第20話 父ちゃんの入れ歯

「杉本さん、俺は零をどう扱えば良いのか分からない……」


 義兄さんが苦痛な顔を浮かべて、ベイブさんに話し掛けていた。

 今日のベイブ人生相談室のお客様は、東京都在中パン屋の子倅さんから。美人の妻と結婚したけど小姑との関係がうまくいかないという相談です……どこぞのVR相談コーナーみたいだな。


「うむ。零君は時々突拍子もない事をするから、見守る方としては不安だろうな」

「ええ。戦っていたらゴブリンを全裸にする、スケルトンの肋骨を掴む、蜘蛛をひっくり返す、人質にとる、挙句の果てにはポーションで殴りだす。居なくなったら居なくなったで、ボスを燃き殺したり、二階から突き落としたり……正直、零の行動が全く読めない」


 サーセン。本人も読めてない時があります。


「それで藤代君はどうしたいんだ?」

「綾は好きにさせろと言ったけど、俺は何時あいつが俺達の知らない所で死ぬかと思うと心配で仕方がない」

「思い切って零君にゲームを止めるように言ってみるか? それが一番安全だろう」

「それは分かっています……だけど零はまだ知らないが……あいつの命は後一年持つか分らないらしい……」

「……!!」


 …………。


「医者が言うには、あいつの病気はフランク・サイモン病という神経変性疾患という話です……」

「フランク・サイモン病? ……聞いたことがあるな。どこで……ああ、思い出した。去年に見たニュースで……確かVR病だったか?」

「そっちの名前の方が世間では有名ですね」




 俺も去年、内藤さんから自分の病名について聞かされていた。


 フランク・サイモン病。別名でVR病ともいわれている。

 去年、アメリカでフランク・サイモンという博士が学会に発表した新型の病気で、発表と同時に世界中を驚かせた。


 この病気は若いうちにVRへログインすると、四千万人に一人の割合で発病するプリオン病と言われている。

 神経を変性させる異常タンパクが脳内で作られるらしい。

 余計なタンパクを脳に作るな、精巣で作れ。そうすれば自発電で定期的に放出してやる。

 潜伏期間は三十年から四十年の間。そして、発症すると十数年掛けて徐々に体の機能を阻止させ、最後には心臓が止まって死ぬ病気だった。


「……ニュースだと発病しても進行速度が遅いから、すぐに死ぬとは言ってなかったな」


 ベイブさんが思い出しながら確認すると、義兄さんが首を横に振った。


「零のは亜種らしい。潜伏期間も短く、通常は十数年掛けて悪化するのが十倍の速度で進行していると聞いている」

「そうか……そこまで酷かったのか……」

「ええ、去年のニュースで病気の原因が分かって、主治医が零の病気の進行状況を判断しました。VR病にしては進行速度と病状が異常らしいから、医者も正しい判断ができずに相当悩んでいたらしいです」

「それで、藤代君は零君が言うゲームでの薬を信じているのか……」

「いや、正直に言えば信じていません。ただ現実で治療方法がないのは事実で、もし俺と綾が弱かったら宗教に頼って、あり金を全部取られていたかもしれませんね。はははは……」


 月明かりに浮かぶ義兄さんの顔は普段と違って、悲壮感が漂っていた。




「藁をもすがるってやつか……」


 ベイブさんが話し掛けると、義兄さんが頷く。


「ええ、そうです。打つ手がないなら零を信じて手伝うつもりだったんだが、あいつのむちゃな行動にどう対応して良いのか俺には分からなくて……」

「零君をゲームに参加させずに俺達だけで探すという手もあるぞ、今ならヨシュア達も助けてくれるはずだ」

「……それも考えました。零にもそうしろとは言いましたが、あいつは自分で手に入れると聞かなかった。それに、これから先、あいつの盗賊のスキルなしでどこまで行けるか……。綾も言っていましたが、あいつは間違いなく天才に近いセンスを持っています。今日の喧嘩で盗賊としてのスキルだけではなく、戦闘のセンスもずば抜けている事に気が付きました」

「ふむ、途中から藤代君の様子がおかしかったが、確認していたのか」

「まあ、半分は本気でしたけどね」


 半分? いや、あれはガチだった。嘘は良くないと思う。


「恐らくですが、病気による神経の異常がVRでの能力を高めている可能性が高い。あいつが居なかったらどれだけ攻略のスピードが落ちるか……」


 義兄さんの言葉に何かを感づいたベイブさんが眉をひそめる。


「神経の異常がVRの能力を高めている?」

「ああ、これは発表されていなかったか。この病気は現実の体の停止と引き換えに、VRでの潜在能力を高めるらしいです」

「なるほど、それで反射神経が速いのか」

「そうです。零は病気による潜在能力の引き上げに加えて、ローグとしての才能が開花した結果、通常のプレイヤーよりも素早く、攻撃もクリティカルが多いですね」

「……俺も一度彼の攻撃を喰らったが、確かにあれはクリティカルだった」


 一度じゃなくて二度な。

 一回目はアーケインに向かう前の宿屋で暴れるアンタをポーションでぶん殴って、二回目は盗賊ギルドの闘争後にスイート・チン・ミュージックで蹴っ飛ばした。


「酔っていたせいもあるんじゃないですか?」

「……それもある」


 義兄さんが睨むと、ベイブさんが視線を反らす。


「だけど、攻略のスピードが落ちれば、それだけ零君の命が危なくなるか……」

「……はい」


 義兄さんとベイブさんが同時に溜息を吐いた後、しばらく無言の時間が過ぎる。

 その間、静かな夜に波の音だけが響いていた。


「ところで、藤代君はどうしてそんなに零君を大事にしているんだ? 血が繋がっていれば兄弟として心配するとは思うが、言い方は悪いが、君と零君はただの義理の兄弟だ。普通に考えると君みたいにそこまで親身になるのは珍しいと思うが?」


 ベイブさんが尋ねると、義兄さんが両肩を竦めた。


「最初は嫌いでしたね。綾と結婚する前は、綾が俺よりも零の事を大事にしていましたから、恥ずかしい話ですけど嫉妬です。綾との結婚が決まって報告をしに病院に行って初めて零を見たのですが……ビックリしましたよ」

「…………」

「アイツは体がやせ細って、いくつもの点滴が刺さり、人工呼吸器をつけている状態で生きているのが不思議でした。だけどもっと驚いたのは、目が死んでないんですよ。あんな状態でもまだ生きる事を諦めてない。そんな目をしていたんですよね」

「……ふむ」

「その時、思ったんです。もし俺が零の状態だったどうだったか……恐らく生きる希望すらなく死んでいたんじゃないかって……そう考えたら、綾が大事に守っている零を俺も大事に守ろうと心に決めたんですよ」

「立派な心がけだと思うよ」


 ベイブさんが義兄さんの肩に手を置いて頷く。


「ありがとうございます」

「それに、もう答えが出ているじゃないか」

「え?」


 義兄さんが驚いてベイブさんを見た。


「君は零君を守ると言った。だったら簡単だ。零君が暴走しても守れるぐらい藤代君が強くなればいい」

「…………」

「俺達はまだ零君の才能に振り回されているが、これから頑張って追いつけばいい。いざとなったら君が零君の盾になれ。それだけの話だと思う」

「……そうですね。やはり相談して正解でした。ありがとうございます」


 憑き物が落ちたように義兄さんが笑うと、ベイブさんも頷いた。


「明日も早い、そろそろ戻ろう」

「そうですね」

「ああ、そうだ……」


 二人が船室に戻る前に、ベイブさんが義兄さんに振り返る。


「やっぱりゲームの中で敬語はよしてくれ。俺には合わん」

「杉本さんは俺より十歳も年上だから、俺としては敬語の方が楽なんですけどね」

「それでもだ……頼んだぞ」


 ベイブさんが睨むと、義兄さんは両肩を竦めて笑っていた。




 二人が船室に戻ると、再び甲板が静かになる。


 えっと、軽い気持ちで聞き耳立てたら、ヘビーな話で困ったでござる。

 しかも、再起不能なオワタ式デスゲームに時間制限が付いたとか、どれだけ縛れば気が済むの?

 冗談はこのぐらいにして、正直に言えば覚悟していたってのが本音。

 元々二十歳まで生きられないって言われていたし、何度も死にかけたりもしていたから、今更って気がする。


 溜息を吐いて仰向けに寝そべり夜空を見上げる……空を見ていると、何時の間にか目から涙が溢れ視界が滲んだ。


 分かっては……分かってはいるんだ! …………だけど……死ぬのが怖いんだ!!


 夜空に浮かぶ月と無限に散らばる星の光が、大海原を青く輝かせる……。

 船に打ち付ける波の音で隠す様に嗚咽をかみ殺し、気が済むまで泣いた……。




「お部屋の中でフードは駄目でしゅ」


 翌朝、腫らした目をフードで隠し朝食を食べていたらクララに怒られた。


「ファッションだよ」

「よくわからないでちゅが、ださいと思いましゅ」


 クララが首を傾げて心臓を抉る精神的ダメージを与える。可愛いは残酷。


「レイ!」


 クララが去った後、精神ダメージを回復していたら義兄さんが俺の前に座った。


「何?」

「昨日は悪かった。俺もついカッとなってやっちまった」


 お前は頭に血が登ると人を殴るのか? 犯罪予備軍がここに居る。


「……別に気にしてない」


 昨晩の義兄さんの気持ちを知っているから、俺は首を横に振り謝罪を受け入れる。知らなかったら、顔面に唾を吐いて中指を立てていた。


「これからはレイの好きなようにやってくれ、俺も出来るだけフォローするように努力する」

「分かった。こっちも出できるだけ連絡を取るようにする」

「そうしてくれると助かる」


 そう言って、義兄さんが照れくさそうに笑い、席を立って食堂から出て行った……ブラックリストに入っていた義兄さんの登録を元に戻してあげた。




「島が見えたぞーー!!」


 昼前に船の前方から島が現れた。

 甲板に出て確認すると、島の大きさは直径5,6Kmぐらいで、中央に小高い山。その周辺にはジャングルが茂っていた。


「あれが目的の島なのか?」


 近くに居たシャムロックさんが近くに居た船員に尋ねると、船員が「そうです」と頷く。


「とうとう海賊と本格的に戦うのか……」


 ブラッドが呟いて頬を叩いて気合を入れる……あれ?


「何で海賊と戦うって決定しているの?」

「そりゃ、漫画や映画だと、財宝の目の前でライバル同士の決闘のシーンがあるじゃん……あれ? もしかしてないの?」


 俺が質問するとブラッドがきょとんとした表情をする。


「さあ、知らないけど、それだとベタ過ぎじゃね? マンネリは飽きられるし、ゲーム運営も少しはアレンジするんじゃね?」

「レイって、いつも運営をディスってるよな」


 うーん、そんなつもりはないんだけどな。

 だけど、運営には言いたい事が色々ある。スキルとか、スキルとか、スキルとか……クソが死ね。


 船はそのまま島へと近づき、片耳の海賊に見つからないように1/4周して、大きな岩のある入り江に隠れるように停泊した。




 義兄さんとヨシュアさんが検討した結果、ベイブさんを除くニルヴァーナと、ヨシュアさん率いるデモリッションズ。そして、ベイブさんの替わりに、アルサが俺達のギルドに参加して島を探索する事になった。

 ベイブさんは船に何か遭った場合の連絡係として残って、レッドローズ号に何かトラブルが発生したら、通信チャットで義兄さんとヨシュアさんに連絡を入れる予定。

 ちなみに、ベイブさんが残るのは、じゃんけんで負けたから。

 本当この人はギャンブルが弱い。十二人同時にじゃんけんして一発で負けるとか、ある意味凄いと思う。

 リックとフランはお留守番。宝の場所が見つかってから連れて来る予定。

 アビゲイルは船長だから居残り組。

 クララとアルドゥス爺さんは、クララがまだ幼い理由でやっぱりお留守番。

 クララが島に行きたいとギャン泣きしたけど、さすがに年齢が低すぎて危険だからと、アルドゥス爺さんに止められた。


「クララちゃん。僕と一緒にお留守番してようね」

「うぐっ……うぐっ……わかりまちた……うぐっ」


 皆が宥めても泣き止まないクララは、リックが宥めたら一発で泣き止んだ。さすが、リック。ハーレム持ちは伊達じゃない。




 遠くから見たら小さい島だと思っていたけど、上陸してみると意外と広く、一日で全てを探索するのは難しそうだった。

 中央の山を見れば高く聳えていて、横に居た姉さんが嬉しそうだった。そんな彼女は山ガール。


「よし、そろそろ行くか! 俺達は左から、デモリッションズは右から頼む」

「分かった。何かあったら連絡してくれ」

「ああ、予定通り、夕方には一度戻ろう」


 全員で行動するのは非効率なので、二手に別れる事が事前に決められていた。

 俺達は西から、デモリッションズは東からジャングルに入って、山の麓までを探索する予定。


「それじゃあレイ、先頭で検索を頼む」

「了解」


 軽はずみで返事をしたけど、目の前のジャングルを見れば、茂みに覆われて道は無く重労働だと思われる。

 俺が考えている間、チンチラがゴンちゃんを召喚していた……良い物見っけ。


「よっと!」

「……え?」


 召喚されたゴンちゃんをよじ登って肩の上に座った。

 俺の突然の行動に、チンチラが俺を見上げながら口をポカンと開ける。


「……レイ、何をやってんだ?」


 義兄さんがゴンちゃんの上に乗る俺に質問する。


「だって、ジャングルの草木をかき分けて進むのって面倒くせえし。ゴンに乗って行けば楽じゃね?」


 俺が答えると、義兄さんが額を押さえて溜息を一つ吐いていた。


「……日を追う毎に、お前の行動が意味不明になって理解に苦しむ……まあ、いい。チンチラも問題ないな」

「……あーうん。大丈夫……かな?」


 義兄さんに問われて、チンチラが理解が追い付かないまま頷いていた。

 だけど、意味不明じゃなくて、そこは合理主義と言って欲しかった。




 楽ちんでござる。

 ゴンちゃんの上に乗って正解。

 俺の下では、ゴンちゃんが力任せに茂みを掻き分けながら進んでいた。

 かなりの重労働だが、ゴーレムなので疲労はない。キャー、ゴンちゃんステキー! 冗談はさておいて、ゴンちゃんのおかげで俺はスキルを使った検索に集中する事ができていた。

 だけど、デモリッションズはどうやって進んでいるんだろう? ステラだと力が足りなそうだし、シャムロックさんが先頭で茂みをかき分けているのかな?

 想像したら、何故かブラッドが泣きながら剣で茂みを切り進み、その後ろで「訓練! 訓練! ガハハハハ!」と笑うシャムロックさんが脳裏に浮かんだ。


 ジャングルに入ってスキルの生存術を起動させると、探索範囲に数えきれないほどの生命反応を検知した。

 ふむ。サバイバルスキルと合わさって素材も検知しているから、物凄い数だな……何とかならないかなと考えていたら素材の検知が消えた。

 あれ? と思って、今度は動物を削除してモンスター系だけを検知できないかなと考えていたら、検索範囲の生命反応が数個を残して消えた……。

 便利だけど事前に説明は必要だと思う。ご都合主義とか言われそうだし、ご都合主義は叩かれる。




「レイ、何か見つかったか?」

「いや、まだ」


 カバオ君の父ちゃんの入れ歯だってすぐに見つからないのに、財宝なんてそんな簡単に見つかるわけない。

 ちなみに、カバオ君は昔、幼稚園で見たくもないのに見せられた交通安全用のアニメ『パー○ン』のキャラクター。百数十年前ものアニメキャラを見せられても、誰も分からない。

 アニメを見終わって、警察署から来た婦警のお姉さんへの最初の質問が、「○ーマンって何ですか?」と言われて婦警のお姉さんも困っていた。

 それと、アンパン野郎のサブキャラにも擬人化したカバオが居るが、あれは飯を食わせていれば放置でオッケー。


【カバオ君の父ちゃんの入れ歯の歴史】

 ・第80話→「入れ歯も見つかっちゃったし」とサブの台詞。

 ・第96話→入れ歯は一度見つかったが、タマが持っていったらしい。

 ・第119話→入れ歯、口の中で見つかる。

 ・第121話→入れ歯は見つかったがまた無くしたらしい。

 ・第156話→入れ歯は見つかったが今度は落としたらしい。

 ・第167話→昨日の晩見つかったらしい。

 ・第184話→入れ歯は見つかったが、向かいの犬のタロウとジロウが持っていったらしい。

 ・第191話→ミツ夫が一日一善する話だが、そんな日に限って入れ歯は見つかったらしい。

 ・第270話→ついに入れ歯を新調する。

 入れ歯を新調したけど、第297話で無くして、「入れ歯会話」シリーズが幕を閉じる。


 突然こんなのが脳裏に浮かんだけど、何これ? 本当に無駄な豆知識だな、多分一生使わない。

 カバオ君の父ちゃんの入れ歯がどこへ行こうが構わないが、俺達の目的は財宝だ。中途半端なメタなら止めろと言いたい。


 だけど、探そうにもどこに行けば良いのか分からない。島にあるのは確実だと思うけど、ジャングルは木が邪魔で遠くが見えないし蒸し暑い。

 奥に進むにつれて動物だか鳥だか知らねえが、ギャーギャーと至る所から叫び声も聞こえてくる。発情期か?

 ちなみに、ベイブさんが抜けてアルサが入ったから、今のパーティは女子が四人。

 こちらもギャーギャーとガールズトークが煩かったけど、そっちも発情期か?


 山を目印にして現在地だけは確保はしていたから、同じ場所を回るのは回避している。


「義兄さんこのまま山の方へ向かっていい?」

「そうだな。竜の玉とか言われても分からないし、ある程度進んだら山へ向かおう」

「金の玉だったら俺の……イデッ」


 セリフの途中で、姉さん、チンチラ、義兄さんから同時に石を投げられた。

 ジョーディーさんとアルサは俺に向かってサムズアップ。やべえ同類に見られてる。




 変わらないジャングルを進むと、水の音が前方斜め右から聞こえてきた。

 休憩するのに水場も良いかと、少し進む方向をずらすようにゴンちゃんに指示して進む。

 しばらく進むと、前を邪魔する茂みが途絶えて、目の前にジャングルの楽園が広がった。


 山の麓に近いのか、むき出しの高い岩の上から水が滝のように流れて小さな虹が架かる。水は底の見えない深い滝壺に流れ落ち、そのままジャングルの奥へと流れていた。

 冷たい滝しぶきが顔に当たると、先ほどまでの蒸し暑さを吹き飛ばしてくれた。


「キレイな場所ね」

「そうだな、少し休憩にするか」

「「「さんせーい」」」


 上から姉さん、義兄さん、チンチラ&腐女子’s。

 俺もゴンちゃんから降りて休憩に足を延ばす。岩の上に長時間乗ってるとケツが痛たかった。だけどアーケインに居た頃、既に新たなステージへ入っていた俺は、ぎもぢいい!! イグ!! イグ!!

 だけど、他の皆は歩きだから少しでも快楽に喘いだら睨まれるし、怪しい目で見られる。何も言わないのが利口な人。


「レイ君って、喋る時と無口な時があるよね」


 ジョーディーさんが突然俺に聞いてきたけど、そうなのかな?


「んー入れ歯について考えていた」

「何それ?」

「何でもない、気にしないで」


 本当に気にしないでくれ。


 昼にチンチラが出かける前に作った弁当を皆で食べる。中身は魚のフライとキャベツの千切りが入ったソース味のサンドイッチにポテトフライ。

 冷めていたから味は落ちていたけど、美味しかった。


「どうかな?」

「ジョーディーさんの作った料理より美味しいよ」


 チンチラに味を聞かれたから素直に答えると微妙な顔をされた。比較対象が悪かったらしい。

 このパーティでマッドシリーズの犠牲者じゃないのはチンチラだけか、一度食べさせてみたい。きっと一部のマニアが興奮するプレイになるだろう。


「さて、これからだが、川を越えるのも手間が掛かるし山へ向かおうか」


 食後にゆっくりしていたら脳筋な義兄さんが行動予定を言い出したけど、もう少し休ませて欲しい。

 せっかくの良い景色なのに、義兄さんにとってはただのヴァーチャルリアリティコンピューターグラフィックス


「そうね、もう少し休んでか……」

「敵だ!」


 姉さんが意見を言っている途中で、危険感知スキルが俺達へ突進してくる反応を知らせて皆に叫ぶ。

 アルサもスキルで気が付いたのか、俺が叫ぶのと同時に立ち上がって武器を抜いた。

 少し遅れて、残りの皆が俺の視線の先を向き武器を構える。


「状況は?」

「ジャングルの中なのに凄く速い速度で近づいて、もうすぐここに来る」


 この速度は森のモンスターだと定番のイノシシ系か? だけど、熱帯雨林に体毛のある生き物は少ないから違うかも……。

 目の前の茂みがごそごそと揺らぎ音を立てると、勢いよくカバが突進してきた。


 カバ?


「……カバオ君が布石だったんかい!!」


 カバを見て思わず叫んだ俺が居た。

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