13.心恋し[うらごいし]、月下の君(四)

「ここだけの話だけどよ、新選組でも一部の隊士の間では、女遊びよりも男色が流行りつつあるらしいんだよ」


「本当に?!」


「まぁ、男の大所帯だしな。そういうのがあってもおかしくねぇだろ。正確には男も女も両方いける、って言ったほうが正しいかもしれねぇけどな」



つまり、バイセクシュアルか。


日本は保守的だと思ってたけど、左之助兄ちゃんの話だと江戸時代よりはるか昔からLGBTの歴史があったみたいだし。



「馬の次は男色に興味を持ったのか?」


「そうじゃなくてね、わたしは男が男に恋をしても、女が女に恋をしてもいいと思うの。もちろん、男も女も両方好きっていうのも!」


「まぁな、誰を好きになろうと自由だよな」


「うん!さすが左之助兄ちゃんだね。ただね…」


「ん?」


「新選組や町の男の人の中にも、土方さんを好きな人がいるんじゃないかと思って…」


「なるほど、そういうことか」


「だって、女だけでも恋敵がものすごい多いのよ!男まで恋敵がいると思ったら気が滅入りそう…」


「ないとは言い切れねぇなぁ。かれんには残念な話だろうけど、たぶん土方さんを好きな男、いると思うぜ。ないとは言い切れねぇが、あるとは断してもいい!」


「そうでしょ?!そんな気がしてならないのよ。てゆうか、断言しないでよっ」


「モテる男を好きになった宿命と思うしかねぇな!」


「そんなぁ…」






*****




「かれんさん」


「局長!お仕事お疲れさまです」


「お疲れ様」



ここでの夜は長い。


1日の仕事が終わって、縁側で星を眺めながらのんびり話すのもいい。



「馬の練習をしたんだって?」


「はい!初めてにしては筋がいいって褒められたんですよ」


「凄いじゃないか。あの馬を手懐けるとは大したもんだ!」


「相性がいい気がします」


「傷の具合は良さそうだね」


「はい、すみません…ご心配おかけしました」


「ははは!君とは同じ屋根の下で暮らして幾月か経つが、日々新たな発見があって飽きないな」



目を細めて笑いながら。



「歳のことをどう思う?」


「な、何ですか?!突然…」



意表をつかれて動揺する。


まさか、わたしの恋心に気づいたとか?



「歳は君に心を開いているようだし」


「土方さんがわたしに?」


「私も正直驚いてるんだ」


「局長が驚くほどだなんて」


「昔から女子おなごに手を出しては、所帯を持つ気はないと冷たくする。その繰り返しばかりで、心を開く様子はなかった」


「何となく想像できますね」


「君がここに来たばかりの頃、あいつの顔を思い切り殴っただろう」


「あ…」


「あの時、他の女子おなごとは何か違うとピンときたんだ」



局長、何が言いたいんですか?


どうしろと言うのですか?



「あれでも少しずつ笑うようになっんだ、昔のように。表情が豊かになった。君が来てからだ」



わたしに土方さんの心が動かせると言うのですか?



「君みたいな子が一緒にいてくれたら…ってね、思うんだ」


「でも、言い争いすることもあるのに、そんなのでいいんですか?」


「それがいいんだよ、素直に心の内を見せられるからね」



残念ながら、あんまり好かれてないような気がします…


わたしは好きになっちゃったけど。



それでも、土方さんの役に立てるなら。


近づいてもいいなら。



「あいつは私のために、新選組のために鬼になろうとする」


「…大勢の組織の中では、誰かが嫌われ者になって厳しくしなきゃいけないじゃないですか」


「うむ…」


「本当はその本人が、いちばん仲間のことを思ってるんですよね」



それでも心を鬼にしなくちゃいけない。


優しい心をなくしたわけじゃない。


胸の奥に閉じ込めてるだけ。


感情を一切押し殺して。


それがどんなにつらいことか。



「残酷に見えるけど…優しさを隠すのは、人一倍その気持ちが大きいんだと思います」


「ひょっとして、歳のこと…?」



歴史は流れてゆく。


過ぎてゆく時代を止めることもできない。


分岐点に立つ日本のために、何か貢献できるとも思えない。



「はい…」



せめて隣で明るくいたい。


味方でいたいの。



だから、もっと心の中を見せてよ。


心は決まってる。


自信を持って言えるから。



「わたし、土方さんが好きです」






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