9.心に灯りをともす(五)

「広い世界を知るって大切ですよね?お互いのいいところを合わせて、うまくやっていけませんか?」


「突拍子もないことを言うね…」


「融合するか?」


「しますよ!長崎や横浜はそうでしょう?」


「まったく、誰の入れ知恵だ?」


「自分の考えです!」


「んな都合のいい話があるか」


「まぁまぁ、ふたりとも」


「歳、そう熱くなるな」



土方さんの言いたいことは分かる…つもり。


政治や社会情勢を知らないヤツが勝手なことを言うな、ということだろう。


今すぐわたしの言うことを受け入れろというのは簡単じゃないことくらい百も承知だ。



「続きを聞かせて」


「…開国した以上、外国と肩を並べる力がなければ国は取られます。まずは相手がどのくらいの国力なのか、知らなければなりません。情報を仕入れるのは大事ですよね」


「ほう」


「受け入れるか攘夷かは、それぞれの国を知った上で発言すべきです。たとえ国を開いて外国文化が混ざり合っても、日本人が誇りを失わない限り、この国は消えたりしません」


「日本の誇りか」


「えーと…あ!和魂洋才わこんようさいです」


「和魂洋才?和魂漢才でなく?」


「外国の文化だろうと良いものは良いし、便利なものは便利です。強い国にするのも大事だけど、暮らしを良くするのが優先ですよね」


「もし、日本に異国の文化が入ってきたら、どんな世の中になるのかな?想像がつかないな」


「いいところを見習うだけです。そうすれば、新選組と同じように、家柄なんか関係なく本当に実力のある人が出世できます。人の上に立つには、それ相応の能力や知識や人望がなくちゃ」



身分なんかなくて、自由で便利な世界しか知らない。


それが普通だと思って今まで育ったんだから。



「もちろん、身分のある方の中にもそういう方はいらっしゃると思いますけど…。西洋では家柄とか男とか女とか関係なく、自分の目標のために勉強もできます」



誰もが自分の道は自分の意思で選択する権利がある。


わたしね、そういう時代から来たの。



「能力があって、志があって、真面目に努力してる人が、貧乏だから、身分が低いからって報われないのはおかしいと思いませんか?」



ここでは夢みたいな話だと笑われる?


そんなことあるわけないって。



そんなことないよね?



「わたしも女だからって制限されたくない。自分の道は自分で決めたい。どうにもならないことは多いけど、どう生きていくかは自分が決めることですよね?」



こんな発言、怒られる?


甘い考えだと言われる?



そう思ったけど、局長は怒ることなく耳を傾け、最後まで話を聞いてくれた。



「ピアノもそうだが、君は柔軟に異国の文化も受け入れ、誰にも分け隔てない。それに感動したんだ」



身分のない時代の人間にとっては当たり前なんですよ。



「人は平等でそれぞれ与えられた使命が違うだけだと言ってくれたこと、本当に嬉しかった」


「与えられたものを受け入れるのも、自分の力で変えていくのも自分次第です。だから、みんなはここにいるんでしょう?変えたいと、変わりたいと思ったから」



局長も土方さんも元はお百姓さんだと言ってたっけ。


他のみんなも下級武士だったり、浪士だったり、町人だったり、身分が高い人は少ないと聞いた。



新選組は身分を問わない。


様々な身分の人が集まっていて、家柄なんかにとらわれない。


実力で手柄を立てれば出世できる。


意外と時代の先を行く、現代的な組織だ。



「気づいてました?新選組だって、実力主義なところは西洋的ですよ」



でもここは江戸時代。


新選組内部はそうであっても。


日本ではまだ身分の階級がある時代だ。


これまでにも、嫌なことも悔しいこともあったんだろうな…



「世の中をすぐに変えることは難しいかもしれない。でも、人はどっちが上とか、どっちが偉いとかじゃないんです。だからこれからも、新選組を悪く言う人がいたら立ち向かいます」



クイッとお酒を飲んだ後、横目で視線を投げて土方さんが一言。



「お前みたいに変わった女、見たことねぇよ」


「めずらしくて飽きないでしょう?」


「ははは!いや、笑ってる場合じゃねぇ!西洋かぶれの女が嫁に行けるかよ」


「だから!嫁には行きませんって!」


「何だかんだ言って、心配なんだ。かれんちゃんのこと」


「はぁ?!バカ言うな!」



それが当たり前だと思うと、人は忘れてしまう。


自分以外の人を尊敬して、感謝すること。



わたし自身も忘れてたことに気づいた。


今日の出来事がなければ思い出すこともできずに。





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