした?」


 アビゲイルが腕を組んで考える。


「母か……あの人も今ローズ商店を経営していて忙しいからな……」


 そういえば、アビゲイルはチョイ悪おやじを丸め込んで、身内経営で商店を開いていたな。


「話はしてみるが戻るまでに時間が掛かる。それまでの間はそっちで預かっててくれ」

「話を通してくれるだけで助かるよ」


 アビゲイルとの話の間にクロミが会計処理を終えていた。

 そして、酒豪のローラさんとアビゲイルが用が済んだ後で一緒に飲もうという話になり、ロビンが自分も参加すると言って三人が席を立つ。

 俺? 俺が飲んだら酒瓶どころかアビゲイルが吹っ飛ぶぜ。誘いはジンと一緒に断った。


「クロミさんも一緒に飲む?」

「え? 良いのかにゃ?」


 ローラさんの誘いにクロミが驚く。


「ええ、せっかくだからどうかしら?」

「ぜひ、参加させて欲しいにゃ」


 クロミからしたら上玉の客の接待をして、さらにお金を預けてもらおうとする魂胆だと思うが、アビゲイルとローラさんの酒豪を知らない彼女はきっと地獄を見るだろう。

 冒険者ギルドの前でアビゲイルと別れた後、俺達は商店が集まるマーケット通りに向かった。




 マーケット通りは昼の込んでいる時間のせいで、多くのNPCが買い物をしていた。俺達は大勢のNPCの間を抜けて、素材屋に入る。


「いらっしゃい」


 中に入ると、緑色の髪をした美人のエルフさんがカウンター越しに笑っていた。

 彼女は一見優しそうな顔だけど、性格はドS。相手が苦しむのを見るのが好きな性格である。


「今日は大勢の人を連れて来てどうしたのかしら?」

「えっと、まずそこの金髪女に例のヤツを特盛で」


 例のヤツの正体がハイポーションだと察したロビンとエルフさんの顔が同時に引き攣った。


「もしかして、またアレを飲むのか?」

「吐いちまったんだから仕方がないだろ。まあ、頑張れ」


 顔をしかめたロビンに答えると、彼女が頭を抱える。


「一応、バケツを用意しとくね」


 エルフさんは掃除に使うバケツを持ってくると、ミキサーにハイポーションの素材を入れてハイポーションスムージーを作り始める。


「サービスに柑橘系の果実を入れといたわ」

「おいおい、何時も俺が飲む奴と違うじゃねえか」

「だって入れても入れなくても、味は変わらないし」

「変わらないのか……」


 ハイポーション強えな。


「気休めよ」


 エルフさんは肩を竦めながら、ミキサーに入ったドロドロの液体をコップに注ぐとカウンターに置いた。


「俺が推奨するオススメ方法は、最初に一口飲んでゲロを吐き、その後で一気に飲む方法だな。それなら全部飲み切れるぜ」

「懐かしいわねぇ」


 ロビンにレクチャーすると、ドSなエルフさんが俺がこの店に通い始めて、ハイポーションを吐いても飲んでいた頃を思い出してうっとりしていた。


「お前は飲まないのか?」

「何? 自分ひとりだけ被害に逢いたくないからって、道ずれにするつもりか? 俺は毎回ログインする度にここに通って飲んでるんだ。俺の苦しみをテメエも味わえ」


 ロビンに言い返して中指を立てる。

 何となくだけど、エルフさんの気持ちが分かった気がする。他人の不幸を目の前で見るのは実に楽しい。




 ロビンは俺を睨むと諦めて、カウンターのハイポーションスムージを一口飲む。

 そして、そのままバケツに顔を突っ込みゲロを吐いた。


「おえぇぇぇぇ!! ……これは、キツイ」


 口元を拭ってロビンが呟く。苦しそうな表情を浮かべ額からは汗を垂らしていた。


「一度吐いたら後は楽だ。それ一気、一気、一気」


 一気コールに促され、ロビンが再びコップを口元に寄せて一気に飲み干すと、コップを持つ反対側の手で口元を押さえて必死に吐くのを我慢していた。


「吐くな、吐いたらもう一杯だぞ、耐えろ! 耐えるんだ!!」


 スポーツトレーナー顔負けの声援をしてロビンを励ます。

 何とか耐えきったロビンは、激しい呼吸をしながらカウンターにグラスをダン! と置いた。


「よくやった、さすがロビンだ! 俺もハイポーションを二回目で飲み干したヤツは始めて見たぞ」


 ちなみに、俺は一回目で飲み切ったけど。あの時はジョーディーさんの料理を食べた後だから、ゴブリンの姿煮だって美味しく完食できるだろう。


「一体なんなのかしら?」

「…………」


 ローラさんは俺達の様子に呆れ、ジンも分からないと首を横に振っていた。




「それでね。姉さん、コイツを見て欲しいんだ」

「今のを「それでね」の一言で片づけるのは彼女が可哀そうな気がするけど、何かしら?」


 鞄から調合大辞典を取り出してカウンターに置く。


「こ、これは……!?」

「知ってるの?」

「ええ、懐かしいわね。私がまだ半人前で村に居た頃、お師匠様の家に置いてあったわ」


 そう言いながら、エルフさんが本を捲って懐かしそうに内容を読んだ。思わせぶりな行動はやめて欲しい。


「なんだ一点物じゃないのか」

「発行部数は少ないけど、確か第三版まで出てたはずよ……あら?」


 途中まで読んでいたエルフさんは首を傾げると、本の最終頁を開いて出版元を確認する。


「これは、私の知っている辞典じゃないわね」

「そうなん?」

「ええ、多分だけど、原本だと思うわ」

「その理由は?」

「だって、これ、毒物についても書かれているわよ。私が知る限り市場に出ている本には毒について一切書かれてないわ」


 毒の作り方なんて書かれていたら、発禁になるから当然だ。


「それで、姉さんはどこまで読める」

「そうね……」


 エルフさんがページをめくり続けて途中で止まると、1ページだけ戻した。


「万能薬までね」

「万能薬? そんなのあるの?」

「ええ、今では作られていないし、作り方を知っている人もあまり居ないわ」

「なんで?」

「だって光魔法のキュアで治るし、教会に行けば治してくれるもの」

「なるほど……」


 魔法というご都合主義に淘汰されたか……。


「材料はあるから飲んでみる?」

「お……おう……」


 今までの経験から、どう考えても味に問題があるとしか思えねぇ。


「ただねぇ……」

「あ、それ以上は言わなくてもいいよ」

「じゃあ言うわ。材料から判断して、もの凄く辛いわよ」


 残念ながらサディストにヤメテというセリフは禁句だった。




 俺とエルフさんのやり取りを横で聞いていたロビンが腹を抱えて笑い出した。


「あははははっ。ザマーミロ!!」

「クソッ! お前も飲めや!!」

「残念だがハイポーション単体の結果が知りたいから、断らせてもらう」

「くっ!!」


 それを言われたら何も言い返せねぇ……。


「じゃあ少し待ってて、材料を集めるわ。それと、今回は私もレシピをタダで覚えさせてもらったから無料で良いわよ」


 エルフさんが背中の棚から万能薬の素材を集める。

 その様子を見ていると、彼女の取る材料の殆どが赤かった。


「やべえ、赤過ぎて草生えるwwww」


 ロビンが素材を指さしながら笑う。


「いや、緑色のも混じっているから、そんなに酷くは……」

「これが材料の中で一番辛いやつよ」

「oh……」


 俺の望みは、最後まで言う前にエルフさんに否定された。




「はい、出来たわよ」


 エルフさんがカウンターに置いた万能薬は、真っ赤な色で何故か湯気が立っていた。


「「「「…………」」」」


 その劇薬を全員が無言で見つめる。


「ねぇ……何で辛いのに熱くしたの? 性格がサドに傾いているとはいえ、虐めるのは酷くね?」

「残念だけど別に熱くしたつもりはないわ。それと、私だって虐めは嫌いよ。ただ歪んだ顔が好きなだけ」


 それはサディストの……そう、真正サディストの思考です。


「じゃあ、何で湯気が出てるのさ」

「作る時に水しか使用してないし、火も使ってないわ」

「……マジで?」

「マジで」


 俺が真剣な表情でエルフさんを見ると、彼女も真顔になって頷いていた。




 いきなり飲むのは怖いから皮のグローブを外して万能薬を少しだけ指先で抄う。


「熱っ!?」


 沸騰はしていないが70度ぐらい熱く、反射的に指を上げた。


「スプーン使う?」

「……できれば」


 エルフさんからスプーンを貰うと、少しだけ抄って顔に近づける。万能薬は細かく刻んだ赤い唐辛子の粉の様な物が浮いていた。


「…………」


 全員が見つめる中、生唾をゴクリと飲むと、スプーンの万能薬を軽く冷ましてからペロリと舐める。


「あ……」

「どうだ?」


 動きを止めた俺にロビンが話し掛ける。


「ローラさんヒール頂戴」

「え? あ、えっと、チョット待って」


 ロビンを無視してローラさんにお願いすると、彼女は慌てて俺を快復させた。


「……分かってるけど一応聞くわね。どうだった?」


 エルフさんの質問に勝手に流れ出る涙を拭って感想を言う。


「本当の激辛ってのは、辛いとか痛いじゃなくて、ダイレクトに体力を奪うんだと知ったよ」

「ありがとう。参考になったわ」


 何の参考にするのかな? サディストの使用目的が分かりません。

 そして、この真っ赤な万能薬が廃れた理由は魔法で代用できるからではなく、辛さのせいだと理解した。


 その後、全員が味見だと言って万能薬を少しだけ舐める。

 ロビンは床を転げ回り、ジンは立ったまま気絶し、ローラさんは舐めるのと同時に自分にヒールをしていた。

 エルフさんはその様子を見て満足そうな笑みを浮かべていた。




「それで、この万能薬は捨てる?」

「いや、お金は払うから10本作って錬金の瓶に入れといて」

「「「……え?」」」


 エルフさんの質問に答えると、ジン以外の全員が驚いていた。ちなみに、ジンは未だに気絶中。


「お前、これを飲むのか?」


 ロビンの質問に親指を立ててサムズアップをしながら笑顔を向けた。


「もちろん飲むに決まってるだろ……俺に喧嘩を売って来た誰かが……」

「「「…………」」」


 全員、俺が言った意味を理解すると顔を引き攣らせる。


「お前は悪魔か!?」

「文句はクソな万能薬を作ったヤツに言え!」


 ロビンに言い返すと、本当に嫌そうな表情を浮かべていた。

 エルフさんは万能薬を10本作って俺に渡したけど、その時に「本当に使うの? これ体に当てたら、全身火傷と同じぐらい痛いわよ」と言っていた。まあ、俺が喰らうわけじゃないから良いんじゃね?


 最後に昨日消費したポーションとステータスアップの材料を購入すると、顔を引き攣らせたままのエルフさんに手を振って素材屋を後にした。

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