第2話 移動:だんじょうだいへむかう
朝のラッシュが過ぎて人がまばらになった車内は、時間がゆっくりと流れているようだった。
「っと。」
電車の揺れに不意に体制を崩しそうになる。朝日の、というには遅い気がするが、眩しさに目をしかめる。すると、その光が大きな影に遮られる。
「本部。その横に・・・。」
弾正台。確かそんな名前だったはずだ。最初その名前を聞いたときは、随分と古風な名だと思ったが、建物の方は・・・。
「見えないな。」
決して自分の背が足りないわけではない。平均より少し上くらいのはずだ。しかし弾正台らしきものは見えなかった。一抹の不安が生じたが、悲観しすぎか。と、気にしないことにした。
「本部前、本部前。」
アナウンスが到着を告げると、扉が音を立てて開く。
車両から降りて階段を降り、使い古されたICカードを自動改札機にかざす。
[出口]と書かれた方に向かって歩いて行くと、目の前に大きな建物が現れた。
車窓からも見えた本部である。他の建造物と外観は遜色ないが、どこか雰囲気が違って感じられた。荘厳、という言葉が当てはまるのだろうか、全国の警隊をこの建造物が統括している事実がそうさせているのだろう。しかし、これは目的地ではない。目線をその建物からゆっくりと右に移す。
「・・・無い。」
視界には二階建てのボロ屋があるだけである。あばら屋というほどではないが、それでもその横にある荘厳な建造物と比べると、あまりにも異様である。本部に準ずる組織があんなところにあるはずがない。左の方に目線を移そうとしたそのとき、絶望が目に映った。渡り廊下が本部からそのボロ屋へつながっているのを見てしまったのだ。更に追い打ちをかけるように、その廊下をスーツ姿の男性が渡っていく。その背中はどこか悲壮を感じさせた。可哀想に。・・・いや、
「俺も似たような感じか・・・。」
まだ名も知らないその男性に仲間意識を感じつつ、自分でもわかるくらいトボトボとボロ屋、もとい自分のこれからの仕事場に向かって歩いて行った。
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