25.會州一の志(四)
「知ってるか?この曲みたいに、かれんがどれほど俺を癒してくれてるか」
そんなふうに思ってくれてるなんて。
「うれしい」
目を合わせてにっこり笑ったら、目線を上に逸らして、照れて人差し指で顔を掻いた。
土方さんのそんな姿を見て、にやけてしまう。
見れるのはわたしだけだよね?
「お転婆娘がこんなに癒してくれるとはな」
「あいだっ…!」
甘い雰囲気になると思ったのに、まさかのデコピン。
「うそぉ…信じらんない…」
ここでやる?!
両手でおでこを押さえる。
優しさの裏で、時折Sの顔が見え隠れする。
血が騒ぐのか…?
単なる照れ隠しかな?
「悪い悪い、ついからかいたくなるんだよ」
わたしの両手を左手で握りしめ、右手でおでこの真ん中を優しく撫でる。
それから、そっとキスをした。
「ちょっと訛ったな」
「訛ってますか?!いつも、わたし」
「いや、うん、ときどきな」
「まだ訛ってるかぁ…」
「覚馬さんにつられちまったか?豪快に訛ってるからな、覚馬さんは」
「京言葉みたいに、はんなり可愛らしいといいんですけどね…」
「可愛いと思うぞ、會津弁も。純朴な感じが」
「それ、あか抜けてないみたいで、喜んでいいものか…」
「そんなことねぇよ。あの、“さすけねぇです”ってのが特に」
「さすけねぇ、が?可愛いの?初めて言われま…」
ぎゅうっと力強く抱き寄せられて、頭からすぽっと包まれる。
「お前が言うから、何だって可愛いんだよっ…!」
「へっ?」
「あーっ!言わせるなよ…」
「かわいい…って、いいました?」
「言ってない…」
「言いましたよ!」
もしかして、顔赤くしてるのかな?
それをわたしに見られないように抱きしめたのかな?
普段の土方さんからは想像できないこのギャップにノックアウトです。
「…分かってくれたか?こんな他愛もないやり取りに癒されるんだ」
「喜んで!いつでもします!」
「いつもここで帰りを待つかれんには、不安な思いをさせちまうことのほうが多いかもしれないけどな」
否定できなくて、視線を落とした。
「俺たちが仕事に出た後、いつも壬生寺にお参りに行くんだって?山南さんに聞いたよ」
「怪我なく元気に帰ってくるようにお願いします」
もしものときはわたしの…
「もしものときはわたしの命とひきかえに」
「え…?」
「なんて、祈ってないだろうな?」
すごい、わたしの考えは何でもお見通しかぁ。
「馬鹿!何てこと祈るんだよっ」
「ごめんなさい…」
「俺はそんなこと望んでない」
「そしたら…次からは年を取るまで土方さんと一緒に生きたいから、だから無事に帰してください、ってお参りしてもいいですか?」
「それなら、まあ。なら、かれんを置いて死ねないな」
「土方さんのいない世界で生きていくのはいや…」
「そんなこと言うなよ。本当はお前を泣かせたくないんだ。すまん」
「謝らなきゃいけないのはわたしのほうです。ごめんなさい、いちいち泣いて…。呆れちゃいますよね」
「お前は喜怒哀楽が人一倍忙しいからな。その上、顔を真っ赤にして照れるから俺にも移っちまう」
「移ってください」
「え?」
「ドキドキが移ったら、もっと好きになってくれますか…?」
わたしの手を取り、自分の胸に当てた。
「俺の心がかれんのものだって証拠だ」
少し早く刻む心臓の音、感じる。
土方さんの音。
鼓動が、想いが重なってるんだよね。
同じ気持ちだって証。
「お前の心は俺のものか?これからも、永遠に」
わたしよりずっと大きな手が両頬を包む。
薔薇色に染まってゆく。
「はい」
薔薇色を切り裂くように、はぁ~と大きなため息。
「俺は心配でたまんねぇよ…」
「え?何でです?わたしが泣き虫だから?」
「その鈍くて、無防備なとこだよ」
「容保様も覚馬先生も賢いって褒めてくださったのに…」
「俺以外の男に見せるな」
何を…と聞き返す間もなく、首筋に唇をはわせる。
「んっ…くすぐったいです…」
「もういっちょ、お前が俺のだって証だ」
顔が近づき、そっと口づけを。
長い、長いキス。
唇が離れて、ゆっくりと目を開けたら。
わたしを見つめるあついまなざし。
「今日はこの部屋から出さない」
「出さないって…。もし誰か来たらどうするんですか?」
「忘れたのか?離すなって言ったのはお前だぞ」
「そ…れは…そうですけど…」
「俺のことだけ見てろ」
土方さんの手が帯にかかり、はらはらとほどかれた。
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