第23話 激マズ料理公開処刑

 昨日デモリッションズがコブラと遭遇した場所まで移動する。

 ゴンちゃんが先頭に立って、ジャングルの茂みをかき分け道を作り、森の奥へと進んでいると、その背後で何故かブラッドが泣きながらゴンちゃんを拝んでいた。

 俺とステラの生存術スキルのレベルは同じぐらいだったけど、義兄さんの指示でコブラの居場所を知っているステラを先頭にして、俺は後方の確認に回された。

 そして、俺の指定席だったゴンちゃんの肩にはステラが乗る。


「これ、楽ちんだね」


 ぐぬぬ。俺がゴンちゃんに乗ろうとしたらステラに席を取られて、さり気なく移動が楽なのを公開されている。次からはゴンちゃんの肩に乗るのは女性が優先になるのは間違いないだろう。

 ゲームでも女性を優先させるのは間違っていると思う。姫ちゃんプレイなんてただの公衆便所だバカヤロウ。




 ステラがチンチラに命じてゴンちゃんを止めると、肩の上で立ち上がり周辺を確認。


「居たよ」


 彼女はコブラを見つけると、低い声で皆に伝えてゴンちゃんから降りた。


「どんな様子だ?」

「この先を進むと大きい広場があって、そこで丸まって日光浴してる」


 ヨシュアさんにステラが報告するが、日向ぼっこするボスというのもシュールな姿だと思う……。


「よし、作戦通りにジョーディーの料理を食わせてから攻撃だ」


 義兄さんが鞄からジョーディーさんの作ったチキンステーキを取り出す……うっ、匂いを嗅いだだけで腹が減ってきた。

 そして、それは俺だけではなくジョーディーさん以外の皆の視線が、彼女の料理に釘付けになる。

 ジョーディーさん? この作戦が始まってから、終始納得いかない顔をしていますが何か?


「なあ……カート、これ、本当に毒なのか?」


 シャムロックさんがチキンステーキを見て呟き手を出そうとするが、横からベイブさんが抑える。


「シャムロック、勘違いするな。これは毒じゃない、ただの不味い飯だ」

「あなた、全然フォローになってないから……」


 ジョーディーさんがキッとベイブさんを睨むが、料理の被害者でもあるベイブさんは、自分の苦労を公開できる状況を楽しんでウキウキしていた。

 メシマズ嫁を持つ旦那は、そのマズイ飯を自慢する傾向があるらしい。


「よし、行くぞ」


 義兄さんが会話を終わらせると、彼の合図で俺達は広場へと駆け出した。




 広場に出てコブラを見れば、アーケインで倒したジャイアントスネークと比べて身長が大きかった。

 日光浴中だったコブラは俺達が駆け寄る姿を見て鎌首を上げると、邪魔をされたのが不愉快だったらしく、近づく俺達をジッと見ていた。


「喰らえ!」


 義兄さんがコブラの頭めがけてチキンステーキを投げると、コブラは上手に空中でパクッと丸飲みした。

 ジョーディーさんの料理を食べたコブラは、特に暴れる事も苦しむ事も死ぬ事もなく平然としていた。

 考えてみれば、蛇に人間と同じ味覚を求めるのは変だし、言いだしっぺだけど今思えば馬鹿馬鹿しい作戦だった。


「駄目か……まず、私達から行くぞ!」


 ヨシュアさん達、デモリッションズwith爺がコブラに駆け寄る。

 義兄さんもバフ魔法の詠唱を始めてヨシュアさん達を強化すると、俺達ニルヴァーナは分裂後の誘導先へと移動した。


「かかってこい!」


 ヨシュアさんが『挑発』をしてヘイトを奪う。そして、デモリッションズが攻撃しようとしたら……。


「ギシャーーーー!!」


 突然、コブラが広場全体に聞こえるほどの悲鳴を上げて体を天高く伸ばすと、そのまま仰向きに地面へと倒れた。

 全員が動きを止めて見守る中、倒れたコブラは体をビクンビクンと痙攣させると、死んだ様に動かなくなった……一体どうした?

 動かないコブラに恐る恐るヨシュアさんが近づき胴体を突く。


「……死んでる」


 ヨシュアさんの報告に全員が唖然とし、義兄さんが近づいて確認すると首を横に振っていた。


「確かに死んでいるな……」


 オイ、意気込んだ俺達全員の気合を返せ。


「毒が効いたのか?」

「いや毒じゃない、ただの不味い飯だ」

「……あんた達、いい加減にしないと寝ている時に口に入れるわよ」


 シャムロックさんとベイブさんの会話にジョーディーさんが突っ込む。それ、暗殺だから……。


「恐らく……ショック死ですね」

『…………』


 コブラを調べていたシリウスさんがポツリと呟くと、それを聞いた全員が押し黙った。

 これはあれか? ジョーディーさんの作った毒、違った、激マズ料理がガチでマズくてショック死したって事か?


「アハハハハ…………」


 乾いた笑いが聞こえだして振り向くと……。


「俺は……あんなものを食べさせられていたのか……」


 先ほどまで楽しそうだったベイブさんがショックのあまり膝から崩れ落ちて、両手を床に付けていた。その横では、ジョーディーさんが頬に手を付けて溜息を吐く。


「レイ君じゃないけど、自分の才能が怖いわ」


 何故、俺と比較する? それにお前の旦那、このままだとショックで寝込むぞ。




 俺達が見守る中、コブラが消えていく……。

 だけど、消えた後の地面を調べても目的の髑髏の欠片は見つからなかった。


「ないわね」

「こいつ、ボスじゃなかったのか?」

「今回は何もせずに倒せちゃったけど、多分ボスだと思うわ」


 上から順にステラとブラッド、それにローラさん。全員が首を傾げていると、チンチラが恐る恐る手を上げた。


「えっと、一つ思い付いたのですが」

「どうした?」


 義兄さんが応じて、チンチラがデモリッションズの全員に確認する。


「昨日、デモリッションズの皆さんが蛇と戦った時に、コブラが分裂したんですよね」

「ああ、だけどそれがどうした?」


 ヨシュアさんが答えて他のメンバーも頷く。


「だとしたら、その分裂したコブラの片方はどうしたのかな? って思いまして……」

『……それだ!!』


 全員が大声を出すと、逆にチンチラがビクッと体を震わせた。


「ジョーディー、料理はまだあるか?」

「一つしか作ってないわよ! だって、最初から二匹居るなんて思ってなかったし」


 義兄さんがジョーディーさんに確認すると、彼女は首を振っていた。


「それよりもカートさん、バフはまだ使えるのか?」

「いや、MPは三割を切っている、全員分は無理だ。レイ、マナポーションをくれ!!」


 全員が慌てて動いている中、俺の生存術と危険反応スキルに赤い反応が現れた。

 アルサとステラもほぼ同時に気が付いて、三人同時に同じ方向を向く。


「北、11時方向から凄い速さでこっちに来てる!!」


 ステラが叫ぶと、全員がギョッとして蛇の来る方へと視線を向けた。


「さっきの叫びで気づかれたのか!?」

「ヨシュア、落ち着け! どの道倒す予定だったんだ、落ち着いてやれば問題ない。ジョーディーの毒はおまけの作戦だったし慎重にいくぞ」

「分かった!」


 一応、毒じゃないから、ただの飯マズだから……だけど、さすがに俺の持っている毒も一撃死とか無理だし、下手すると毒より酷い。

 義兄さんにマナポーションを投げ渡すと、俺もスティレットを抜いた。




 ジャングルの茂みをかき分けて、先程と同じコブラが姿を現した。


「今度こそ行くぞ!」


 ヨシュアさんの掛け声と同時に、デモリッションズのメンバーwith爺&義兄さんが蛇に向かって走り出す。

 ヨシュアさんが『挑発』をしてヘイトを奪うと、コブラは弓を引くように鎌首を後ろに下げて、物凄い勢いでヨシュアさんに頭を突き下ろした。


「くっ!!」


 ヨシュアさんは頭突きを盾で防ぐが、その勢いを全て殺す事ができずに地面を滑って後方へとずり下がる。攻撃を堪えたヨシュアさんが負けじとさらに『挑発』をコブラにしていた。


 彼女の背後でローラさんがヒールの詠唱を始め、シリウスさんも攻撃魔法を詠唱し始める。コブラの背後では、シャムロックさんとブラッド、それに、アルドゥス爺さんが接近攻撃を開始して、少し離れた場所でステラが弓を引いていた。


 義兄さんはバフ魔法の掛け直しをデモリッションズにしてから、コブラが分裂するまでその場で待機する。


「なるほど、これは確かに硬いのう。じゃが、これはどうかな?」


 アルドゥス爺さんは両足を前後に広げてグレートシミターを上段に構えると、勢いをつけて振り下ろした。

 切り落とすまでには至らなかったが、その攻撃でコブラが雄叫びを上げる。


「やるな、爺さん」

「ふぉふぉふぉ。まだまだ現役じゃい」

「だったらこっちも負けてられないな」


 シャムロックさんがアルドゥス爺さんの攻撃を見て、自分も負けじと拳で殴り始める。しかし、コブラの胴体は打撃に対しての抵抗値が高いのか、平然とした様子だった。


「どつきは駄目か、ツマラン」


 シャムロックさんはそう呟くと、鞄からスコップを取り出した……スコップ?

 スコップを振りかざしてコブラの胴に叩きつけ、食い込んだら足で踏みつき、さらに食い込ませて胴体に傷を負わせる。

 工作兵か? 工作兵なのか? もう少し攻撃力のある武器を選んだ方が良いんじゃないか?

 メディック! メディーーック!! 衛生兵! あそこに頭がおかしい奴が居るぞ!!


 二人の攻撃が効いているその一方、ブラッドとステラの攻撃はコブラの皮に跳ね返されていた。


「クソ、ダメージが低すぎる!」

「こっちも駄目! 攻撃してもダメージがまともに通らない!」


 ブラッドは一撃の火力より手数を多くした攻撃が基本なので、コブラの皮を貫通させる力が不足していた。

 ステラの弓は遠距離攻撃というメリットはあるが、攻撃速度が遅いのとダメージが接近より若干低いというデメリットがあるので厳しそうだった。


「うわっ!」


 コブラがヨシュアさんへの攻撃を止めて鎌首を上げたまま停滞すると、突然、ヨシュアさんの背後に居たシリウスさんとローラさん目掛けて、口から毒液と思われる痰を吐きだす。

 ローラさんはギリギリで避けたが、シリウスさんは魔法詠唱の途中だったために避けきれず、正面からもろに喰らった。蛇につばを吐きかけられるという、貴重な体験をした人類初の男でもある。そんな名誉なんてごめんだがな。


「くっ! 毒を食らった、解毒を頼む」

「了解……『キュア』!」

「ありがとう」


 ローラさんの魔法でシリウスさんを解毒すると、彼は再び攻撃魔法の詠唱を始めていた。

 コブラとデモリッションズの戦いは、一進一退の攻防を繰り広げていた。




 しばらくして体力を削られたコブラの姿がぶれ始めた。


「そろそろ別れるぞ!」

「右を貰う」

「了解、私はこのままキープする」


 ヨシュアさんの合図で義兄さんが動きだす、義兄さんが二匹に分裂した右のコブラに向かって『挑発』を行い自分へと引き寄せた。

 義兄さんはそのまま少しずつ俺達が居る方向へ『挑発』を行いつつ、地面の石を投げて誘導する。そして、俺達が待ち構えている場所まで来ると対峙して剣を振るい始めた。

 それから、接近メンバーがコブラの背後から攻撃を開始する。


「チンチラ、コイツに打撃攻撃と毒は効果がない! ゴンを盾に使うからゴンのヒールに専念してくれ!」

「はい!」


 義兄さんの言う通り、打撃と毒に耐性があるコブラはチンチラとは相性が悪かった。

 だけど、それ以上に俺の中では、義兄さんが頭を使った事に驚いていた。脳筋だけど効率厨、勝つ為の頭脳だけは優秀……ただ普段から脳筋なのは少し控えて欲しい。


 義兄さんの指示でチンチラがゴンちゃんをコブラの正面に立たせる。

 義兄さんはゴンちゃんの陰に隠れて攻撃を避けつつ『挑発』をして、チンチラはゴンちゃんのヒールに専念し始めた。


 俺のすぐ横でメインアタッカーのベイブさんが二本のシミターを華麗に使い、コブラの皮を切り裂く。

 ブラッドと同じ二刀流だが、ベイブさんの攻撃には一撃に込められている力が違う。切る度に、コブラの皮膚から鮮血が吹き出し、確実にダメージを与えていた。

 ここ最近はぶざまな姿しか晒してなかったけど、戦いになると頼りな人だった。犬だけど……。


 俺もベイブさんを見習ってスティレットを突き刺すが、非力な俺のダメージは雀の涙。予想通りとも言える。

 それでもコブラの胴体目がけてスティレットを必死に何度も刺すその理由は、レベル上げが目的。俺が無理でも、きっと誰かが倒してくれる。それが、パーティーの皆を信じるという事だと思う。


「『アイスバレット』!……あ、危ない!」


 姉さんが魔法を唱えた直後、変な叫び声を上げた。


「「へ?」」


 何事かと俺とベイブさんが振り返った瞬間、ヒュン! と俺達の間を氷の弾丸がすり抜けた。

 あと数センチずれていたら、間違いなく俺かベイブさんの顔面は汚い花火になっていたと思う。

 ついに姉さんの魔法が、氷玉から弾丸に進化したらしい。姉の凶悪化、いや、進化に冷や汗が出る。


「ごめーん。初めて使ったから失敗しちゃった♪」


 わざと? ねぇ、本当にわざとじゃないの? そして、何で笑顔なの?

 マーカスという海賊船に乗り込んだ時も、ピンポイントで俺を狙っていたよな。ゲームで敵に殺される前に、いつか姉さんが俺を殺す。そんな予感がしたでござるよ。


 たまには反省して欲しいところだけど、へこたれない姉さんは再び同じ魔法を唱え始める。俺は慌てて体を低くして対角線上から離れ、流れ弾が来ないように祈った。


「こんどこそ!『アイスブレット』!」


 バキン!


「うおぅ!!」


 姉さんが放った氷の弾丸は外れることなくコブラの胴体に当たったが、今度は胴体を貫通して、ベイブさんが持っていたシミターに当たって弾いて砕けた。


「コートニー! 少し位置を変えろ、俺達を殺す気か?」

「えへ、ごめんね~」


 ……駄目だ、反省している顔じゃねぇ。

 それでも少しは反省していたのか、数歩だけ横に移動してから詠唱を始めたけど、その対角線は俺が居る方向だった。

 慌てて位置を変えて魔女の攻撃から避けつつ、コブラの胴体をツンツン攻撃していると、横に居たアルサがウンザリした表情で溜息を吐く。


「硬くて駄目。もう無理」


 そのセリフはベッドの上で男に向かって言え。


「お前、アジットみたいに武器に毒を塗れないの?」

「あれは継承者にしか教えてくれないし」

「ふーん」

「だから、あんたも私を頼って毒塗りスキルを手に入れようとしても無駄だからね」

「ああ、そのつもりは微塵もないから安心しろ」

「……どうだか」


 アルサは俺を見ずに小さな声で呟く。俺とアルサの友好度は未だに0だった。




 コブラを攻撃していればガンガンにスキルは上がるけど、攻撃力が低くてコブラへのダメージは相変わらず少ない。

 基本的に不意打ちが基本のローグは、ボスモンスター相手のレイドパーティだとオマケの存在だから仕方がない。

 もし人生タグにチートや俺TUEEEが入った小説ならば、ローグでも一騎当千なんて繰り広げて読者を虜にしていると思うが、現実はマンネリが嫌いの神様が俺を常に逆境へと陥れようとしているから無理だった……ああ、早く武器に毒を塗りたい。


 現在の状況は……人生が不器用な義兄さんが器用にゴンちゃんと自分の持つ盾を使って、コブラの攻撃を分散しつつ防いでいる。

 おかげで、ジョーディーさんとチンチラのMPに余裕はあるが、チンチラとゴンちゃんが防御に回っている分、デモリッションズと比較して全体の攻撃力は落ちていた。


「ギシャーーーー!!」


 突然、背後から大きな悲鳴が聞こえて振り返ると、デモリッションズ側のコブラが天高く体を伸ばして悲鳴を上げていた。向こうはそろそろ倒せそう?


「なっ! 待て!!」


 今度はこちらのコブラが攻撃を止めると、義兄さんのヘイトを無視してデモリッションズ側のコブラに向かって移動を始めた。

 それと同時に、デモリッションズ側のコブラも戦いを止めると、傷だらけの体を無理やり動かし、こちらに向かって移動してくる。

 俺達が唖然と見ていると、俺達と敵対していたコブラが傷だらけの相方を頭から丸飲みし始めた。


「どうなっているんだ?」

「このままだとやばい気がする。全員、攻撃を集中しろ!」

「どっちに攻撃すれば!?」

「……傷ついている方は間に合わない。分裂した方を集中攻撃だ!」


 ヨシュアさんが動揺している横で義兄さんが指示を出し、共食いしているコブラを全員で攻撃するが、半分まで飲み込んだ段階で食べられていたコブラが消滅した。共食いとかヒデエギミックだな。


「シャーーーー!!」


 共食いが完了したコブラが大きく叫び、思わず耳を塞ぐ。

 そのコブラを見れば、皮膚が赤黒く変色して、全体から出る殺気が先ほどよりも数段恐ろしく、凶暴化していた。


「なんだよ……これ……」

「ブラッド集中を切らすな!」


 ブラッドが青ざめた顔をしていると、シャムロックさんからの叱咤が飛ぶ。


「ヨシュア、チンチラ! 一人では無理だ。交互でヘイトを取るぞ!」

「分かった!」

「り…了解です」


 コブラの前に義兄さんとヨシュアさん、その間にゴンちゃんが立ち並び、彼等の後ろではヒーラーの二人とチンチラが並んで、万全の状態を作った。




「さあ、来い!!」


 ヨシュアさんが『挑発』をしてコブラのターゲットを自分へ向ける。

 コブラはそのヨシュアさん目掛けて頭を振り下ろした。


「キャッ!」


 ヨシュアさんが男装の癖に似合わない女性の叫び声を上げて、本性を晒す。

 どうやら、コブラは共食いによって攻撃力も上がったらしい。先ほどまで攻撃に堪えていたヨシュアさんは大地に足を引きずる足跡を付けた後、堪えきれずに後方へふっ飛ばされた。


「今度はこっちだ!」


 義兄さんが倒れたヨシュアさんを横目で見つつ、コブラへ『挑発』する。

 ヨシュアさんに追加攻撃をするつもりだったコブラは、ターゲットを義兄さんに変更すると彼に向けて頭突きを振り下ろした。


「ぐっ!!」


 頭と盾が接触するタイミングで盾の角度を変え攻撃を反らしながら、横へ飛びつつコブラの顔を切り裂く。

 義兄さんはヨシュアさんと違って上手く攻撃を躱したが、それでも相当のダメージを受けて彼の顔が歪んだ。


「まだだ!」


 義兄さんが反撃をした後、さらに『挑発』をしてから、すぐにゴンちゃんの背後に隠れる。

 これはゴンちゃんにヘイトを上昇させるスキルがないため、ゴンちゃんの後ろに隠れゴンちゃんを盾にする作戦だった。

 普段の戦闘なら卑怯と呼ばれるけど、レイドだから許される行為でもある。


「ギシャーー!」


 コブラの攻撃がゴンちゃんへと振り下ろされる。

 ゴンちゃんが腕をクロスにして顔を防ぐと、腕の一部が砕けたが防御に成功した。

 それを見ていたチンチラが、直ぐにゴンちゃんに向かってヒールを飛ばす。


「交代します!」


 ヨシュアさんは飲み終えたポーションを投げ捨てると、再び『挑発』でヘイトを奪い盾になる。

 タンク三人がかりの防御だが、コブラの攻撃はそれを上回る攻撃力を持って、三人を交互に攻撃していた。


「レイ! こっちはいい、向こうの回復に回ってくれ!!」


 俺を含めたアタッカーの全員はコブラの背後で攻撃していたが、途中でタンクの様子に不利と思ったベイブさんが、俺に指示を飛ばした。


「了解!」


 俺はポーションを鞄から取り出すと、義兄さん達の方へと走り出した。

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