閑話 転職とクーデター02

「それでどうする?」


 盗賊ギルドを出ると、イキロが腕を組んで考えながら歩くシュバルツに質問する。


「あの受付の人が言っていた、もう一つの盗賊ギルドを探すしかないかなぁ」

「だけど、そこもぼったくりだったらどうするのよ?」


 ミミからの質問にシュバルツが頭をかきむしる。


「その時はその時だよ」

「だったら先にさ、冒険者ギルドに行ってサバイバルスキルだけでも買わないか?」


 イキロの提案にシュバルツが頷く。


「そうだね。確か冒険者ギルドで売っているスキルは安いって、ネットでも書いてあったし先にそっちを取るか!」


 余ったお金で購入予定のサバイバルスキルを先に取得する事に決めると、三人は冒険者ギルドへと向かった。




「何か騒がしくない?」

「何があったのかしら?」


 冒険者ギルドの近くまで行くと、何時もと違って冒険者ギルドの周辺が騒がしかった。


「あれ? あそこに居る人、確かレイさんのお姉さんじゃないかな?」

「本当だ。凄い美人だからすぐ分かるよね」


 シュバルツが指さす先をミミが見ると、日の光に照らされて輝く金の髪を纏わせた美人のエルフが、これまたイケメンの金髪の男性を会話をしている様子だった。

 彼等がコートニーを見ていると、会話を終えた彼女が視線に気づいてイキロ達の方を振り向く。


「あら? あなた達は確か、レイちゃんのお友達だったかしら?」


 首を傾げて近づく彼女にイキロとシュバルツがビシッ! と背筋を伸ばした。


「「ハ、ハイ!! お久しぶりです」」


 そんな二人を横目で見てミミが呆れる。


「やっほー。こんにちは」

「え、えっとコートニーさんでしたよね。こんなところで何をしてるんですか?」


 イキロが尋ねるとにっこりと笑って……「うふふ。クーデターよ」と、笑顔で言うセリフが怖い。


「「「はい?」」」


 三人はそれを聞き間違ったと思っていた。


「テロリズムとも言うわね」


 どうやら聞き間違いではなかったらしい。


「クーデターですか?」

「皆は何でスキルの値段が高いか、知ってるかしら?」


 ミミが首を傾げて尋ねると、逆にコートニーから問われて三人が首を横に振る。


「実はアーケインで決まっていたスキルの値段を無視してね、スキルを管理するはずのトップが汚職をしているのよ」

「本当ですか!?」


 それを聞いてイキロ達が驚く。


「レイちゃんが証拠を手に入れたわ」

「あの人……何やってるんですか?」


 シュバルツが半分尊敬、半分呆れて呟く。


「それでね。国に訴えようとしても私一人じゃ無理だから、他のプレイヤーの人達にも協力してもらって一緒に訴えようと思うんだけど、協力してくれないかしら?」

「えっと、具体的には何をやるんですか?」


 シュバルツの質問にコートニーがにっこりと頷く。


「簡単に言えば陳情よ。一緒に不正している戦闘ギルドに訴えてもダメだけど、冒険者ギルドは不正に関わってないみたいだから、そちらの窓口に行ってスキルの値段が高いって訴えて欲しいんだけど、良いかしら?」

「はい、僕も盗賊のスキルが高くて買えなかったから喜んで手伝いますよ」


 シュバルツが答えると、コートニーが首を傾げる。


「あら? えっと、シュバルツ君だっけ? あなたも盗賊になるのかしら?」

「はい、僕達のパーティって盗賊が居ないから僕がなろうと思ってたんですが、スキルが高くて半分諦めてるんです……」

「この国が指定していない盗賊ギルドだったら、紹介できるわよ」

「「「え?」」」

「本当は秘密なんだけど、協力してくれるならレイちゃんの友達だし特別に教えてあげるわ。だけど、皆には内緒にするという条件はあるけどね」

「「「手伝います!!」」」」


 こうして、彼等は盗賊ギルドの場所を教えてもらう条件でクーデターに参加することになった。




 コートニーと別れてからイキロ達は冒険者ギルドの窓口に行き、スキルが高すぎると訴えた。

 それが終わると、冒険者ギルドの周辺に居たプレイヤーにもコートニーから聞いた汚職の話をして、冒険者ギルドの窓口に行くように促す。


 声を掛け始めてから一時間。

 冒険者ギルドの窓口は、陳情するプレイヤーで溢れかえっていた。


「ちょっとやり過ぎたかな?」


 イキロがその光景を見て冷や汗を垂らす。


「あはは、なんか掲示板も凄い事になってるみたいだよ……」


 シュバルツがコンソールを見て顔を引きつらせていた。


「だけど疲れた~。知らない人に声を掛けるのって、精神がガリガリ削られるよね」

「うんうん」


 ミミのセリフにシュバルツが頷く。


「始めの村で声を掛けた時は緊張したんだぜ」


 二人の会話にイキロが肩を竦めていた。


「ご苦労さま」


 三人の後ろから声を掛けられて振り返ると、コートニーが笑顔で立っていた。


「あ、コートニーさん。約束通りにプレイヤーを煽っときましたよ」


 シュバルツが報告すると、コートニーが頬に手を当てながら冒険者ギルドの方を見る。


「あらら、凄い事になっているわね」


 冒険者ギルドでは入りきれないほどのプレイヤーが溢れていて、大声でスキルの値段を安くしろと叫び、冒険者ギルドの職員が外に出て彼等を宥めている様子だった。


「生産者ギルドでも同じ状態だったわ」

「「「え?」」」


 それを聞いて三人が驚く。


「ここだけじゃなかったんですか?」

「ええ、生産者ギルドにプレイヤーが、調合ギルドでもNPCの人達が暴徒と化しているわね」


 イキロが尋ねると、コートニーが笑いながら他の地域について教えてくれた。


「「「…………」」」


 三人は彼女の笑顔を見て、この人はもしかしてあの人よりも怖い人なのかもと気付く。


「それじゃ約束通り、盗賊ギルドの場所を教えてあげるわ」


 コートニーが動揺しているイキロ達を知ってか知らでか、地図が描かれた紙を手渡した。


「あ、ありがとうございます」

「ギルドの前に居る人に私の名前を言えば、入れてくれると思うわ」


 それを聞いて、三人が何でこの人は盗賊でもないのに顔パスなのかと不思議に思いつつ、やっぱりこの人もあの人と同じ血が流れているんだなと考えていた。


「ちなみに、この始末はどうなるんですか?」


 ミミが冒険者ギルドの暴動先を指さすと、コートニーが首を傾げて……。


「……さあ?」

「「「…………」」」


 まさに外道。

 コートニーの様子を見た三人の頬は引き攣っていた。




 三人は冒険者ギルドを離れると、コートニーの地図を頼りにアーケインの街を歩き、何時の間にかスラム街に来ていた。


「ゲームなのに何だか怖いところね」

「最近のVRはグラフィックもほとんど現実と同じだからなぁ。本当にスラム街に居るみたいだ」


 ミミの呟きにイキロも頷く。


「掲示板だとNPCが詐欺やスリをするらしいよ」

「ええー!?」


 シュバルツから聞いてイキロが慌ててお金が盗まれないように懐を抑える。


「僕達プレイヤーはコンソールを使ってお金を出すから、それって意味ないよ」

「あ、そうだった」


 シュバルツの突っ込みに、イキロが笑いながら頭を掻いてごまかした。


「ねえ君達」

「「「え?」」」


 後ろから声がして振り返ると、髪の毛をリーゼントにした若いNPCが、にやにやと笑いながらイキロ達を見ていた。


「ちょっと儲け話があるんだけど時間ある?」


 詐欺の話をしたすぐ後で現れた儲け話を誘うNPCを見て、三人同時に「コイツ、詐欺師だ」と疑ったのは当然だろう。


「「「…………」」」

「あれ? どうしたのかな?」


 三人が黙ってNPCを見つめていると、詐欺師が首を傾げる。


「何で黙っているのかな? まあ、いいや。今さ、俺、金に困ってるんだよね。だから本当だったら10Gするこのシルバーアクセサリーを10sで買わね?」

「……メッキがはがれてるよ」


 NPCが三人に見せたシルバーアクセサリーを見てシュバルツが呟く。NPCが見せたシルバーアクセサリーは、一部が剥がれて鉄らしき色が見えていた。


「チッ! そろそろこのネタも潮時か。おまえら、いいから金寄越せや!」


 詐欺NPCがアクセサリーをポケットにしまうと、突然イキロの胸ぐらを掴んだ。


「あ?」

「イキロ、ダメだ。コイツを殴ったら衛兵が来る」

「マジか?」


 イキロがNPCを殴ろうとしたところを、シュバルツが止める。


「ああ、掲示板に書いてあった。コイツはチュートリアルに近いNPCで、殴ると衛兵に捕まって説教されるらしい」

「何をごちゃごちゃ言って……え?」


 イキロの胸ぐらを掴んでいた詐欺NPCだったが、突然、彼の首に腕が現れて詐欺NPCの首を絞め始めた。

 イキロ達が詐欺NPCの後ろを見れば、何時の間にか筋肉の塊のようなプレイヤーが詐欺NPCの首を絞めていた。


「ぐぐぐ……だ、誰、だ……」


 チョークスリーパーが完璧に決まっていたらしく、抵抗しようとした詐欺NPCはあっけなく落とされて地面に倒れた。


「えっと……誰?」


 ミミがビックリしながら背の高い筋肉の男性を見上げると、男は歯並びの奇麗な歯を見せて笑った。

 それを見て、三人同時に歯並びの奇麗なゴリラだなぁと思ったけど、全員口に出すのは控えた。


「ああ、気にしないでくれ。うちのパーティの一人がコイツに騙されてな。代わりに仕返しに来ただけだ」

「……はぁ」


 イキロが気の抜けた返事をする。


「ちなみに、教えるが殴るだけなら衛兵は来ないぞ」

「そうなんですか?」


 筋肉の男の話にシュバルツが聞き返すと頷いた。


「ああ、流血させたり、殺したりしない限り衛兵は来ない。だから、絞め落とすのが確実だ」

「なるほど……」


 イキロが納得していると、筋肉の男が詐欺NPCの襟首を掴む。


「それじゃ、俺はコイツに用がある。機会があったらまた会おう」


 そう言って、筋肉の男は笑いながら詐欺NPCを引き摺り奥へと消えて行った。


「……何だったんだ?」

「「…………」」


 イキロの呟きに、シュバルツとミミは答えを持ち合わせていなかった。

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