14.幕末ロマンには恋の魔法を(一)

「えーーっ?!」


「どうどっしゃろ?」


「聞き間違いじゃないですか?もしくは人違いとか…」


「そやさかい、さっきから何べんも言うてるやろ」


「何でそんな話が出てくるんですか~」


「うふふ。かれんちゃんのこと、見初めてしもたんやて」


「話聞いてな、こりゃえらいこっちゃと飛んで帰って来たんや」


「でも無理です…そんな」


「そう言わんと」


「ここに居候させてもらってる身なのに、とんでもありません…」


「関係あれへんがな。わてらの養女になって嫁ぐっちゅう方法もあるんやで」


「はぁ、そうなんですか…」


「ここはわての顔を立てる思うて」


「結婚とかちょっと…考えたことなくて」


「ほんの少ーし会うだけよ。気に入らんかったら断ってもええんよ」


「ダメです!お見合いなんてしたことないし…」


「どない言うたら分かってくれますのや」



何でこうなる?


何と、わたしにお見合いの話が来たと言うのだ。



お相手は八木家の知り合いで、室町通の呉服問屋の息子さん。


わたしは八木家の遠い親戚ということになっているらしい。



唐突なお見合い話に困惑中です。



平成では青春真っ只中の女子大生。


ハタチだよ。


なのに、お見合いなんて!


キャンパスライフを中断してるのに、お嫁になんて行けるわけない。


お金積まれたってムリ!



お見合いなんてしたことないのは当たり前で。


卒業して、就職して、恋愛して…自分のことが先決で、結婚なんてその後の話。


ずーっとそう思ってた。



ここでは10代でお嫁に行くのは当たり前。



八木家にはかなりお世話になってるし、嫌とは言ったものの強くは断れず…


押し切られて、考えてみますって言っちゃった。



それより何より、わたしは土方さんが好きなの。


走り出した恋は止まらない。


止められない。


何とも思われてなかろうと、女好きだろうと…


せめて一緒にいたい。



神様、それくらいいいよね?


それもダメなんて言わないでしょ?


はるばるタイムスリップしてきたのに。


一生恨んじゃいそうです。



「はぁ…」



おじさんとおばさんの部屋を出て襖を閉める。


下を向いてため息をつき、目線を上げた瞬間。


いちばん知られちゃいけない人が満面の笑みで待っていた。



「か・れ・んちゃん!」


「お、沖田さん…な、何?」



終わった…


ガックリと肩を落とす。


これでみんなに知られるのも時間の問題。



ああ…きっと今、トドメを刺される直前なんだわ。


予想どおり、天使の笑顔で悪魔な一言。



「皆に知らせよう!」


「待って、絶対ダメっ!」



バタバタと必死で走り、沖田さんを追いかける。


着いた先では、よりにもよって幹部会議の真っ最中。


最悪…



一気に視線集中。



「ねぇ!みんな聞いてください!おもしろい話があるんだ」


「総司!遅い!」


「かれんちゃんがねぇ」


「沖田さんっ!」


「お見合いするんだって!」


「言っちゃダメぇぇー!」



時すでに遅し。


沖田さんのバカ、バカ、バカー!



「見合いだって?!」


「見合いって…いつそんな話に?」


「かれん!どーいうことだよ?!」


「相手はどちらの方だい?」


「いつ見合いするんだ?」


「ちょ、ちょっと待って…」


「どうなんだ?」


「どうした?嬉しくないのか?」


「そんなに一気に聞かないでください…。わたしだって混乱してるんです」


「これは失礼」


「つい、な」



ちらっと土方さんを見る。


目線をそらして、興味なさそうな顔。



やっぱり?


知ってたけどさ…


ちょっとくらい興味持ってくれてもいいじゃん。



「おじさんとおばさんの知り合いの方みたいです。顔を立てると思って、って」


「その人、かれんちゃんのことすごく気に入ったらしいですよ」


「沖田さん!」



恋心を知る局長と左之助兄ちゃんに視線を送り、助けを求める。



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