かっぱの彼方さん

たかぱし かげる

とある平凡な地方都市に平凡な若者が住んでいました。

邂逅編

そして彼方さんに出会った

 なんということもないある平日の夜。

 仕事から疲れて帰って。時間は遅かったけれどちょっとリラックスしたくて。久しぶりに風呂を沸かした。

 さほど広くない湯船につかって気分を転換。40分ぐらいでこざっぱりして脱衣所へ出た。

 体を拭いて乾いたパンツとシャツに腕を通したときだった。

 ぱしゃん、ちゃぱん。

 風呂場から水音が響いた。

 それは蛇口から水滴が落ちたなんて生やさしいものではない。あきらかに湯船の湯が波立つ音だった。

 今風呂出たとこだし。風呂場に誰もいるわけないし。そもそも一人暮らし。

 ざばん、じゃぱん。

 空耳ではない。やっぱりなにかいる。

 恐る恐る風呂場の戸に手をかける。ほの暗い風呂の蓋を開ける。

 ちゃぽん、じゃば。

 脱衣所の明かりに照らされたソレと目が合った。衝撃のあまり、お互い固まる。

 15センチぐらいだろうか。ちゃぷちゃぷと湯船で楽しく泳いでいたらしい。小さい生き物、でも見たことがない。いや、でも知っている。

 爬虫類を思わせる緑の肌。痩せた人型のシルエット。カメのような甲羅。ハゲなのか皿なのか表現に困る頭部。

 一言で表すなら、かっぱ。

 え、なんでかっぱ。風呂場にかっぱ。しかも小さいかっぱ。かっぱって実在する生物だっただろうか。

 ばしゃん、ちゃぷん。

 沈みかけていたかっぱが、慌てて水をかいて顔を出した。ぴゅうと水を吐き、口を開く。

「お前が俺を召喚したこの世界の王か?」


これが俺と彼方かなたサンとの出会いだった。



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