24.再会の日に僕は燃える恋を知る(五)

禁門の変を経て、新選組はさらに市中見廻りを強化。


現在も京都市中に潜む攘夷派浪士に目を光らせる。


以前より頻繁に會津藩邸に出向いたり、局長たちは特に忙しそうだ。


剣術をはじめ、砲術訓練にもいつも以上に熱が入る。


土方さんも沖田さんや平助さんと一緒に、汗だくになりながら隊士たちに稽古をつけている。



そんな中でも、みんな進んで町に出て力仕事を手伝う。


もちろんわたしも。


特に左之助兄ちゃんは、おまさちゃんのためならば!と、とにかく張り切って、ほぼ毎日手伝いに行っている。


恋する前は、屯所でゴロゴロしっぱなしだったのが嘘みたい。


ここ数日の間におまさちゃんの家族やお店の人たち、さらには高嶋屋のご近所さんからも頼りにされるほどになった。


誠意と真心は容保様を模範にしたとかで。



それに、愛しのおまさちゃんといい感じだ。


ふたりの距離が近づいているのがよく分かる。


それが自分のことのようにうれしくて。




ある日、沖田さんはおまさちゃんの家の手伝いに、わたしは宝蔵寺へお使いに出かけた途中のこと。



「何で大火の原因が會津と新選組のせいになってるんだよ?!」



どんどん焼けの大火の原因は、長州の残党を探すために會津や新選組が不必要に火をつけたせいだ、と京の人々の間で噂が広まっていると耳にした。



「まあまあ、沖田先生、かれんちゃん、どないしたんどす?」


「あ…御内儀さん、こんにちは」


「そもそも、この戦を起こしたのは長州じゃないか!」


「ああ…もしかして、町の噂のことか?」


「はい、ちょうど今、耳にしまして…」


「長州を恨むよりも同情する声が多いんが現状や」


「“長州は朝敵にあらず、會桑こそ町敵なり”なんて、あんまりだ…」



沖田さんも肩を落とした。


禁門の変のとき、日頃から攘夷派に協力的な公家のお屋敷に砲撃したり、西本願寺に対して脅しをかけたりしていたようだ…。


実際には長州兵を匿っていなくても、その可能性があると判断したのか、牽制のためなのか。


それはもちろん、會津や新選組だけがしたことではない。


そうであろうと何だろうと、戦争中の攻撃の一環だろうと、いけないことだと思うのはわたしが21世紀の人間だからだろうか。


分かってる。


やるかやられるかの世界だということは。


こんな噂になるほど會津や新選組がよく思われていないなんて、わたしだってショックだ。



「長州とか會津とか新選組とかじゃなくて、大火の原因は戦に係わったすべての人にあると思います」


「そやな…」



同情するあまり、一般市民の中にも攘夷派の浪士を匿う人もいるとか。



「なぜ長州贔屓の人が多いんです?」


「長州にはパーッと気前よくお金を使って遊ばはるお方が多い。そういうんが粋やと思わはる人が多いのや。対して會津のお方は財布の紐が固い。新選組はなぁ…」


「日頃の評判の悪さ、ですね?」


「沖田先生を前にして、すんまへん」


「財布の紐って…會津では武家でも質素倹約が当たり前です。民が納めた年貢や税金で會津と京を往復するんです。ここぞと見極めたところに、使うべきところに使ってこそ生きたお金になります」


「あれまぁ!かれんちゃん、商いの才覚があるかもしれまへんな」


「わたしがですか?いえいえ、当然のことですから」


「新選組の評判が悪いのはともかく、會津まで…。戦の間、會津候は病のせいで寝返りするのもつらい、歩くのもやっとだったと言うじゃないか」


「一橋様と弟君の桑名様に支えられながら天子様に拝謁して、會津の陣に詰めていたと局長から聞きました…」


「帝をお守りせねば、という一心やったのかもしれまへんなぁ」



もともと体が弱く病気がちだと仰っていたし、さらに心労やストレスが溜まる京都守護職なんてものを務める容保様を支えているのは、孝明天皇からのご信任ただひとつだけなのかもしれない。



「みんな、誰かのせいにしたいんや。そないな気持ちも分かっていただけますか」


「はい、それはもちろん私たちも察しています」



動乱に巻き込まれて焼け出された人たちにとっては大迷惑な話だよね。


不満を募らせて当然だと思う。


その不満の矛先が會津と新選組に向かった、ということか。


不満をどこかにぶつけなければやりきれない、という気持ちも分かる。



戦と大火から身を守るために、山などに避難した人が多かったと聞いた。


焼け出されてしまった今は、水のある鴨川や堀川などの河原に仮設の住まいを建てて生活する人もいる。



「こんな状況で先の不安はありますけど、肩寄せ合ってれば、しんどくても案外笑って過ごせるもんどす」


「そうですか」


「あ、そうだ。これ、屯所の庭で摘んだ撫子です。よかったら」


「まあ!綺麗やわぁ、おおきにな」


「お花があると気持ちも明るくなるかなと思いまして。でも、こんなときは花より団子ですよね」


「ははは!花より団子か、確かにそうだよね!」


「ふふふっ、左之助はんが籠いっぱいに野菜を詰めて、一足先に来はったわ」



自分も怪我をしたというのにタフだなぁ、愛だなぁ。


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