第5話 夜話:あしたになればわかるさ

 日が沈んでしばらくたつ。結局、「カジャ」という人物についてヤスリやキトラから聞き出せたことはその人物が女性だということだけだった。加えて、キトラが「あの子」と言っていたことから二人よりも年下であるということが推測された。しかしそれでも、「カジャ」という人物を理解するには情報が少なすぎる。どれだけ問い詰めても「明日になれば分かる。」の一点張りである。どういうことなのか。

「キトラさん。」

 もう一度聞いてみよう。

「ん?」

「しつこいとは思いますが、そのカジャって人って・・・。」

「明日になれば分かるよ。」

「ですよね。」

「と、言いたいところだけど、実は私たちも説明できないんだよね。」

「え?それはどういう・・・。」

「ただいま。」

 不意に、玄関のドアが開く。

「お。カジャか?」

「そう。カジャ。」

 この人が・・・。齢は俺と同じかそれ以下ぐらいだろうか。ショートカットの(もしかしたらショートボブと言うのかもしれないが、俺はそういうのにめっぽう弱いのではっきり言えない)髪はその白い肌よりも更に白く、真っ黒なパーカーを着ていたのでより白が映えていた。どこか幼さを感じさせるが、顔立ちは整っていた。美人、というのだろうか。キトラとはまた違った感じだ。

「お帰りなさい。」

「キトラ。ただいま。・・・?誰?」

 唐突に自分に目が向けられ、心臓が飛び上がった。そして、今気づいた。この娘の目、鮮やかな瑠璃色をしている。

「えっと、今日から弾正台に配属される事になった百舌鳥アカリです。よろしくお願いします。」

 自己紹介をしている間、彼女はじっとこちらを無表情で見つめていたが名前を聞いたときわずかに目を細めたのを俺は見逃さなかった。しかし、すぐにもとの無表情に戻り、

「・・・カリ。よろしく。」

 と言った。この娘、できる!すると、ヤスリが大欠伸をして言う。

「カジャ、お前のことはまだこいつに言ってない。口で言うよりも実際体験した方がいいと思ってな。とりあえず今日は依頼も無い。寝ようや。」

「・・・分かった。キトラ、行こ。」

「ええ。二人とも、おやすみ。」

「ああ、おやすみ。」

 カジャは俺が質問する間もなく階段をキトラとともに上がって行ってしまった。どうやら明日になるのを待つしか無いようだ。

「おまえは上の方な。」

 ヤスリは部屋の隅に置かれた二段ベッドの上段を指さして言う。それはいいのだが・・・。

「あ、あの。」

「なんだ?」

「服、持ってきてないんですけど・・・。」

「じゃあ俺のTシャツ着るか?」

「いや、それはちょっとサイズが・・・。」

「それもそうか。じゃあその格好で寝るしかないな。」

「え!?スーツですよ?」

「ここでは格好なんかに気を遣う必要なんて無い。」

「そういう問題じゃないですよ!」

「そうか?まあ、気にすんな!」

「そんなこと言ったって・・・!」

「うるさい!」

 唐突に上階からキトラの声が響く。心臓が潰れるかと思った。なるほど、あのとき男二人があんな顔をしたのは無理もなかったのかもしれない。キトラの声には有無を言わせぬ強さがあった。

「寝るか。」

「・・・はい。」

 スーツの上に布団をかぶせるというなんとも奇妙な状況だったが、自分の知らない間に疲れていたのだろうか、すぐに睡魔が襲ってきたので甘んじて受け入れ、深い眠りにつく


・・・はずだった。あのいびきさえなければ・・・。

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