7.未来の国のピヤノ弾き(四)

「と、基本はドレミファソラシ、この7音です。7つの音を右に弾くたび、だんだん音が高くなっていくんです」


「本当だ!」


「じゃあ、左に弾いたら低くなるの?」


「正解!ド・シ・ラ・ソ・ファ・ミ・レ・ド」


「確かに、どんどん低くなっていく」


「それじゃあ、次は白黒白黒と交互に弾いてください」



指を重ね、半音階を一緒に弾いていく。



「黒い鍵盤を使うと、音が半音上がったり、下がったりするんです」


「半音?」


「白い鍵盤だけだと音がひとつ上がります」


「その半分という解釈か」


「はい。局長、左側で弾いてみませんか?このドの音からです」


「ああ、ここかい?」


「それから、平助さんは右側で」


「音楽の心得がないけど、私にもできるかな?」


「大丈夫!白鍵にこう手を置いて、このドの音が始まりね」


「うん、分かった」


「沖田さんはさっきと同じように白鍵を弾いてください。3人一緒にせーのでひとつずつ、右に8つ弾きますよ」


「少し緊張するな…」


「簡単ですから楽に。わたしも一緒に弾きますから」


「そうか?」


「指、失礼しますね」



局長の指に自分の指を重ねて。



「いきますよ。せーの!ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ・ド」



低音は局長、中音は沖田さん、高音は平助さん。



「低い音と高い音が同時に出せるんだ」


「そうなんです」


「面白い。どんな仕組みだ?」



山南さんがピアノの上から下から顔を突っ込む。



「鍵盤をひとつ押してくれるか」


「はい」


「まだだ。弾き続けてくれ」


「病気が始まったな」


「病気?」


「“調べなきゃ気が治まらない病”」


「早速、寝る間も惜しんでとことん調べるぜ」



夢中になった山南さんの耳には、周りの声は入らない。


山南さんでも熱くなることがあるのね。


意外な一面だわ。



「なるほど…」


「この数分で分かったのか?」


「鍵盤が動くと、この箱の中の弦も動く」


「どういうことだ?」


「何言ってんだかさっぱり、だねぇ」


「歳、分かったか?」


「いや…引っ張られて音が出るということか?」


「まだ完全に理解したわけではないんだ。もう少し調べてみたい」


「どうぞ、思う存分」


「解体しては駄目か?」


「だっ、ダメです!解体した後、誰がどうやって直すんですか!」


「君は直せないのか?」


「直せません!弾くのと修理するのは別です」


「それでは仕様がないね…」


「ここから見えるだろ。上から見て、気が済むまで調べたらいい」


「はぁ…そうします」


「その様子じゃ、体が疼くみてぇだな」


「ああ。このままでは蕁麻疹が出そうで」


「蕁麻疹?」


「解明できない問題が気になりすぎて蕁麻疹が出たんだ」


「それで蕁麻疹って出るもの?」



解明できないモヤモヤかストレスが原因だろうか?



「何を調べてたんだっけ?」


「エレキテルに次ぐ発明品の開発」


「それはたしか平賀源内の、ですよね?」


「自動米炊き器とか、自動掃除人形とかね」



炊飯器に掃除機?!


いや、普通の掃除機を超えて、時短のロボット掃除機の開発?!


随分な先見のめいがあるのね。


博識で学ぶことが好きな山南さんなら、学者や発明家としても活躍できそうだ。


そうだ、簡易シャワーを作ってもらえないかお願いしてみようかな。


山南さんならできる気がする。



「本を読み漁ったり、時には紙と筆片手に発明家んとこに通ったんだぜ」


「失敗の連続でね。何度黒い煙が立ち込めたことか」


「早く完成させたくてたまらなかったんだろうな。だから体に異常が出たんだ」


「それは専門家に任せたらいい分野なんじゃ」


「そう思わんのが山南さんだよ」


「おい」


「え?」


「それはそうと、なぜ西洋の楽器を弾ける?」


「えーと…それは…」



鋭い質問…


土方さんにまずいところをつかれた。


そこには触れないでほしかったけど、みんなもそう思ってるだろうな。



何かいい答えはない…?


早く、早く。


言葉に詰まったら怪しまれる。


うーん……



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