24.再会の日に僕は燃える恋を知る(四)

指揮官の来島又兵衛や久坂玄瑞が自刃し、長州軍が総崩れになったというのはドラマでも見たことがある。


禁門の変、蛤御門の変と呼ばれているだけに、洛中のみで起きた戦だとばかり思っていたけれど、実はそうではないらしい。


前夜、開戦前に伏見街道で衝突があったようだし、 開戦後も洛中から東九条村に退却してきた長州勢に新選組が立ち向かい、鉄砲の撃ち合いをしていたようだ。


その結果、長州勢は逃げて行ったという。


剣豪集団である新選組が剣ではなく大砲や鉄砲で勝利していたというのも意外だ。


覚馬先生から訓練も受けているから当然と言えば当然だけど。


やっぱり新選組は刀のイメージが強いから。



「その後、伏見に宿陣して天王山に行ったんですか?」


「二手に分かれてな。早朝、近藤さんとハジメと俺が率いる隊が先に伏見を出立して、橋本から船で川を渡った」



天王山に退却した隊を追うためだ。


天王山といえば、豊臣秀吉と明智光秀の“天下分け目の天王山”の山崎合戦が有名だけど、幕末にも歴史の舞台になっていたのね。



「土方さんや左之たちは、會津、桑名、彦根、大和郡山とともに山の麓を固めていた。それで山の中腹にある宝積寺で合流したんだ」



山に立てこもり、退却勧告にも応じなかったために、新選組が先頭になって山に入った。



「山道には放置された大砲がいたるところにあった。でも注意深く辺りを見渡しても、人の姿はない」



険しい山道を登り、追い詰めていく。


そして、ついに。



「金の烏帽子に金の采配、錦の直垂ひたたれを纏った大将を中心に、銃を持って待ち構えていることに気づいた」


「それが探していた?」


「だけどな、そこにいたのは十七人だけだったんだ」


「たった17人で待ち受けるなんて、そんなの決死隊みたいなものじゃない…」


「おそらくな。逃げた奴らはもっといたはずだ。奴らを国に向けて逃がした後、自ら残った十七人なんだろう」


「大軍が追って来ることは分かってたはずなのに…」


「“我は長門宰相の臣・真木和泉。互いに名乗られて戦いいたさん”と言うから、こっちは會津の神保内蔵助くらのすけ様、あ、修理様のお父上だ。と、近藤さんが名乗った」



声が届くほどの距離で対峙したということ?


しかも、お互い銃を構えているのに。



「真木が詩吟を吟じ、勝ちどきをあげると、兵士たちがこっちに向かって発砲してきた。小一時間くらい撃ち合いしたと思う。それで腰をやられちまった」



山道を駆け上がるのにも都合がいいし、この炎天下で甲冑を脱いでいたそうだ。


それが裏目に出てしまった。



「左之助兄ちゃんもその時に脛に弾が当たったのね」


「弾切れで山頂へ登っていくのを追いかけると、真木らが立てこもる小屋が燃えていた」


「最後は自爆ってこと…?」


「小屋に火をつけて、全員切腹したんだ。真木の遺体も黒焦げだった…」



死を覚悟してのことだったのだろうと想像できるとはいえ、壮絶すぎて、そしてそれぞれが無念を抱えていたのだと思うと、言葉が出なかった。



「小屋の中で火薬が爆発して外に飛ばされた奴もいてな…死にきれずにいたのを介錯した。見事な武士の最期だ。敵とはいえ遺体は丁重に扱ったよ」



天王山を下山後は、その日のうちに橋本から枚方を経由して、夜には大坂の御堂へ到着。


大坂でも残党狩り、長州屋敷を焼き打ちにし、武器弾薬なども押収したという。


その間、朝廷から長州討伐の許可が下りていたのだ。



「それで、大坂に滞在しながら昆陽こや 宿にも隊士を出張させて残党狩りをしてたんだ。敗走する長州勢の荷物や武器に監視命令が出ていたしな」



西国街道にある昆陽宿とは、現代では伊丹空港の近く、兵庫県伊丹市にある。



「陸路で長州へ向かうなら、西国街道の宿場町で武器や荷物を継立てして運ぶはずだろ」



市中探索をして、いつもの八軒家から三十石船で壬生に戻る隊と、昆陽宿へ出張する隊に分かれた。



「戦が終わっても、どんどん焼けが鎮火しても、新選組がどこにいるのか分からないし、帰ってこないしで心配したんですよ」


「悪い、長い間不安にさせちまったな」


「新選組の帰りを待つ時間に心配はつきものだから。みんなが負けるなんて思ってないけど、神様仏様へのお祈りくらいはさせてください」


「そうか、そりゃありがたい」


「それより永倉さん、手も腰も完全に傷が癒えるまで、絶対にお稽古も仕事もダメですからね」


「分~かってるよっ!何回言うんだよ」


「約束ですよ?」



しつこく釘を刺す。


今度という今度は黙っているわけにはいかない。


すでに局長や土方さんにも直談判済みだ。


山南さんと山崎さんもわたしの意見に賛成してくれた。



「百歩譲って、剣術の指導は許可してもらったじゃない。かなりの譲歩だわ」


「はぁ…参ったな」


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