25.會州一の志(五)
「あの、土方さん?聞いてもいいですか?」
「どうした?」
「…わたしのどこが好きなんですか?」
「はぁ?!」
「教えてください!」
「どこがって…」
「土方さんの周りにはきれいな女の人がいっぱいいるのに、何でわたしを選んだんですか?」
「そんなこと言えるかよ…」
「わたしは何も持ってないんですよ」
「何も持ってない?」
「権力を持つ公家や武家のお姫様でもないし、お金持ちの商家のお嬢様でもない。後ろ盾があれば役に立てたのに…」
好きだからこそ、自信をなくして落ち込むときもある。
土方さんには洗練された素敵な女性が似合う。
ふたり並んだら、それだけで絵になるような。
憧れの的みたいなカップルじゃなくちゃダメなんじゃないか。
そばにいたい。
でも。
わたし、隣にいてもいいの?
土方さんの恋人としてふさわしいのかな?
わたしじゃ、納得しないと思う。
思い込みかもしれないけど、何であなたなの?って無言の視線が痛い。
「絶世の美女でもないし、芸事が飛び抜けてできるわけでもない。何か武術ができれば戦力になれたかもしれないし…」
自分で言っておきながら悲しくなる。
「土方さんの好みと真逆でしょ、わたし…」
心の中で引っ掛かっていた小さな、いや結構重大な悩みだけど。
言うだけ言ってうつむいた。
「そんな、落ち込むほど気になってたのか?」
「だって、もう絶対に引き返せません。そのくらい土方さんが好きなんです…!」
きれいな真顔でじーっと。
真剣に聞いてくれていると思ったのに。
ふにふに、びよーんとわたしの頬を優しくつねる。
「なにしゅるんでしゅかぁ…」
「お前は不思議な奴だよな」
「ふしぎ?」
「最初は問題を起こさねぇように目を光らせてるつもりだったんだ」
血の気の多い自分の行動を振り返ると、本当に恥ずかしくて申し訳なくて。
わたしって子供だなぁって思い知る。
「危なっかしくて、男勝りで好奇心旺盛で。だけど、俺に真っ正面から立ち向かってくる女はめずらしい」
「土方さんからしたら、わたしは生意気な子供ですね…」
「うん、そう思ってたよ、実際。でもな…」
その時の感情を思い出しているのか、一呼吸置いて。
赤くなった顔を手で覆い、照れながらも土方さんの恋の想いを教えてくれた。
「…かれんを目で追ってることに気づいた。そんな自分が信じられなくてな」
恋なんてするとは思わなかった。
「それが恋のはじまりなのかもな」
土方さんも同じなんだろうな。
恋に落ちるなんてありえないことで。
予定外のことに戸惑った。
「何でだろうな?他の女とは何かが違って、なぜか惹かれていった」
意に反して視線が勝手に追いかけるたびに、好きじゃない、好きになってはいけないと心に言い聞かせた。
「正直、かれんの真っ白な純粋さが眩しすぎて、イライラすることもあったけどな」
切なくて、もどかしくて。
こうして土方さんの瞳に映ることなんて、限りなくゼロに近い。
「かなわない恋だと思ってました」
恋い焦がれた分だけ悲しくなると。
出逢えただけでも奇跡なのに、想いが通じて恋人になれた。
こんな悩み、お幸ちゃんが言ったように贅沢なのかもしれない。
「自分には色気もないと思ってるんじゃないか?」
「色気なんて皆無ですよ…」
「ちゃんとある。安心しろ」
「えー?よく分かりません」
「俺がそう言うんだから、そうなんだよ」
土方さん、優しい目をするようになった。
好きになんてならないと、お互いに意地を張って傷つけあっていた分、余計にそう思うのかな。
ポーカーフェイスで感情を表に出さない人だと思っていたけど、今ではいろんな表情を見せてくれる。
それがとてもうれしくて。
「条件やら打算やらで好きになったわけじゃねぇんだ」
山南さんと明里さんの言うとおりだ。
大人には分かるの?
「って、これ答えになってるのか?」
「充分です…。ありがとうございます」
土方さんの瞳にわたしが映っている。
本当はそれだけで充分なのだ。
「余計なことは何も思わなくていい。いや、俺が思わせない」
外野が何を言おうと関係ない。
心が繋がっていれば、揺らぐことはない。
不安に思ったりしてバカだった。
「代わりに俺を見つめていてくれないか」
「はい、約束します」
土方さんが抱えている寂しさや悲しみも、絶望さえも。
神様に誓ってもいい。
「言ったろ?俺が惚れるのは一途で義理堅く、誇り高い泣き虫だ」
目が潤む。
胸がジーンとして。
「お前を傷つけるこの世のすべてから、俺が守ってみせる」
本当は話の序盤からウルウルしていたの。
土方さんの言葉や視線にときめいて。
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