13.心恋し[うらごいし]、月下の君(三)

「掃除の時間ですよー」



ばーんと勢いよく障子戸を開けると…目の前に衝撃の光景が。


最大限に目を見開く。



「あ…」



空気も、体も脳ミソも固まる。



「ごっごっ!ごめんなさい!」


「いや、その…これは…」


「どうぞどうぞお続けになってっ…!さよならっ!」



バンッ!



見ちゃった…


あのふたり…ゲイってこと?


絡んでいました。


生まれて初めて見ました。



顔が熱い。


心臓がバクバクいってる。


新選組にゲイの方がいるってのは初耳だなぁ。



俗に言う、ボーイズラブってやつね。


腐女子じゃないから、萌えたりはしないんだけど。



いいと思う!


急でびっくりしたけど、女が好きでも男が好きでも、わたしはいいと思う。



何よりすっごく気になるのよね。


どんな感じなのか。



周りをキョロキョロと確認。



「失礼しまーす…」



ブスッ。


そーっと人差し指で障子に穴を開ける。



一呼吸置き、意を決して中を覗いた。



「わぁお…どうなっちゃうの…?!」



人の情事を覗くなんてイケナイこととは分かってるんだけど、好奇心が止まらないっ!


これは未知の領域だわ。



「覗きとは悪趣味だな」



ハッ!


心臓がはね上がる。


慌てて障子の穴を背中に隠した。



「ひ、土方さん…」


「子供が見るもんじゃねぇ」


「すいません…」


「で、どうだった?」


「何がです?」


「男同士ってのを見た感想は?」


「はぁ?!どうって…」


「バッ、バカ!大声出すな」



土方さんの手で口を塞がれる。


つい、興奮しちゃって。



「俺は男色なんしょくは好かねぇな。やっぱ女じゃねぇと」


「いいじゃない!男が好きでも。好きなものはしょうがないんだから」


「相変わらず変わってんなぁ」


「好きになるのに男も女も関係ないもん!」


「お前、恋を語れんのか?」


「はぁ?!掃除するからもう行きます!」



あああ…


また言い合いしてしまった…


どうして黙っていられないの!


もっと女子じょしっぽいとこ見せたいのに…



ちょっと待って。


新選組の中にも、土方さんのことを好きな男がいるんじゃ…



冗談!


女だけでもライバルが多いのに、その上、男までもがライバル?!


まさかの?!


あり得ないとは言いきれない。



はぁ…


気が沈む。



どんだけわたしの心を揺さぶれば気が済むのよ!


人の気も知らないで。


相変わらず余裕に構えてるしっ!



とりあえず、掃除してる場合じゃない!


後でするから、今は許してっ!



「左之助兄ちゃぁぁぁん!!!」


「何だ?!どうした?!ものすごい勢いで」


「今!このご時世に、男が男を好きってありえる?!」


「ああ~男色か。そりゃあ、ありえるだろ」


「やっぱり…」


「新選組の奴らにもいるんじゃねぇか?」


「やっぱり…?!」


「男色やら衆道の歴史ってのは平安時代とか飛鳥奈良時代とかそれ以前、古代まで遡るからな」


「そんなに昔からあるんだ」


「戦国時代から徳川治世の初期の頃にはかなり多かったというか、武家の慣習みたいなもんだよ。有名だろ?織田信長と」


「あっ!森蘭丸!」


「たぶん、その慣習が庶民にも持ち込まれたんだ。美少年が売春したりしてな」


「美少年が売春?!」


「見目麗しいってのは女でも男でもほっとかねぇもんなんだな」


「じゃあ、まさかと思うけど、男の遊郭みたいなものもあるの?」


「陰間茶屋ってのがあるんだけどよ、客は裕福なお武家さんやら商人やら僧侶、女の客なら大奥のお女中や商家の後家さんなんかが多いんじゃねぇの」


「はあ…僧侶まで」


「若い歌舞伎役者が舞台の出番の合間に売春することもあるんだぜ。女形や若い役者には金持ちの支援者がいるしな」



パトロンってことか。


そういう行為はするかしないかは置いといて。


純粋に芸術や伝統芸能を応援してる人もいるだろうしね。



「井原西鶴の『男色大鑑おおかがみ』読んでみろよ」


「男色大鑑?」



井原西鶴といえば、『好色一代男』とか『日本永代蔵』が有名だけど、BLの本を書いてたの?


それほど世間でも男色が多かったということか。



それにしても、左之助兄ちゃんも本読むんだ、意外。



「幕府の取り締まりか何かで一時衰退してた時もあったみてぇだけど、また再燃してるって聞くぜ。特に薩摩はそういう習慣があるのか男色好みの奴が多い、って噂もあるしな」


「へぇ、そうなんだ」



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