第8話 採取に必要なのは忍耐よりもエロである

一日目


 夕暮れ前から街を出て、東の草原を歩きながら素材を見つけて採取する。

 生存術と危険感知の二つのスキルは対象によって何となく色分けができているので、毒草を採取しようとしてモンスターに襲われることがないので安心。


 検索系スキルもレベル7だと探索範囲が30m位まで広がっていて、範囲内に大抵、一、二本ぐらい生えていた。

 適当にプチプチ採取して鞄にぽいぽい入れて野原を進む。


 初期装備の鞄はかなり便利。

 重量制限はあるけど、いくつでもどんな大きさでも中に入る。たとえ大きなアイテムも先端が入ればそのまま全部しまえちゃう。

 まさに○次元ポケット。どこかの猫も真っ青だ。ああ、ヤツは既に青かった。

 しかもコンソールから整頓ボタンを押すだけで、アイテムの整頓だけじゃなく同じアイテムならきちんと束ねてくれる優れもの。試しに毒草×10を出してみたら、地面にどばーって出たからもうやらない。


 毒草を三十束ぐらい手に入れたところで夕暮れになった。

 ジョーディーさんからログアウトの連絡があったが、欲しいスキルは手に入らないし、ベイブさんが酔って、暴れて、捕まって、とかなりご立腹だった。

 ベイブさんに対しては「殺す、絶対に殺す! ヒールせずにアローぶち込む!!」とか言っていたけど、それはログアウト後にベッドの中で旦那のケツにア〇ルバ〇ブをぶち込め。

 かなりハードなプレイになると思うが、他人の夫婦生活に口出しするほど野暮ではないので、おっさんのケツなど、どうでも良かった。

 とりあえず、がんばれと言ってフォローした。別にベイブさんをフォローするとは一言も言ってない。


 素材と同時に集めていた薪を鞄から出してサバイバルマッチで火をつけると、たき火を中心とした周り1.5m位に丸い線みたいなのが地面に出た。

 多分、これがセーフティーエリアだと思う。レベル1だから狭いのかな? レベルが上がれば広くなるのかな?

 可愛く言ってみたが、何が言いたいのかというと、たき火の周り1.5mじゃ火が熱くて入れねえ。

 試しに隅の方でちょこんと座って見たけど、炎の熱がじりじりして火傷しそうだった。こんな狭い場所で寝ることなんて出来やしない。どうしろと?

 仕方がないので、近くの岩の影で横になってステルスを発動させると、寒さに震えながら寝る事にした。




二日目


「くしゅん!」


 朝の寒さに目が覚める。どうやら昨晩はモンスターに襲われずに過ごせたらしい。

 レベルは上がったか? と、サバイバルスキルを見てみたらレベルが3になっていた。ちなみに、ステルスは7のまま。

 干し肉と硬い黒パンを食べる。塩味。

 食べ終わった後、今日も一日材料集めを始めた。


 薬草が見つからずに毒草だけが増えていた。麻痺草に至っては全く取れていない。

 昼の時点で薬草が十五束、毒草が百四十六束、麻痺草が二束。

 周りをみても毒草だらけで、正直このゲームをやめたくなってきた。どうやら俺はエロが絡まないと採取プレイが苦手らしい。


 この草原は薬草が生える条件が違うのかもと考えていると、生存術が感じた先に大量の薬草反応が見つかった。

 反応のある場所へと近づくと小さな小川を見つける。小川の周りを見れば薬草がいっぱい生えていた。

 なるほど、薬草は水辺の近くに生えているんだな。それぐらい事前に教えろババア! と思ったけど今更である。

 小川の水は太陽に照らされてちょっと温めだった。冷たかったら一口ぐらい飲もうとしたけど、温いなら別に飲みたくない。

 川に落ちない様に小川に沿って薬草を採取した。


 ところで昨日から草をしゃがんで採取しているが、ゲームだからか腰が痛くならない。

 この点に関してはゲーム会社も作りがまだ甘いなとは思うけど、ゲームをやりすぎて腰痛になって入院したら洒落にならない。

 「ゲームのやりすぎで腰を痛めた」と同級生に言ったら何のエロゲーかと疑われるし、これが妥協の線だと思うことにした。


 小川は北西から南東へ流れていた。薬草を採取しつつ川沿いに北へ向かう。

 材料を取っていたら何時の間にか日が落ちて闇で周りが見えなくなった。

 スキルで材料が光るから続けようと思えば続けられるが、俺はそこまで廃人じゃないので小川の近くで野営する事にした。


 サバイバルスキルがレベル3になったおかげで、セーフティーエリアも2.5mぐらい広がっていた。これなら昨日と違い何とか眠れると思う。

 この日までに取れた素材は、薬草が三百二十二束、毒草が三百六十八束、麻痺草が十六束。

 頑張ったよ、俺。例えゲームでも自分を褒めたいと思う。




三日目


 朝起きたらスキルのレベルがいっぱい上がっていた。生存術、危険感知、盗賊隠密スキルがレベル8、サバイバルスキルがレベル4。何もしていないのに上がるスキルって素晴しい。

 そして、もう一つ嬉しいことがあった。

 ひゃっほーう。昨日抜いた薬草が一晩で元に戻って生えてるよ~~。所詮ゲーム、だけどありがとう。探す手間が省けた。


 昨日とは逆に、今度は川を南に向かって薬草を摘んでは進む。

 このまま続けていれば今日中には薬草と毒草は揃うだろう。後は麻痺草だけだ。

 薬草が目標の六百五十束になったから小川から離れて、毒草の採取をメインに麻痺草を探すが見つからない。

 結局、毒草を目標数手に入れて出発した東の草原の近くまで到着した。


 東の先には小さな森が見えていた。

 森は危険そうだけど、このままじゃ麻痺草は見つからない気がするので、試しに入ったら正解だった。

 どうやら麻痺草は日陰に生える草らしい。日光が遮られた木陰に生えていました。そりゃ草原には生えないね。糞ババア、ヒントぐらい寄越せ! 森に捨てるぞ!! おっと本音が漏れた。

 生えているのを手当たり次第にブチブチ抜いていく。乱獲? 明日にはひょっこり生えてるだろ。

 麻痺草が百束ぐらいになったところで、検索系スキルがアクティブモンスターを感知した。


 ステルスを発動して近づくと、何となく森の雰囲気が変わってインスタンスダンジョンに入ったような気がした。

 そして、茂みからひょっこり顔を出してアクティブモンスターを確認すると、大きい蛇が居た。

 恐らくジャイアントスネークだと思う。まあ、見た目で名前を付けたので、本当の名前はシラネ。


 蛇の全長は6、7mぐらいで、赤い舌をちょろちょろ出してチャーミングポイントをアピール。だけど近寄ったらパックンチョ!

 鎌首をもたげたら人と同じぐらい高さがある。そして胴体の横幅も大きい。

 うーん、ジャイアントスネークの周辺に麻痺草が大量に生えているから、取れたら麻痺草も目標数に達するけど、あんなのに襲われたらひとたまりもない。


 しばらく様子を見ていたが一向に動こうとしないので諦めた。

 結局、他の所に生えている麻痺草を採取して、ある程度の目途が立ったから、薪を取って夕暮れ前に森から離れた。


 この日までに取れた素材、薬草が六百五十束、毒草が六百五十束、麻痺草が百二十一束。

 今日も無駄に頑張ったよ、俺。




 夕暮れになったから森の近くで野営することにした。

 サバイバルレベルも4になって、セーフティーエリアも半径3.5mぐらいまで広がっていた。

 これ、どれぐらい広がるんだ? まあ適当なレベルで広がりも止まるだろうとは思うけど、たき火から離れる事ができたからどうでもいい。

 ゲームだから肉体的には疲れてはないが、やっぱり丸一日歩きっぱなしだったので精神的には疲れている。

 意味なく足の筋肉をほぐして揉んでいると、西の方から六つの生体反応を感じた。

 パターンあ、いや、何でもない。色は青、並んでこちらに向かってきていた。ノンアクティブな敵ならこのような動きはしないからプレイヤーだと思う。

 距離は生存術射程ギリギリの30mチョイ先だから、おそらくたき火の傍に居る俺は向こうからも姿も見られている。次からは野営の場所も考えよう。


 もしPKを狙っていたら俺の姿を見た時点で襲う動きをするはずだから、普通のプレイヤーだろう。ここは下手に動かないで成り行き任せの方がいい。

 なんて経験者っぽい事を考えているけど、実際はラノベとかSNSで得た知識だから、実際の対処方法は知らない。

 どうせ短い命だから人生もゲームも適当に生きている。ド素人はど素人らしくPKだったら諦めよう。


「こんばんは」


 10m位近づいたので普通に顔を向いてお辞儀をする。先制攻撃成功。コミュ力はこっちが上。決して人里離れて人恋しかった訳ではない。

 向こうはこっちが気付いているとは思っていなかったのか、驚いている様子だった。


「こんばんは」


 向こうの代表らしい男性が返事をしてきた。ちょっと言葉が固いが、あちらも警戒しているのか? ああ、フードで俺の顔が見えないからか。

 確かに何もない平原で男が一人ポツンと居たら、俺ならソイツをそっとしてあげる。


「この辺は幾ら安全でも夜は危険だ。もし良ければ今晩ここで休むめよ。素泊まりだけどな」


 優しいNPC風に言ってみた。これで相手がPKだったら、ただの馬鹿。


「ありがとう、助かるよ」


 俺が誘うと向こうも警戒を解いたのか、たき火へと近づいてきた。

 向こうのパーティーは武器からして、盾剣士(男)、斧戦士(ドワーフ男)、両手剣士(男)、魔法使いが二人(エルフ男、髭)、ヒーラー(猫女)。

 魔法使いの髭が、俺の作ったセーフティーエリアを見て興奮していた。何フェチだ?


「お、これセーフティーエリアじゃん。始めて見た」

「何それ?」

「知らないのかよ。この円の中に居れば敵が来なくて、スキルの変更ができるんだ」

「マジデ!? すげーー」


 俺のサバイバルスキルに皆が興奮している。ちょっと嬉しい。

 そして、野営初日の凍える夜を思い出し、頑張った俺を褒めてあげたい。


「残念だけど、まだレベルが低いからウルフぐらいは平気だけど。ゴブリンやスネークは防げないと思う」

「「「「「「スネーク!!」」」」」」


 ん? スネークの言葉に全員が反応したぞ? スネークこちらスネーク、何事だ?


「俺達、クエストでジャイアントスネークの討伐依頼を受けて探しているんだ。君! どこに居るか知っているのか?」


 やたらと興奮した盾剣士のリーダーっぽいのが尋ねてきた。他のメンバーも俺の返事に期待しているご様子。

 おめでとう、ジャイアントスネークちゃん。チャーミングな君を好きな人がこんなに居たよ。さあ、喰らうがよい!!

 そして、俺はこの蛇フェチ共が食べられている間に採取をする……俺、あくどい、あざとい、でもそこが好き!


「知ってるよ」

「教えて!!」


 俺が答えると、全員が身を乗り出して来た。


「良いけど、条件がある」

「うっ、何だい?」


 条件と聞いてリーダーが眉をひそめた。


「今、採取クエストしていてね。スネークの近くに目的のアイテムが生えているから、そちらが戦っている間、近くで採取するのを許可して欲しい」


 俺の条件を聞いて、リーダがホッとした様子だった。


「それだけ?」

「もちろん」


 安心しろよ、俺は金を持ってるクソ野郎からしかたからねえ。


「だったら、大丈夫だ。皆も良いだろ」


 リーダーに他のメンバーが頷く。


「オーケー。明日の朝、案内するよ」

「ああ、助かる」


 その後は、お互いの経験などを夜遅くまで話して全員眠った。

 内容の殆どが敵が強くなったのと、スキルの値段が高いことへの不満だった。




四日目


 ゲーム時間の今日の夜までにはログアウトする予定。

 残りの麻痺草は二百二十九束。その後で婆さんの家に行って薬の作成も教わる……そう考えると、あまり時間がない。

 婆さんの話を聞いた時、薬の作り方を先に教わって昼に採取夜は作成という効率重視のスケジュールも考えたが、今思えばマジで無理。

 加速時間システムは現実と同じ様に精神と肉体を疲労する。現実で1時間だとしても、ゲームに居続けていれば一日分の疲労を感じるため、夜は寝ないと色々と持たない。


 ここ最近の日課になってきたスキル確認をすると、サバイバルスキルがレベル5になっていた。毎日上がって順調です。


「わ、幽霊!!」


 スキルを確認していると、若いエルフの魔法使いが俺を見て驚いていた。

 その声で今の自分がステルスを発動した状態だと思い出し、襲われる前に解除した。

 それにしても何時になったら姿が消えるんだ?


「ああ、驚いた。ステルスも取ってるんだ。なんかローグっぽくて格好良いっすね。将来はやっぱりPKっすか?」

「いや、その予定はないよ」


 彼の質問に正直答える。

 ベイブさんからチラッと聞いた話だと、このゲームでPKになったら、街に入ろうとしても衛兵に捕まって牢獄行き、外を歩いてりゃPKKに襲われる、今後は分からないが今のところデメリットしか教わっていない。

 PKの大半は強くしてから初心者を狩って嘲笑うロールプレイングを目指しているから、ゲームが始まった今の段階では、皆カマトトぶって大人しくしているんだと思っている。


「でも、ステルスを取ってるんだから、将来はPKを目指してるんじゃ?」

「このゲームってさレベルが上がっても急所の一撃で死ぬじゃん」

「ああ、そうだな」

「それってプレイヤーだけじゃなくて、モンスターやNPCも同じだって気付いてる?」


 ウルフのケツの穴、ゴブリンの股間……攻撃力のない俺の唯一効いた攻撃は、どれも急所へ一撃だった。

 まあ、品の無い攻撃なのは認める。だけど俺ってローグだし卑怯な手段で相手を貶めて嘲笑う職業だよ。

 話を戻して、このゲームはプレイヤーだけじゃなく、敵にも急所が存在して攻撃力が低い俺でも倒せる可能性があるって事だ。


「そうなのか?」

「そうなのだ。だからPKじゃなくても、ステルスで身を隠して背後から心臓を狙えば攻撃力が低いローグでも勝てるのだ」

「なるほど……」


 俺の話に若いエルフは納得している様子だった。

 まあ、俺のステルスはPK用じゃなくて逃走用だけどな。


 皆の準備が整ったので、俺は彼等を引き連れて連れて森へと入った。




 スネークの住む森に入ると昨日採取した麻痺草がにょきっと再生していた。

 採取したい気持ちを押さえて、奥へと進む。

 森を歩いていると、今の場所からは見えないが検索系スキルがジャイアントスネークを感知した。軽く手を上げて、後ろの皆に止まれと合図をする。


「どうした?」

「しっ!」


 リーダーが喋るのを遮り小声で話す。


「スネークだ」


 俺の報告に皆が緊張する。


「そうなのか? ここからだと見えないが……」

「スキルに反応した。この先30m森の中の広場に居る」

「レイさんは凄いな。どんなスキル構成をしているんだ?」

「…………」


 リーダーからの質問に顔をしかめる。スキルって教えて良いものなのか?

 俺のスキル構成がばれたら、戦闘力5のゴミだとばれる気がする。


「あ、ゴメン……赤の他人のスキルを聞くのはマナー違反だった」

「ああ、俺もあまり話したくない」


 俺が何かを言う前に相手が謝ってきた。

 別に怒ってないですよ。ただ、バレて虫けらのように見られるのが怖いだけです。




 全員が中腰になってジャイアントスネークへ近づく。

 茂みからひょっこり顔を出して確認すると、ジャイアントスネークは巻ぐそ状態で舌をちょろちょろ鎌首をふりふりしていた。あら、可愛い。


「でかいな……」


 女性から言われたら嬉しいけど、おっさんが言うと逃げたくなるセリフを斧戦士のおっさんドワーフが呟く。

 それから、パーティーメンバーは俺の横で作戦タイムを開始した。真剣な彼等とは逆に俺はのんびり待つことにした。ああ、良い天気だな。

 横では「いけるのか?」、「MPは大丈夫か」とか聞こえる。お? 麻痺草発見、ブチブチ。

 五分ぐらいして彼等の作戦会議は終わったらしい。全員が武器を抜いて気合を入れていた。ついでに、俺もステルスを起動させた。


「では、行ってくる」


 パーティーの皆がジャイアントスネーク突入する。


「いってら~」


 彼等に手を振って声を掛けるとステルスが解けた。

 もう一度掛け直してから俺はのんびりと広場へ向かった。




 横で激しい戦闘音がするが見向きもしないで麻痺草を取る。辺り一面というか生えている全部が麻痺草だ。

 うぉぉぉぉ、全部採取だ! 取って、取って、取りまくれ!! 全部取ったら目標数は確実に達成できる!!

 なんか隣から「ぐおっ!!」とか、「コイツ固い!」とか聞こえるけど、全て無視。こんなチャンスは二度とねぇ。


「ふふふ~ん、ふふふ、ふんふん。ふふふ~ん、ふふふ、ふん、ふん……」


 昔流行ったスネークって人が主人公のゲームの歌を鼻歌で歌いながら麻痺草を取っていたら、ステルスが解けた。

 掛け直そうとしたら、突然、目の前に斧戦士のおっさんドワーフがごろんと転がって来た。

 ドワーフだからよく転がる。腹を見て一瞬、樽が転がってきたと思った。

 死んだかな? と思っていたらドワーフの腹をツンツン叩いていたら、樽がうめき声を上げた。ふむ、まだ死んでないらしい。

 ちなみに、ドワーフの腹は年季が入っていて脂肪が固かった。


「大丈夫?」


 どう見ても大丈夫じゃないけど、心配した演技で話し掛ける。相手は俺の質問に答える体力がないのか、返答はなし。

 ゲームとはいえ目の前で死なれても寝覚めが悪いので、鞄からポーションを出して樽にぶっかけた。


「にがっ!!」


 瓶が消えてポーションの効果が発動したらしい。苦い? 一体何の青汁コマーシャルだ?

 樽は驚き上半身を起き上がらせると俺をガン見していた。その腹で腹筋できる事に驚く。


「ポーションを掛けたけど治った?」

「ああ、すまない」


 樽は俺に礼を言うと、立ち上がって再び戦闘に参加した。


 再びステルスを掛け直す。蛇さんこっちは誰も居ないですよ。


「回復してくれ」

「MPがないから無理! 少し待って!」

「早くしてくれ、間に合わない!!」


 採取を再開しようとしたら、また声が聞こえた。どうやら今度はリーダーがヤバイらしい。

 仕方がないなと思いつつ、鞄から最後のポーションを取り出す。

 このフラスコ型ポーションには思い出がある。酒乱を殺し……いや、退治して、詐欺師から俺を守ってくれた、ある意味お守りみたいな物だ。

 けど、まあ、いいや。また作ればいいだけだし。


 それ、ぽ~いっ!! フラスコ型ポーションを、盾剣士のリーダーに投げる。


「ぐあっ!! ……ありがとう」


 リーダーは俺に礼を言いながらジャイアントスネークと戦っていた。

 どうやら、樽もリーダーもポーションが苦手らしい。どの道、手持ちのポーションがないからこれ以上の手助けはできない。


「ポーションがないから回復しないよ~」

「了解」


 俺の報告に全員が戦いながら返答していた。




 やれやれだ。もう一度ステルスを掛け直し採取しようとして、ある事に気が付き動きを止める。

 あれ? ……俺……今……体力回復させちゃたよね? MMOって辻ヒールもターゲット対象になるよな……。


「…………」


 ってことは、向こうのパーティーが全滅したらジャイアントスネークがこっちに来るじゃん。

 逃げるか? でもこの場所はおいしい。それにジャイアントスネークもそろそろ倒せそうな気がするが……向こうのパーティーも限界が来ているな。

 俺に対するヘイトは最低だし、攻撃の邪魔ぐらいなら援護するべきか? ……どうせゲームだし。死んでも復活できるから手伝おう。

 俺はジャイアントスネークにつぼマッサージをするため背後へ回った。




 リーダーがジャイアントスネークの攻撃を全て受け止める。

 樽と両手剣士の兄ちゃんも残りわずかな体力と気力を振り絞り、全力で攻撃をしていた。

 魔法使い達はMPが回復しだい魔法を詠唱するが、ジャイアントスネークも最後の力を使い暴れまくる。

 ジャイアントスネーク、体力ありすぎだろ。


「やばそうだから、参加するよ」

「助かる!!」

「ありがとう」

「恩にきる」


 一応、戦闘参加の許可をもらうと、会話で切れたステルスを掛け直してジャイアントスネークの背後に忍び込んだ。

 俺が背後へ移動すると、前の方ではリーダーがヒールをもらって油断し、ノックバック攻撃を食らって後ろに吹っ飛んでいた。

 その様子に心の中で舌打ちすると、俺は武器を抜いた瞬間に飛び上がった。


 ごめん、嘘だ。


 正確には、武器を抜くのと同時にリーダーを追撃しようとしたジャイアントスネークの尻尾が振り上って、蛇の背後に居た俺が吹っ飛ばされた。

 飛ばされた先は、鎌首を上げてリーダーを喰らおうとするジャイアントスネーク。

 俺はその首元に飛び乗った。


 すまん、また嘘だ。


 正確には、吹っ飛ばされた先が偶々蛇の後頭部で全身を叩き付けられただけだ。ベチッって音もしてステルスも解除された。


 そして今度は嘘じゃない。


 ジャイアントスネークの後頭部へ飛ばされた時、武器を握っているのを忘れていた。

 しかも、武器を抜いた瞬間に吹っ飛ばされたから、ナイフは両方共逆手の状態だった。

 そして、そのナイフが何故かジャイアントスネークの両目に突き刺さって、ずり落ちるのを防いでいた。マジ、ビックリ!


「キシャーーーー!!」


 もう、そこからが大変。

 急所を刺されたジャイアントスネークが大暴れ。

 こんな勢いで暴れたら危ないって。振り飛ばされない様に、必死に刺さったナイフを握り締めていたら、ぐりぐりとダメージを与えていたらしい。

 とうとうナイフがジャイアントスネークの脳みそまで達したのか、鎌首を高く上げて仰け反った後、地面に倒れ始めた。


 ギャーー! このままだと潰されるーー!! どうする? ……おう、バックステップがあった。

 ジャイアントスネークが倒れている最中に、バックステップを発動したら背中が引っ張られた。

 刺していたナイフから手を離し、地面の替わりに蛇の背中を蹴っ飛ばして一気に離れる。空中で勢い余ってバク宙をすると地面に着地した。

 俺が着地して片膝を突くのと同時にジャイアントスネークの鎌首が倒れた。

 ジャイアントスネークは痙攣していたが、それも少しずつ治まって動かなくなった。

 戦闘に参加してからわずか二十秒。あっという間に俺の戦いは終わった。

 危ねえ、マジで危ねえ! 死ぬかと思った!!




 俺は片膝を突いたまま動かなかった。

 いや、正直に言おう。びっくりして腰が抜けたのと、高いところから落とされて足が痺れて動けないだけだ。


「すげえ……」


 誰かが呟く声が聞こえる。

 いや、いや、いや、いや。驚いているけど俺が一番ビックリしてるから。

 武器を抜いたら、突然後ろからぶっ飛ばされて、振り回されて、一回転とかどんな罰ゲームだよ。


 俺は立ち上がるとジャイアントスネークに近寄り、死んでいるのを確認しつつ目から武器を抜いて鞘にしまう。

 チラリとパーティーメンバーを見れば、全員が唖然とした表情で俺の事を見ていた。


「大丈夫?」


 俺の質問に全員が勢いよく首を縦に振る。無事で何よりだ。


「じゃあ、俺は採取の続きをするね」


 俺は再びしゃがむと、麻痺草の採取を再開した。

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