第4話 痛いポーション

 暗闇からゴブリンが俺達の前に姿を現した。

 背丈は俺の胸元までしかなかったが、肌の色は緑色。顔はひしゃげた様に醜く、頭には小さな角が生え、口からは牙が突き出ていた。腹は異常に膨らみ、その格好は地獄の餓鬼を思わせる。

 右手にはこん棒、左手には木の盾を装備しているのに、体は腰布一枚を羽織っただけの格好で、見た目だけで言えば完成度の高いコスプレ露出狂。

 俺が初めて遭遇する人型モンスターだけど、どこからどう見ても相手はただの変態だ。


 見つかる前にステルスで身を隠す……戦闘前だから成功する。逃げている? 俺、ネズミより弱いんだぜ、逃げるに決まってるじゃねえか。


「MPが少ないし、間に合ったからアイスルートはしないよ~~」


 女子2人の報告だと、姉さんのMPは残り1/3、ジョーディーさんに至っては殆んど0。かなり危ない状態だと思う。


「了解。俺のヘイトが安定したら、ベイブとレイは攻撃してくれ!」


 義兄さんが指示を出しつつ、鞄からポーションを取り出して腰に手をやりごくごく飲み始める。風呂上りの牛乳か? 足りないようで、もう一本。

 義兄さんが前に出て襲ってきたゴブリンを『挑発』。ゴブリンが義兄さんに襲いかかる。

 シールドバッシュがゴブ……いや、逆にゴブリンが盾で義兄さんの頬をぶん殴った。義兄さんの顔が醜くゆがむ。ゴブリン! GJgood job!!


「ゴブリンがシールドバッシュだと!? βよりかなり強くなっているぞ、気をつけろ!」


 ゴブリンの攻撃に驚いたベイブさんがフォローを兼ねた攻撃を行う。

 ゴブリンが義兄さんをこん棒で殴ろうとしたが、その直前にベイブさんが間に入って攻撃を受け流していた。

 俺も敵の背後を取るために、こそこそ移動を開始した。




 正気に戻った義兄さんがゴブリンにお返しの『シールドバッシュ』を顔面に炸裂させる。ちなみに、義兄さんの目はマジで切れていた。

 ゴブリンがスタンで気絶して後ろへ数歩下がると、今度はボコッという音と共に氷の玉がゴブリンの横顔に抉り込んだ。

 うん、あれは痛い。そして攻撃者の性格が滲み出ている。予想通りヘイトが変わってゴブリンは姉さんを睨んでいた。


「お前の相手はこっちだ!」


 義兄さんが『挑発』しながらゴブリンを攻撃するが与えた傷は浅い。

 それでもゴブリンは再び義兄さんを相手にすると決めて、義兄さんと対峙すると正面から戦い始めた。

 俺も背後に回ってゴブリンの肩辺りをナイフで刺しているが、皮膚をプスプス刺しているだけで血すら出ない……針治療?

 どうやら俺の攻撃は針治療となり、ゴブリンの肩が回りだして攻撃力が増している様子だった。


 バキッ!


 それでも攻撃をしていたら、とうとう俺のナイフが一本壊れた。

 安物で乱暴に扱っていたから、壊れるのも仕方がない。片方のナイフは残っていたけど、どうせコイツじゃダメージを出せないと諦める。


 攻撃が効かない。だったらどうする?


 何もしないのは後で何か言われそうだから、中腰になってゴブリンの腰布を掴むと、その汚ねえ腰布をずり下した。

 訳が分からないだろ? 俺も何で突然こんな事をしたのか自分でも分からねえ。だけど、人間というのは理解できない状況に陥ったら、何でもやる種族なのだと思う。


「フガッ!!」

「「キャー!!」」


 突然のポロリにゴブリンは驚き、ベイブさんは口をあんぐりと開け、女性二人が叫び声を上げる。


「馬っ……レイ! お前、何をやってるんだ!」


 義兄さんが怒鳴るけど、俺だって自分の行動が分からねえよ。

 それよりもゴブリンが動揺している間に攻撃をしてくれ、このままだと俺がただの変態じゃねえか!!

 全員が動揺する中、全裸のゴブリンが戦うのを止めて振り返る。

 中腰の俺の前には、何故か直立不動な状態の汚い息子。


 その距離、僅か5cm!! 漂うスルメスメールイカくせえ!!


「興奮してんじゃねえよ!!」

「グゲッ!!」


 起き上がって股間を蹴り上げるとゴブリンは変な声を上げて股間を抑えた。我ながら見事な急所攻撃だ。

 そのタイミングで義兄さんが後ろからゴブリンの後頭部を殴る。


「ガーーー!!」


 ゴブリンが両手を上げて大声で叫ぶ。当然ポロリで息子がハーーイ。 

 言葉は分からないけど、翻訳すと「お前等、いい加減にしろ!!」だと思う。俺も突然ズボンを下されて息子を公開されたらぶち切れる。多分、正解。




 俺を入れた男三人は一匹のゴブリンを囲んでボッコボコに攻撃していた。

 ちなみに、俺の攻撃はゴブリンの後ろからケツをひたすら蹴るだけ。もちろんダメージはないけど、偶に良いところに入るとその度にゴブリンがケツをキュッと窄めていた。ケツは汚いけど、その仕草は可愛い。

 ゴブリンは三人からリンチを喰らっていても、下半身をおっぴろげて野外露出という新たなステージの扉を開いたのか興奮して大暴れ。

 武器と下半身をブルンブルン……それはもう、ビックリするほどブルンブルン。その姿はコミケ会場でSNS映えしようと暴れ回る露出コスプレイヤー。警備員さんコッチです。


 そのゴブリンが上半身と股間の武器を振り回して暴れるから、義兄さんの体力と精神的ダメージが蓄積されていた。

 そして、今喰らった攻撃で義兄さんの体力が四割を切り、俺の視界の隅にアナウンスが表示される。

 ジョーディーさんのMPはまだ回復していないので、俺は予定通り回復するためにポーションを取り出した。

 ……む? ポーションで自分以外を回復させるのってどうやるんだ?

 戦闘中に飲ますことはできないし、やったとしたらジャマなだけ。やり方が分からない。とりあえず投げてみるか……。

 ゴブリンの頭越しに、義兄さんに向かってポーションを投げる。


「がっ!!」


 ポーションが義兄さんの顔面を直撃して仰け反る。顔面を跳ね返ったポーションは暗闇に消えていった。

 あれ? もう一回。今度は勢いを付けてぶん投げてみた。


「ぐげ!」


 ゴン!! 夜空に響き渡る音と共に、心地良いうめき声が聞こえた。義兄さんは顔を戻した所への追撃攻撃だったため、モロに喰らっていた。

 ゴブリンも突然の援護に驚いて、後ろを振り返り俺を見る。


「やあ、こんばんは。息子さん、お元気そうですね」

「……ゴブ」


 翻訳すると「おかげさまで」か? ゴブリンと俺が見詰め合っていると、義兄さんが顔を抑えて叫び、俺とゴブリンが同時に彼の方へと振り向く。


「レイ!! ポーションを使う時は蓋を開けてから投げろ。チュートリアルで聞いただろ!!」


 チョット待て、チュートリアルをキャンセルしたのはお前じゃねぇか! そして代わりにチュートリアルをレクチャーしたのもお前だ! 忘れたとは言わせない!!


「あるぇ? 義兄さん、そんなこと言ったっけ?」


 中の激情を殺して素朴な顔で義兄さんに尋ねた。ちなみに、目は嘲笑っている。


「クソ、言ってない!!」

「自業自得だ、馬鹿」


 ベイブさんの言葉にうんうんと頷く。心の中では「ザマァ!」。

 おっといけない、義兄さんを回復させないと。ポーションの蓋を開けるために一度武器をしまう。

 ああ、なるほど。ポーションをがぶ飲みしながら戦闘をさせないために、わざと両手を使って蓋を開けるようにしたのか。納得。

 ポーションの蓋を開け……開かない。ああ、コルクが中に入って取れなくなった。蓋が開かずにイラッと来て、ポーションを目の前のゴブリンの後頭部に叩き付ける。

 ゴブリンは攻撃しようとしたタイミングで後頭部にゴン!! と衝撃を受け、何が起ったのか分からず頭をさすって辺りを見回した。

 目の前のゴブリンなんてどうでもいい。俺は開かなくなったポーションを投げ捨てると次のポーションを取り出す。


 よし、こんどは開いた。


 回復の準備中にゴブリンが義兄さんに再びシールドバッシュ。

 さらにゴブリンは棍棒を大きく振り被って、よろめく義兄さんを殴ろうとしていた。

 振り被ったゴブリン腕が邪魔で義兄さんが見えん。


「邪魔だボケ!」


 腕を退かすためにゴブリンのわき腹をガッ!! と蹴っ飛ばす。

 今の蹴りはタイミングが良かったのか、ゴブリンがバランスを崩して横に倒れた。

 これで回復することができる。義兄さんにポーションを投げると、今度は体に当たって瓶が消え、同時に視界の隅のアナウンスも消えた事から、義兄さんの体力を回復することができたらしかった。

 だけど、義兄さんは回復出来ても顔をしかめて俺を見ていた。何で?

 そう言えば、ゴブリンは? ……下を向いたら、ベイブさんが倒れたゴブリンに止めを刺していた。

 あれ? 別に回復しなくても良かったんじゃね?


 ゴブリンを倒したところで、東から太陽が昇り草原を光り輝かせる。


「ああ、朝日が奇麗だな」


 俺達を照らす太陽が長い戦いの終わりを告げていた。

 そして、俺達はゴブリンを倒した結果、レベルが5になったので村に戻ることにした。




 俺達は寄り道をせずに村へと帰還していた。

 俺達は体力とMPは満タンだったけど、疲労と眠たさが限界を超えていた。

 だけど、勝利後の帰路は楽しく会話も弾む。特にゴブリン戦については皆が面白がっていた。


 ……一人を除いて。


「まさか、レイ君がポーションをそのまま投げつけるとは思わなかったな~~」

「ね~~。カートが仰け反っているのを見て、笑いが止まらなかったわ」


 ジョーディーさんが頭の後ろで腕を組みながらポーションの話をすると、彼女の隣を歩く姉さんも思い出してクスクス笑っていた。


「しかも二回だ。俺も思わず剣を振るのを忘れたし、ゴブリンも驚いて動きを止めていたな」

「その後でポーションの蓋が開かなくなってゴブリンに叩き付けたのは、もう笑いを通り越してビックリだよ。止めにジャマだからって蹴っ飛ばすとか、レイ君って面白すぎ~~」


 誰もゴブリンの下半身については語らなかった。どうやらなかったことにしたいらしい。


「納得いかねぇ」


 義兄さんが拗ねていた。だけど義兄さんがポーションの使い方を事前に教えていたら、こんな目には遭わなかった。彼の自業自得、いや、自爆だけど一応謝っとこう。


「義兄さんを回復させるのに必死で……ごめん」


 謝罪しているが、目は嘲笑っている。


「いや、いいんだ。俺がもっとゲームについて説明してれば良かっただけだからな」


 騙されたオッケー。


「レイちゃんは悪くないわ、悪いのはカートよ。チュートリアルは飛ばすし、きちんと教えなかったのが悪いんだから。効率を考えるのも必要だけど、もう少しメンバーのことも考えなきゃダメよ」


 強制ローグプレイを誘ったお前が言うな。もう少し俺のことを考えろ。




 村に到着する前に生存術と危険感知がレベル5になった。順調に育ってうれしい。

 それと、ゴブリンとの戦いで盗賊攻撃スキルも5になってアクションスキル『バックアタック』を覚えていた。

 背面から攻撃すると、バックスタッフとは別に追加ダメージがあるらしい。

 元々弱い俺からしたらスズメの涙。いや、ナメクジの涙以下の追加ダメージだ。実際にナメクジは泣かないけれど、俺の心は泣いている。


 二時間歩いて村に帰ると真っ先に宿屋に向かってベッドの中に入った。

 腹も減っていたけど、それ以上に眠かった。だけどやっぱりすきっ腹で眠れず、起き出して余っていた干し肉を一口だけ食べてから眠った。薄味。

 何となくゲームばかりやって昼夜が逆生活のダメ人間になった気がする。まあ実際にそうだけど……。


 起きたらお昼を過ぎていた。六時間ぐらい寝たかな。ベッドから起き上がると空腹で腹が鳴った。飯を食おうと一階に下りると、義兄さんとベイブさんが食事中だったから合流した。


「おはよう」

「おう、よく眠れたか?」

「なんとか眠れ……ハムエッグとパンください」


 話の途中でNPCの女将さんが来たから、二人が食べていたのと同じ物を注文して席に着く。


「ほら、受け取れ。昨晩のドロップアイテムを売って得たお前の報酬だ」


 そういえばドロップアイテムを全部ベイブさんに集めていたな。有りがたくベイブさんからお金を受け取る。

 おお、16sもあるぞ。スタート時は5sだったから一気に増えた。


「全部使うなよ。明日はアーケイン行きの馬車に乗るから、駄賃に1s50cは残しとけ」

「おっけー」


 俺とベイブさんのやり取りを聞いていた義兄さんが、話が終わったのを見てベイブさんとの会話を再開する。


「それで、やっぱり全体的にmobが強くなっているらしい。色々聞いたところ、ソロだと最初のジャイアントラットで撃沈しているプレイヤーが溢れていると聞いた」


 俺もレベル1だとつぼマッサージ師だったからな。


「やはりバランス調整か……確かに考えてみると加速時間システムでプレイ時間が長くなった」

「ああ、早くクリアをさせないため敵を強くしたというのが一番当てはまるだろう。それにレベルもスキルも、あれだけ戦ったのにも関わらずレベル5までしか上がっていない」

「βだったらあの時点でレベル10までは行かずとも、その近くまでは上がっていたな」

「それでも楽しいけどな」

「ああ、難しければ難しい程、面白い」


 義兄さんがニヤリと笑うと、ベイブさんも同じようにニヒルに笑い返す。

 二人を見て脳筋だなぁと思いつつハムエッグをぱくぱく食べる。ハムに塩が効いていて全体的に塩味。


「レイはどうだ? このゲームは楽しいか」


 突然、義兄さんに話を振られてゲームについて考える。

 元々ネットゲームはやらない事にしていた。その理由は、十歳の時に初めてやったネットゲームがアイテム課金で散々ぼったくられたあげく親から怒られて、二度としないと決めて早七年。それ以後、ネットゲームは一度もやっていない。

 このゲームも姉さんに誘われなければやる事もなかっただろう。だから義兄さん達みたいなマゾじゃない。

 それに、実際にゲームをやったら、初日から疲れる。ヒドい目に遭う。汚いチ○コを見せられる。よく考えたら楽しいのかこれ?


「刺激的ですね」


 とりあえず本音を濁して言っといた。


「刺激的か!! そうか刺激的か、ははははは」


 「刺激的」という言葉に義兄さんがどんな解釈をしたのか分からないけど、笑っていたから良しとする。横のベイブさんも嬉しそうだ。さすが脳筋ブラザーズ。


「俺達は何とかレベル5まで上げたが、他のプレイヤーはどうするんだろうな」


 急に話題を変える義兄さん。やっぱり内容は効率の話。ブレないな~~。


「木人でスキルレベルを上げてから、NPCのクエストで経験値を上げるのが一番安全かつ確実って話だな。取得経験値は低いから数をこなす必要があるとも聞いている」

「レベル5まで二、三日ぐらいか?」

「いやもっと必要だ。一回のクエストを終わらせるに丸一日掛るとか、レベル5になるまでには相当時間が必要だろう……。しかも幾ら金が有ってもある程度のレベルに達してないと、乗合馬車にすら載せてもらえないという話だ」

「……それはきついな。俺達は平気か?」


 いや、いや、いや、昨晩の方が普通の人にはきついと思う。

 おかしい、どこか間違っていると思うけど、俺とは住んでいる世界が違うのか?


「ああ、その話を聞いた後で確認した、レベル5で首都へ行ける」

「それは良かった」


 食事も済んだし、買い物へ行こうと脳筋話をしている二人を置いて宿を出た。

 おっと、生存術と危険感知は起動させておこう。俺の生命線だし。




 村の中ではNPCの他にも大勢のプレイヤーがいた。人が多過ぎて村の経済が崩壊する難民レベルの数。村人さん受け入れご苦労様です。

 義兄さん達も話していたが、やはりソロだと辛いのか、昼のこの時間でも数多くのソロプレイヤーが村の至る所でパーティー募集の声を上げていた。


「ヒーラーです。タンク募集です」

「キャスター、dps、dps、ヒーラーです。タンク募集です」

「ヒーラー、ヒーラーです。一人は攻撃もできます。タンク募集です」

「ローグです。九時間募集しています。誰か助けてください!」


 基本的にタンク不足でヒーラー多め。ローグに関してはいらない子。

 義兄さんはタンクだからモテモテか、現実だけじゃなくてゲームでも人気とはさすがリア充。

 死んで豚に生まれ変われ、そしてしょうが焼きになれ。


 それにしてもローグは九時間も募集してパーティーを組めないのか? 同業者として心配なので、話をすることにした。


「すみません」

「パーティー参加ですか!!」


 あ、目が輝いている。悪いことをした。


「いや、自分もローグなんですが」

「なんだ、同業者か」


 おい、憐れむような目で見るな、お前もだろ。言葉使いも営業モードから素に変わっているじゃねえか。


「やっぱりローグだとパーティーは組めない?」

「ハッ!! 駄目だね。必要なスキルが多すぎるんだよ。攻撃しても外れるし、運よく当たってもダメージが低くくて使い物にならねえ。ソロだとラットですらギリギリだぜ」

「攻撃しても体毛に跳ね返されるからね」


 俺が腕を組んで溜息を吐くと、目の前のローグが手を左右に振って否定する。


「ないない、それはさすがに筋力がなさ過ぎだろ。まあ、冗談はさて置いて。最初に組んだパーティーでも、役立たずとかボロクソに言われて解散したってーの。バックステップってなんだよ……バックステップって……」


 冗談扱いされたけど、やっぱり攻撃が殆ど効かないのは俺だけだったか……。


「NPCのクエストで経験値は貰えるみたいだけど……」

「ああ、最初の一、二回はお使いクエストで普通にクリアできたけど……三回目からはラット五匹討伐で、ローグのソロじゃクリアは絶対に無理」


 それは厳しい。倒せないのにどうやってクリアするんだ?


「なるほど、ありがとう」

「俺は今日中にパーティー組めなかったらキャラデリして作り直す予定だ。お前も早めに見切りをつけた方がいいぜ。このゲームはローグで遊ぶには無理がある」


 俺は頭を下げてその場を去った。

 世知辛い世の中だ。まさかゲームで職業差別があるとは思わなかった。俺もその底辺にいるクラスだけど。




 武器屋に寄る途中で姉さんとジョーディーさんを発見したが、数人の男達に囲まれていた。どうやら二人はナンパされているらしい。

 美女とロリっ子なペアを見れば当然人気だろう。一人は性格詐欺でもう一人は年齢、性癖、人格詐欺だけど。

 だけどナンパしている男達がちょっと強引過ぎる。

 助けに行こうと思ったら、姉さんがコンソールを弄る様子を見せると、男達は慌てて逃げだした。


「姉さん、大丈夫?」


 近づいて姉さんに話し掛ける。


「やっほーレイちゃん。助けに来てくれたの?」

「そのつもりだったけど、必要なかったみたいだね」

「ハラスメント行為で訴えようとしたら、逃げちゃった~~。チョット待ってねログを使って訴えるから」


 逃げても訴えるんかい!! 相変わらずの鬼畜っぷりに弟としてはどうかと思う。


「レイ君はどこ行くの?」

「ベイブさんからお金をもらったから、装備を新調しようかと……」


 あれ? 二人の目が光った気がする。何か嫌な予感がしてきた。

 くるりと踵を返したがその直後、姉さんの手が伸びてフードを引っ張られた。


「ぐげっ!!」

「何で逃げるのかな?」


 フードを後ろから引っ張られて首絞めボイスが出た。

 喉元を押さえて振り向いたら、笑顔の悪魔姉さんがそこに居た。思わず頬が引き攣る。


「いや、何となく……かな? かな?」

「お姉さん達がコーディネートしてあげるから、大丈夫よ~」


 また俺を着せ替え人形にするつもりか! ジョーディーさんに至っては「グフフフフ」と見た目に相応しくない下衆な笑いをしていた。本能を隠せ!

 結局、俺の意見は無視されて、二人に引きずられるように武器屋へと拉致された。

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