第24話 穴があったら入れるでしょだって男の子だもん
「「「きゃっ!」」」
移動している途中、コブラがヒーラー三人に向けて毒の痰を吐きかけ、ローラさんジョディ―さんチンチラが悲鳴を上げる。
彼女達は詠唱中だったため、タンク三人の体力はまだ回復していない状態だった。そして、コブラはヨシュアさんに狙いを定めると、鎌首を後ろへ下げた。
「くっ!!」
ヨシュアさんが覚悟を決めて盾を構えたところを、俺が走りながら彼女に向かってポーションを投げる。
ポーションは放物線を描きヨシュアさんの盾の上を通り越して体に当たり、彼女の体力を回復させた。
「助かる!」
ヨシュアさんがコブラから視線をそらさず礼を言うと、腰を落としてガードを固めた。
ポーションを投げた後、今度は胸ポケットからキコのグミを取り出して、口に含む。
俺の横をコブラの頭が高速で通り過ぎ、ヨシュアさん目掛けて突っ込んだ。
ヨシュアさんは直撃する瞬間、盾を斜めにして軌道を反らして、頭突きの攻撃を弾き防御に成功する。
攻撃直後のコブラに一瞬の隙が生まれる。
俺は頭に近づくと、目に向かって毒霧を噴射した。
「ギシャーーーー!!」
コブラが毒霧を目に喰らった途端、鎌首を上げ、胴をくねらせ暴れ回る。
「うわ!」
「ぬお!」
「危ねぇ!」
コブラの背後では、攻撃の最中だったアタッカーの皆が慌てて逃げていた。
「レイ! 何かやるなら一言、言ってからやれ!」
ブラッドが後方から叫んでいるけど、そんな余裕どこにある?
一瞬のチャンスは生かさないと、どんな勝負でもギャンブルでも勝てないぞ。な、ベイブさん!
「今の内だ、各自で回復するんだ!」
暴れ回って攻撃が中断しているコブラを見て義兄さんが叫ぶと、ローラさんとジョーディーさんが自分自身とチンチラを解毒してから、タンクにヒールを掛けていた。
俺も義兄さん達の背後に回りヒーラー三人にマナポーションを投げて、彼女達のMPを回復させる。
俺達が回復している間、コブラも毒霧による異常状態を回復させていた。そして、コブラは目に涙を浮かべて……ずっと俺を睨んでいます。
コブラに睨まれて、目くらまし(唾吐き)にヘイト上昇のデメリット効果があった事を思い出した。
ただでさえヘイトが高まるアクション技なのに、毒霧が追加されたから、さらにヘイトの上昇率が上がった? まあ、顔面に唾を吐かれたら、俺なら確実にそいつ殺るわ。
義兄さんとヨシュアさんが『挑発』を行うが、コブラの視線の先には常に俺。ごっつぇ睨んでいる。
「お前、どこ中だよ。上等じゃねぇか。あ、コラ! タコ、コラ!!」もしコブラが喋れていたら、そんな事を言われている気がする。
喋り方の柄は悪いが、お上品なコブラというのも似合わないので、コブラは皆
カバの時みたいに逃げ回ろうかと考えたが、共食いする前に見た移動スピードを考えると間違いなく追いつかれる。そして、コブラが走り回ったら他の皆が攻撃ができなくなる。
それならば……俺はゴンちゃんの後ろへ隠れると、こと切れた様に地面に倒れた。
必殺、死んだふり!!
「…………」
「うわぁ。またやったよ……」
「さすがレイちゃん。何時見ても卑怯ね」
色々と非難の声が聞えてきて心が挫けそう。だけど、その効果は抜群だった。
コブラは俺へのヘイトを失い、ターゲットを変更してゴンちゃんを見ていた。
「来るぞ!」
義兄さんの声に、死んだふりをしたままチラリとコブラを見れば、ゴンちゃんに向かって頭を振り下ろしていた。
……カプッ。
「……へ?」
攻撃音に違和感を感じて見上げると……ゴンちゃんが頭からすっぽりとコブラに咥えられていた。
ま た か !
ゴンちゃんは決まり手「食い殺し」が弱点らしい。カバの時と同様コブラに咥えられて、バタバタと足掻いていた。
「ゴンちゃん!!」
相撲部屋の女将改め、チンチラが俺の背後で叫び、コブラに咥えられたゴンちゃんが持ち上げられて宙に浮く。
このままだとマズい。コブラの攻撃が苛烈で厳しいのに、ゴンちゃんがやられたら前衛が崩壊して全滅だってあり得る。
俺は死んだふりを解除すると、慌ててゴンちゃんの腰にしがみ付き、食べられるのを阻止するため必死に引っ張った。
「ヨシュア、俺達も行くぞ!」
「あ、ああ……」
予想外の展開に呆然としていた義兄さんとヨシュアさんだったが、俺とゴンちゃんを見て慌てた様子で横からゴンちゃんの足を掴む。
そして、コブラと俺達で、ゴンちゃんの引っ張り合いが始まった。
「ゴン、暴れるな! 痛いだろ!!」
バタバタ足を振って逃れようとするゴンちゃんの足を掴みながら義兄さんが怒鳴るけど、喰われかけたら誰だって暴れると思う。
何か変な展開になったけど、これで良いのか? 確かにコブラがゴンちゃんを咥えた事で、背後で攻撃しているアタッカーへの攻撃を防いでいるから、タンクとしての役割は果たしている……のか?
後は何時まで持つかだが……ゴンちゃんの腰を掴みながらコブラの背後を見れば、アタッカーの皆は姉さんの魔法を避けながら必死に攻撃していた。
しかし、強化されたコブラの皮は硬く、倒すのにまだ時間が必要だと思われる。
後、姉さんはいい加減、魔法を味方に向けて撃つのは止めろ、マジで!
やはり、弱点の頭を攻撃しないと倒すのは無理なのか? ……チョット待て。
ゴンちゃんを咥えて頭が下がっている今ってチャンスじゃね? 毒霧であれだけ暴れていたんだから、スティレットを目玉に刺せばコイツは倒れる!
「よし!」
突然ゴンちゃんを上り始めた俺を見て、義兄さんとヨシュアさんが驚く。
「へ?」
「なっ!」
二人を無視してゴンちゃんの体によじ登ると、腰のスティレットを抜いてコブラの頭を目掛けて飛び上がった。
(行くぞ、スティレット! 汚名、違う、汚物返上だ!!)
(汚物って何!?)
心の中で叫ぶとスティレットから幻聴が聞こえた。だけどさ、カバのケツから噴射したんだから汚物だろ?
ゴンちゃんから飛ぶと、コブラの目玉に向けてスティレットを突き刺した。
……ズポッ!
「……はい?」
コブラは俺が飛ぶのと同時に、ゴンちゃんを口から離して頭を上げていた。
そして、目玉に突き刺そうと突き出したスティレットは、何故かコブラの鼻の穴にすっぽり入っていた。
(もう穴は嫌ーーーー!!)
スティレットから再び幻聴が聞えたけど、俺だって嫌だよ。
「ギシャーーーー!?」
コブラにとっても予想外な攻撃だったのか、鼻に鼻鉛筆ならぬ鼻スティレットが刺さって驚き仰け反った。
俺も投げ出されそうになったけど、今落ちたら確実に落下ダメージで重傷を負う。落とされまいと、必死にスティレットを持つ手に力を入れた。
クルッ!
「へ?」
コブラが仰け反って宙に投げ出されけど、刺さったスティレットを中心に体が半回転して偶然にポンッとコブラの頭に座っていた。
だけど、これでチャンスは上乗せドン! 連チャンボーナス継続中!
コブラの頭を脚で挟み固定すると、スティレットを両手で掴んで踏ん張った。
コブラは大暴れするが、俺も投げ飛ばされまいとスティレットをぐりぐり鼻の穴へと押し込む。
ぐり、ぐり、ぐり、ぐり。
(汚い! 抜いて、抜いて、抜いてーー!!)
スティレットから幻聴が聞えたけど、今抜いたら落ちるから、やだ。
「シャーーーー!!」
痛みでブチ切れたコブラが天まで届く勢いで伸び上がり、一瞬だけ動きが止まる。
今だっ!!
鼻の穴に刺したスティレットをズボッと抜くと、鼻血がぴゅーっと噴き出たが、構わず今度はコブラの右目にスティレットを突き刺した。
「ギシャーーーー!!」
スティレットが根本まで深く突き刺さり、コブラがさらに暴れ出す。
周りに居た義兄さん達は俺とコブラの戦いを呆然と見ていたが、コブラが暴れだすと慌てて逃げていた。
「シャーー!! シャーー!! シャーー!!」
コブラが大声で叫び、俺を振りほどこうと頭を左右に振る。
俺も投げ出されまいと脚でコブラの頭を押さえ、スティレットを目玉の奥へとぐりぐり突き刺していた。
やがて、コブラは動きが鈍くなると痙攣を始めた。そして、体を空に向かって伸ばし、地面に向かって仰向けに倒れ始めた。
チョッ、チョット待て! ジャイアントスネークの時と同じで、このままだと地面に倒れた時に潰される!!
コブラが倒れる最中、スティレットを手放す。それから『バックステップ』を起動してコブラの頭を蹴ると、後ろへ飛んだ。
勢いが余り、空中で一回転して足から地面に着地する。
足……足が痺れた……。
俺が着地するのと同時にコブラが倒れて地面が揺れる。
倒れたコブラは横たわって痙攣していたが、ゆっくり痙攣が治まると息の根が止まっていた。
「すげえ……」
ブラッドの呟き声に振り返ると、この場に居る全員が口をポカーンと開けて俺とコブラを見ていた。
こういう時って、どんな言葉を掛ければいいんだ? アニメや特撮だと、決めセリフと格好良いポーズの一つでも決めるんだろうけど、あれは視聴者向けの営業であって実際にやれと言われたら恥ずかしくて無理。ポーズの出来次第で大人にせがむ子供の数が増えるから、アイツ等も必死だ。
俺はポーズを決めても金なんて一銭も手に入らないから、何も言わずにコブラの頭に足を乗せて、スティレットをズボッと目玉から抜いた。
(僕、やったよね。褒めて、褒めて)
(はい、はい、えらい、えらい)
(ぶーぶー。言い方がすっごい投げやりー!)
ウルセエ、鼻スティレット……なんかティッシュペーパーみたいだな。
なんか、コイツから本当に幻聴が聞え始めて俺は病んでいるのかと考える……まあ、実際に病人ではあるな。
だけどさ、お前自己主張が激しいんだけど、強い武器を見つけたら即交換だからな。
「レイ!!」
ぼけーっと突っ立っていたら、義兄さんが叫びながら俺に近づいて来た。
やべえ、またむちゃしたから怒られる。
「よくやった!! いきなりで驚いたけど、マジ凄いぞ!!」
首を引っ込めて怒られる覚悟をしていたが、義兄さんは俺の頭をフードの上からぐりぐりと撫でて笑っていた。首がもげるから少し手加減してくれ!
そして、義兄さんの後から皆も駆け寄ってきて、褒め言葉と一緒に俺の頭を撫でたり、背中をバシバシ叩いた。
「”突然現れて、強靭な敵を一瞬で葬り去る凄腕のローグ”……噂は本当だったじゃん」
ステラが笑いながら俺の頬を指で刺すのを成すがままにされる。
「コートニーさんが言っていた、レイ君の凄さが分かった気がする」
「でしょ♪」
ヨシュアさんが呟く横で、何故か姉さんが胸を張っていた。
「いやー驚いた。横から急にゴーレムに飛び乗った時は何をするのか分からなかったが、確かに弱点の頭を狙うには最高のタイミングだったし、今考えるとあの時しかチャンスがなかったな、うん」
「ああ、あのままだったら追い詰められていたのは、間違いなく俺達の方だったはずだ。良い判断だと思う」
脳筋なシャムロックさんとベイブさんは俺を褒めた後、コブラを見ながら会話をしていた。
他の人からも褒められたけど、恥ずかしいからフードを深めに被って顔を隠す。
目の前のコブラが消えてアイテムがコトンと地面に落ちる。
近くに居たローラさんが拾うと、求めていた金の髑髏の左半分だった。
「お、手に入ったな。貸してくれ」
「はい、どうぞ」
義兄さんが鞄から2/3の金の髑髏を取り出して残りの欠片と合わせると、ピッタリ嵌って金の髑髏が完成する。
「さて、問題はこれをどうやって使うのかだが……」
兄さんが髑髏を弄っていると、急に髑髏の歯がガタガタ動きだした。
「お?」
義兄さんが軽く驚き自分の方へ髑髏の正面を向けると、今度はピタリと止まる。
「……ふむ」
そして、調べた結果。一定の方向へ髑髏を向けた時だけ歯が動く仕組みだと判明した。
「コンパスと考えるべきだと思いますね」
「そうだな」
シリウスさんの考察に義兄さんが頷く。
「それじゃ先に進む……」
「あ、待って。ここの島はボス以外の敵は居ないみたいだし、リック君達を連れて来ても良いんじゃないかしら?」
義兄さんの言葉を遮って、姉さんがリック誘拐拉致を提案する。
「ん、確かにそうだな」
「だったらデモリッションズで連れて来よう。ニルヴァーナは先に進んで、場所が分かったら通信チャットで連絡してくれ。そうしたら私達もそちらへ向かう」
「大丈夫か?」
「ああ、髑髏の顎が動いているのは南だろ。先に方向が分かっていれば、追いつくのは楽だと思う」
ヨシュアさんと義兄さんが相談した結果、先にニルヴァーナが髑髏が示す場所へと移動することが決まった。
デモリッションズは一度船に戻り、リックを連れてからニルヴァーナの後を追うことになった。
広場を離れて髑髏の顎が動く方へとジャングルの中を移動する。
先頭は再びゴンちゃんだが、肩に乗っているのは俺ではなく姉さんとジョーディーさんだった。
一応、コブラを倒した功労者だから乗せろとアピールはしたが、まさか俺の存在自体をガン無視されるとは思わなかった……。
広場でデモリッションズと別れるとき、何故かブラッドがゴンちゃんを羨ましそうに見ていたけど……この話はどうでもいい。
しばらく深いジャングルを進んでいたが、次第に水が叩きつけられる音が近づいて来た。そう、義兄さんの
「またここか……」
義兄さんが露骨に嫌な顔をするが、手に持つ髑髏は滝の方向を示していた。
広場に出ると、昨日カバが残したクソは全て消え昨日の出来事が嘘のように美しい場所に戻っていた。
「良い所だな」
何も知らないベイブさんが滝を見て感想を述べるが、昨日の糞まみれな光景を思い出している俺達は全員が微妙な顔。
「レイ、あのカバは居ないよな」
「モンスターの反応はないよ」
ふむ、やはり義兄さんはカバに対してトラウマが生まれたらしい。まあ、フェチに目覚めるよりはましだろう。
義理の兄がスカ○ロマニアになったら、確実に兄弟の縁を切る……姉さんのうんことか、さすがに引くわ……。
「レイちゃん、何か変な事を考えてない?」
「いや、姉さんの考えている事と同じだと思うよ」
「……あまり、変な事考えちゃ駄目よ」
「姉さんもね」
お互いの考えについて照らし合わせはしていないけど、何となく一緒な気がしたから適当に答えた。
義兄さんがヨシュアさんと連絡を取っている間に、滝の裏を俺とベイブさんが調べに向かう。ちなみに、女性陣は俺達を働かせて休憩するらしい。
ここはゴンちゃんに乗っていた人が調べるべきじゃないのか? と口に出そうとしたけど、ベイブさんに肩を叩かれて振り返ると首を左右に振っていた。
夫婦円満のコツは、男の方が先に引くのが大事らしい。
滝へ近づくと、横の岩陰に滝の裏へと続く通路があった。通路を進むと滝の裏に隠れて洞窟があった。
「ベタだね。もう少しオリジナリティーないのかな?」
「確かにベタだけどそれが一番良い場合だってあるぞ、それに洞窟にオリジナリティーって例えばどんなのだ?」
「うーん。そう言われると、洞窟一つにこだわるのも馬鹿らしいね」
「面白い事は他にもあるんだから、長い時間を使ってネタ一つ考えるよりも、バラエティーが豊かな話が多い方が面白いだろう」
「誰に言っているのか分からないけど、運営はクソ野郎ってことだね」
「その通りだ」
洞窟に入った瞬間、滝の水しぶきで冷やされた天然のエアコンともいえる空気に体が冷やされる。
洞窟は思っていたよりも広く、大人が三人分の横幅があって道も奥へと続いていた。だけど奥の道は明かりがないため、暗くて見えない。
鞄に入っていたペンライトを点しても、明かりが小さく奥は見えなかった。
「んーー。明かりがないと無理だな」
「そうだな。一度戻ろう」
俺とベイブさんが戻ると、姉さん達が昼食の準備をしていた。準備と言っても鞄から弁当を取り出して川から水を汲んだだけ。
義兄さんの通信も終わったみたいで、腰を下ろして休んでいた。
「ヨシュアと連絡が取れた。場所も大体分かるらしい。すぐに来ると言っていたから俺達はここで昼にしよう」
『了解』
俺とベイブさんも腰を下ろすと、全員で少し早めの昼食を取る事にした。
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