第19話 魔人降臨
「『リリース・ゴーレム』」
チンチラが呪文を唱えるとゴンちゃんの足元に魔法陣が現れて、ゴンちゃんがズブズブと地面に沈む……。
魔法陣が光って神々しい雰囲気を出しているが、対象が力士だからシュールである。何となく昔見た『SUMOU』という動画を思い出した。
聞くところによると、街内ではゴーレムの召喚を禁止しているらしい。確かに町中でゴーレムが歩いていたら邪魔だと思う。
土に帰ったゴンちゃんを見届けて城下町に入り、寄り道せずに毎度おなじみの『反省する猿』亭へと戻った。
「レイ、遅かったな。皆がサロンで待ってるぞ」
宿に入ったら何故か義兄さんが俺達を待っていた。そして、皆と言うことは全員居るということだろう。あの
義兄さんは舌打ちする俺を無視して、チンチラに爽やかな笑顔を向けて手を振る。
グーパンを入れたい、その笑顔。
「君がレイの彼女か、よろしくな」
「え? ち……違います!」
「違うから」
慌てるチンチラと冷静に突っ込む俺。
ニヤケる義兄さんの顔がいやらしい。年上で結婚している義兄さんからしてみたら、若い俺達をくっつけるのが楽しいのだろう。
だけど彼は気付いてない。そう考えている時点で、俺らからするとお前はおじさんなんだよ。だから早く精神も大人になれ。
そして、チンチラは義兄さんの顔を見て驚いていた。ああ、脳筋だけど喋らなければイケメンだからな。
死んで豚に生まれ変われ、そしてあのメス豚の子を作れ。
義兄さんとチンチラが会話をしている間に、宿のカウンターで今日の宿泊を予約する。その最中、義兄さんがサロンへとチンチラを案内していた。
俺も後からサロンに入ると、案の定、全員が揃って俺達をニヤニヤ見ながら待ち構えていた。スケベ共が物欲の次は出羽亀か?
「やっほーレイちゃんお疲れ~~。この子が言っていた相撲部屋の女将さん? 女将さんにしては凄く可愛いわね。おいで~、こっち座って~~」
「かわいい~~。レイ君とお似合い~~」
姉さんとジョーディーさんは、チンチラを見てノリノリだった。彼女等の中ではチンチラを妹として扱いすることが、決定されていた。
お気に召したようで……せめて、性格と性癖が感染しないように心から祈る。特にチビの性癖はマジでうつらないで欲しい。
二人がチンチラを手招きして間に座らせ、俺はチンチラが座った反対側の一人用ソファーに、腰を落ち着かせた。
「君は何のスキルを……」
「まずは自己紹介でしょ!!」
さすが義兄さん、脳筋にブレがない。
自己紹介の前にスキルを普通聞くか? すぐに姉さんに怒られる。バーカ、バーカ。
「あー失礼した、俺の名はカート。このパーティーのリーダーでタンクをしている。当然、職業も戦士で盾持ちだ。
コートニーの……ああ、コートニーってのは君の隣に座っているエルフだが、彼女とは結婚している。宜しくな」
義兄さんが最初に自己紹介をすると、続けてメンバーが自己紹介を始めた。
「私は今紹介にあずかりましたコートニーよ。レイちゃんとは本当の姉弟で、クラスは水魔術師をしています。よろしくね」
姉さんが自己紹介すると、チンチラは俺と姉さんが本当の姉弟と知って驚いている様子だった。俺も時々姉さんと姉弟だと思い出して驚くから理解できる。
「ジョーディーンでーす、ヒーラーでーす。ジョーディーって呼んでね~。隣の狼男とは実夫婦よ」
「ベイブだ。このパーティーのメインアタッカーを務めている。よろしくな」
「ほら、レイちゃんも自己紹介して」
ウキウキな姉さんに促されて、今更ながらに俺も自己紹介をする。
「レイでクラスはローグ。このゲームは姉さんに誘われて始めた。以上」
何となく今更で恥ずかしかったから簡潔に言う。
「まだだ。レイ、部屋の中だからフードを取れ」
ああ、チンチラを驚かせるつもりか。
義兄さんが笑いながら俺にフードを脱ぐように煽る。全員がワクワクした顔をして、チンチラが首を傾げている中、しぶしぶと被っていたフードを捲った。
「えええぇーー!!」
「「「「あははははっ!!」」」」
俺の顔を見て驚くチンチラを見て、俺以外の全員が爆笑していた。
「あははははっ。レイ~~やっぱり一度も顔を見せていなかったな。いやーー反応が面白い」
義兄さんが俺の肩を抱き寄せて目頭を押さえながら笑う。
だけど、今日が初対面だし仕方がないじゃないか。もう満足しただろ、首を横に振ってからフードを被って顔を隠した。
俺達の紹介が終わると、チンチラがガチガチに緊張した様子で自己紹介を始める。
「チンチラです。クラスは召喚士でゴーレムを使います。VRのネットゲームは初めてで、色々とご迷惑をお掛けすると思いますが、よろしくお願いします」
「へぇ~、歳はいくつ?」
「あ、十六歳です」
男だったら叱られる質問も女同士ならサラッと聞けるらしい。ジョーディーさんが年齢を尋ねたらチンチラはあっさりと答えた。
うむ、なんとなく大丈夫だと思ったけど年齢に偽りはないようだ。ここまでお膳立てして更年期障害のババアだったら、年齢詐欺で訴えるとこだった。
チラリとジョーディーさんを見ると、それに気が付いたドチビがこっそりと俺に向かって中指を突きつけた。意味は「年齢を聞いたら殺す」だと思う。
「召喚士か、戦闘の方法の幅が広がるな」
そろそろ脳筋、空気を読め。
「大丈夫よ~。レイちゃんだってネットゲームは久しぶりだけど、凄く役に立っているし、きっとすぐに皆と慣れるわ。
ねぇねぇ、レイちゃんとはどこで知り合ったの? お姉さんに教えて?」
「聞きたい、私も聞きたい。人間嫌いなレイ君が急に女性を連れて来るんだもん。もうびっくりだわ」
おい、そこのクソチビ、人間嫌いのレッテルを張るのは止めろ。
「え? あれ? あれれ~?」
チンチラが女性陣二人の質問攻めで目を回している。
姉さんとジョーディーさんは、餌に食いついた犬のようにチンチラを放そうとしないし、男性陣はそれを見てにやにや笑っていた。
「皆、あまり酷いとセクハラでGMコールするよ?」
「「「「はーい」」」」
俺の忠告に返事をしたけど、右から左に受け流して無視をする。すまん、俺じゃコイツ等を止めるのは不可能だ。
その後、チンチラは皆のおもちゃにされてフラフラだった。
初めて女子会を間近に見た感想は、正直言って女子会をなめていた。パネェ。
サロンに女子三人を中心とした
義兄さんとベイブさんは、彼女達の会話を聞いて笑っていたが、それは最初の内だけだった。
姉さんとジョーディーさんが、チンチラに向かって旦那の駄目だしトークを話始めると、その駄目旦那の二人は段々と顔が青ざめて頬が引き攣り始めた。
当然、聖域は男子禁制。義兄さん達が止めようにも、彼女達のトークは止まらなかった。
チンチラは二人の聞き手として、愚痴を聞いてはコクコクと頷いていたけど、彼女も旦那二人と同様に頬が引き攣っていた。
ゴンちゃんが見たいというジョーディーさんの願いを聞いて、チンチラが膝丈ぐらいの小さいゴンちゃんを出した。
小さいゴンちゃんをどこかで見た事あるけど、どこでだっけ? ……ダメだ。やっぱりタイトルが思い出せない。
このゴンちゃんはオブジェクト扱いで攻撃は全くできないらしく、このサイズであれば街中でも召喚して良いらしい。時々、腕を上げたり体を動かしたりしているが、四股を踏め。
姉さんとジョーディーさんは、「可愛い」と言ってゴンちゃんを撫でまわしているけど、俺から見たら力士を可愛いと言うセンスがイマイチ理解できない。小さければ何でも良いのか?
そして、俺とチンチラとの出会いの話になった時、避けられない話題として調合師ギルドのメス豚が出た。
チンチラが調合ギルドの出来事を話すと、初めの内、皆はありえないと笑っていたが、話が進むにつれて目の色が変った。
「レイ、今の話は本当か?」
チンチラの話が終わるとベイブさんが俺に質問してきた。
「さあね。メス豚とチンチラが会話していた場には立ち会ってないから、それについては知らない。
だけど、俺がそのメス豚に会った時の態度から間違いないと思う。それに、生産ギルドに行った時も被害にあっているプレイヤーの話は聞いてるぜ」
それから、生産ギルドに行った時に聞いたメス豚が立ち塞がってスキルを購入できないプレイヤーと、施設使用料が異常に高かった事を話した。
「何それ、許せない!!」
その話を聞いてジョーディーさんが怒りで声を荒らげる。他の皆を見れば、口には出さないが彼女と同様に怒っている様子だった。
「GMには連絡したのか?」
「えっと、してないです」
義兄さんに言われて、チンチラが別に自分が怒られている訳でもないのに縮こまる。
「チンチラ、GMに今すぐ連絡して話をしてみるんだ。最低でも金だけは戻してもらうように言った方がいい。バグ報告もプレイヤーの義務だと思え」
地下墓地のボス蜘蛛が引っかかったのは、バグじゃないのか?
自分の都合の良い時は報告せずに悪い時だけ報告する。見事に自己中心的な考えだと思うが、その考えは俺も好きだぜ。
「あ、はい。分かりました」
チンチラが義兄さんの指示に従ってコンソールを弄りGMと話し始めた。
GMとの通話の最中、段々とチンチラが落ち込んでいく様子が分かった。どうやら、結果は思わしくないらしい。
チンチラはGMとの会話を終わらせると、がっくり肩を落とし溜息をはいた。
「駄目でした。NPCのAI行動に関しては、基本的にノータッチみたいで、お金も帰ってこないみたいです」
パキン!
チンチラの話を聞いたその直後、彼女の隣に座っていた姉さんが掴んでいたティーカップの持ち手部分を握り割った。
この女、破壊不能オブジェクトを破壊しやがったぜ……マジか?
「「「「「…………」」」」」
悪魔、いや、姉に全員が仰天して、姉さんと破壊されたカップを無言で見つめる。
特に義兄さんは驚きのあまり瞳孔が開いていたけど、おそらく俺も同じだったと思う。
破壊神を見ればいつも以上にニコニコと笑っていた。ちなみに目は完全に笑ってない。
そして……常人には見えない、身内だけが分かる姉さんの背後のオーラが、ドス黒く変わっていた。
キターーーー! 魔人降ー臨ーー、ドSシステム発動ーー!! 退却ー!! 全員たいきゃーく!!
久々に見たけど相変わらずおっかねえ。義兄さんも姉さんを見て顔を青ざめていた。
最後に見たのは、確か中学の頃、俺が病気で動けない事を良いことに、悪戯しようとした看護師が地獄を見たのが最後だったはず。
そのおかげで、俺の部屋は個室VIPルームで本来の1/10の値段になった。
ちなみに、治療費は普通に払っている。
「レイちゃん。当然、何かしたんでしょうね?」
魔人の笑顔が怖い。笑いながら睨むのは止めて欲しい。
何もしてないとか言ったら間違いなく精神を潰される。睨まれただけで石になる。
「モチロンデス」
「詳しく話して頂戴」
姉さんに促されて、生産ギルドの受付の姉さんとのやり取りを話した。この話はチンチラにも話してなかったので、それを聞いた彼女も驚いていた。
チンチラのためじゃなくて俺の腹いせだったけど、やって本当に良かった。あの時の俺ありがとう。
「密告先の権力が少し弱そうだけど、直接手を出さなかったのは正解ね。ギリギリ及第点を上げるわ」
セーフ。褒めてもらえたけど、嬉しさよりも安堵の比率の方が高い。
「怖ぇ。この姉弟は怖いわ」
義兄さんが聞こえないように呟いているけど、俺からしたら姉さんを嫁に貰ったあんたが凄い。
「チーちゃん、もう大丈夫だから安心してね。後は私が何とかしてあげる」
「え? ええ? あーーはい? ありがとうございます」
チーちゃん? チンチラのチー?
チンチラは何も分からず姉さんに礼を言ったけど、それ以上に動揺していた。訂正、震えていた。
それで何とかって何ですか。どうするつもりですか?
「えーと綾ちゃん? あんまりやりすぎないでね……。ほら、前に商店街をつぶそうとしたスーパーが撤退した時も、大変な事になっちゃったしね」
さっきまで怒っていたジョーディーさんが、今は逆に青ざめて姉さんに注意する。
ベイブさんは何の事か分からず首を捻ったが、途中から何かを思い出して、目を大きく見開きながら「まさか……まさか……」と呟いていた。
確か、半年前に姉さん達の店がある商店街の近くで、建設する予定だった大手スーパーが突然白紙撤退したけど、姉さん、アンタ一体何をやったんだ。
「レイちゃん。とりあえず生産ギルドでした嘘を全部教えて」
「へ? 何で?」
ひいっ!! 笑顔で睨まれた。
「そんなの決まっているじゃない。嘘を本当にするためよ」
「ハイ、ワカリマシタ」
ごめんなさい、ごめんなさい。勘弁してください、全部白状します。
「後はベイブ、ゴブリンのクエストで売った武器のお金を全部頂戴。それとカートは明日、私に付き合うこと。忙しくなるわ~」
「一応、何をやるのか聞いても良いか?」
義兄さんが恐る恐る聞くと、姉さんが満面の笑みで微笑む。
「あら? 大した事じゃないわ。GMがAIの行動を制御できないのなら、レイちゃんがやったみたいに、AIはAI同士で制裁してもらうだけ。その裏工作♪」
それを聞いて、チンチラを除く全員が同時に天を仰いだ。
その後、俺達とチンチラのゲーム活動時間の調整や、ログイン前の合流用連絡アドレスの交換をする。
「チーちゃん。今日はこっちの宿に泊まってくよね?」
姉さんが確認すると、チンチラがこめかみをポリポリ掻いて困った表情を浮かべた。
「えーっと、そうしたいのですがお金がなくて……このまま夜の間だけログアウトしようかなぁって、あはははは」
彼女の話を説明すると、このゲームは夜の間だけログアウトしてゲーム時間が朝になってから再びログインすることも可能だけど、ゲーム内で睡眠を取らないとその日のHPとMPのMAXとステータスが3/5に減るデメリットも兼ねているのでお勧めはできない。
ただし、現実時間で半日経過するとデメリットが無効になるので、前日はゲーム内で寝る前にログアウトして、翌日張りきってゲームしようとしたらステータスが低かったということはない。
ゲームをする時間が限られているブラック企業にお勤めのマゾリーマンにも安心。現実でもゲームでもマゾか、究極のドMやな。
まあ、ドMの話は置いといて、チーちゃん甘いぜ、俺はその遠慮する性格を既に見切っている。
「姉さん、受け取って」
俺が宿のカギを投げ渡すと、姉さんは飛んできた鍵をキャッチした。
「何かしら?」
「チンチラの宿泊費を払って大部屋を取ったから、姉さんとジョーディーさんも大部屋に移動してね。
今持っている鍵は荷物を移動したら宿の女将さんに返しといて」
チンチラを除く全員が笑顔を俺に向けた。気が利かないと後で説教されるから、これ位は安い出費。
「さすがレイちゃん、気が利くわ。ありがと~」
「えっと? あれ?」
チンチラだけがまだ状況に理解ができずに置いてきぼり状態だった。
俺はその様子を見ると、肩を竦めて笑った。
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