13.心恋し[うらごいし]、月下の君(一)

何てことを言っちゃったんだろう…


あの場は何とか言いくるめて逃げたけど。


あんなの、好きですって告白してるようなものじゃない。


どんな顔して会えばいいの…



わたしの恋路はどうなることやら。


思いっきり前途多難な恋です。






「ひとりで大丈夫ですって!」


「いや、そういうわけにはいかん」


「沖田さんも島田さんも忙しいでしょ?見廻りとかお稽古とか…」


「こうして非番の者がつくんだから。気にするな」


「何言っても駄目だよ、しばらくは。近藤先生にも山南さんにも、源さんにまで言われてるんだから」


「そんなぁ…沖田さんまで」


「まぁ、気持ちは分かるけどね」


「俺なんて土方さんから厳しーく言われて、かれんのこと頼まれたんだからな」


「えっ!?土方さんがっ?」


「だから、問題だけは…おい、聞いてんのか?」



土方さんが気にかけてくれたの?


こんな小さなことでも、うれしくて顔がにやけちゃう。



残念ながら想いは一方通行。


問題起こすなって意味だろうなぁ。



あの一件以来、あたしが出かけるときはお目付け役がつくことになった。


それで、今日は非番の沖田さんと島田さんが一緒っていうわけ。



しばらくの間はしょうがないか…。


また迷惑かけるのも申し訳ないし。



でも、ちょっとだけからかってみたくなった。



「あーっ!」


「どうした?!」


「あれ!何か飛んでる!メリケンのじゃない?!」



なーんて、古典的なワザを使ってみる。


引っかかるわけないよね。


そう思ってふたりを見ると…



「どこだ?」


「島田さん、見えました?」


「いいや」



空を仰いで、キョロキョロと。


思いっきり引っかかってるし。


必死に何かを探してる。



そっか。


ここは古典の世界だったっけ。


それじゃあね。


失礼して、今のうちに…



「ねぇ、どこにあるん…あっ!!」


「しまった!やられたっ!かれんのやつ。早く追いかけないと!」


「このまま逃げられたら大目玉だ!」




…ほどなくして、追いかけてきたふたりによって捕獲。



「かれんっ!」


「冗談です」


「まったく」


「その代わり、ひとつお願い聞いてくれます?」


「またよからぬことを思いついたんじゃないだろうな」



島田さんの警戒の目が光る。



「違いますよ。ちゃーんと、人生に役立つことです」






*****




「かれん君、一体何をしているんだい?その格好は…」


「山南さん!馬の練習です」


「それは見れば分かる…」



そう。


お願いとは、乗馬。



沖田さんの指導の下、早速練習中。


家事の他に何かしていたほうが考え込まなくていいし、気晴らしにもなるし。



「もっとゆっくり走らせたほうがっ!手綱をしっかり握って…ああ、見ていられない」


「すいません、山南さん。かれんにどうしてもって頼まれたもんで…」


「イザというとき馬に乗れたほうがいいでしょう?」


「いざという時って…そんな時はないと思うが」


「この子、相性がいい気がする。名前は?」


「数日前にここへ来たばかりで、まだ名前がないんだ」


「じゃあ、わたしが付ける」


「それより、なかなか筋がいいよ!初めてとは信じられないなぁ」


「ホント?!」


「この馬、気性が荒くてさ。他の馬より手を焼くはずなのに」



褒められていい気分。



「なぜ気性が荒いと分かっている馬を選んで乗せるんだ!」


「それは心配だったけど、今日は比較的落ち着いていたし、島田さんも私も付いているから」


「この子、厩で初めて会ったとき、わたしをじっと見つめてくれたんですよ」


「うわぁ、山南さん、なぜ彼女が馬に…?」


「また彼女の好奇心が歩いているのです」


「ああ、いつもの」


「しかし、馬に乗れるようになれば必然的に好奇心の出歩く範囲も広がるというもの…」


「この調子だと、乗りこなすまでそう時間はかからないだろうねぇ…」


「まあ、洛中は馬を走らせることはできない決まりですから、大丈夫かとは思いますが」



山南さんと源さんが顔を合わせて苦笑い。



「ともあれ、元気になって何よりだねぇ」


「かれん!本当に嫁の貰い手なくなっちまうぞ」


「大丈夫ー!まだお嫁に行く気ないから」



永倉さんがからかうから、大きな声で笑って返答。



「よそ見をするんじゃない」


「はーい」


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