12.恋をするとは思わなくて(二)

もう!


考えれば考えるほどテンションが下がる。


なるべく考えないようにしよう!


って言ってもムリ、ムリ。



時を超えても悩みの種は変わらない。


ふぅ~っと、重苦しい恋のため息ばかり。



庭の薔薇に目をやる。


小さなローズガーデン。


わたしの憩い。



他のこと考えれば気が紛れるかも。



そういえば、薔薇の色も品種も少ない。


さすがにまだ日本で品種改良はされてないのかな?



オレンジ、鮮やかな黄色、紫。


緑にチョコレート色に、まだら模様。


ここじゃそんな薔薇は見かけない。



昨日の夜の出来事は何だか夢みたいで。


大輪の薔薇の花の前の出来事…


ぎゃーっ!!



気が紛れたと思ったのも束の間。


モクモクモクっと吹き出しみたいに昨夜のワンシーンが頭に浮かんだ。



ダメダメ!


これじゃ逆効果。



ブンブンと首を振り、頭の中の回想をかき消す。


パンパンと両手で頬を叩いた。



わたし、こんなに集中力足りなかったっけ?


自分でも呆れちゃう。


容易く振り回されるなんて。



第一、わたしが一方的に好きなだけで、土方さんは何とも思ってないんだから。



自分の言葉にシュンとしちゃう…


何で自分で自分の首絞めるようなことを…



「何やってんだよ」


「わあっ!!」


「うわっ!!…ったく、おどかすなよ」


「さっ、左之助兄ちゃんこそ…びっくりしたぁ」



縁側に座って一喜一憂、ジタバタやってるところに、左之助兄ちゃんのツッコミの声。


しまった。


お恥ずかしい…



「さっ、左之助兄ちゃん、何でいるの?」


「いちゃ悪りぃかよ」


「悪くない!全っ然、悪くないっ!おかえり…そう!おかえりっ!」


「熱でもあんのか?」


「ないない!」


「ふーん。なら、いいけどさ」



パニクってしまった…


何やってんの。


恋して気がおかしくなったんじゃ。


こんなこと、今までに一度だってない。



「かれん」


「う、うん?」



スバッと振り返り、大真面目な顔で。



「俺、見ちまったんだ」


「何を?幽霊?!」



ニヤリと顔を覗きこむ。


後ずさりして距離をとった。



「お前、昨日土方さんといい感じだっただろ」


「えっ!そっ、そんなことない!」



ボッと顔が瞬時に赤くなったのが分かった。


噴火直前。



「いいからいいから。素直になりなさい」



見られてたの?!


恥ずかし過ぎて、穴があったら入りたい…



「自分でもびっくりしてるんだよ…」



左之助兄ちゃんにぐっと顔を近づけ、じーっと見る。



「おかしいな」


「何だよ」


「左之助兄ちゃんだって顔はかっこいいのに、何か色気は感じない」


「顔は?!何て失礼な」


「気も合うし、強くておもしろくて大好きだけど、ぜーんぜんときめかない」


「それは俺とかれんがすでに兄と妹だからだろ」



確かに。



「土方さんの好みってわたしとは真逆な気がしない?」


「そりゃあ…否めねぇな。しっとり美人な色っぽい姉ちゃんが好きなんじゃね?」


「だよね…」



終わってる…



何でこれだけ男がいる中で土方さん?


ホントにあの人じゃなきゃダメ?


わたしだけを見てくれる人だっているはずだよ。


冷静にならなきゃ。



一点を見つめ、ムムーッと考え込む。



眉間に指が刺さった。


おどけてニカッといつもの笑顔。


つられて笑った。



「左之助兄ちゃん」


「ん?」


「左之助兄ちゃんは何で島原に行かないの?」


「べべべ別にいいだろ!そんなの」


「左之助兄ちゃんが島原に行くって見たことも聞いたこともないもん」


「俺のことはいいんだよ…」


「ねぇ、何で?」


「どこに行こうと俺の勝手だろっ」


「モテそうなのにな」



目をそらし、ほんのり顔を赤らめた。



「おっ…俺には惚れてる女がいんだよ…」



やっと白状した。


誰にもヒミツにしてたの?


隠さなくてもいいのに。



「ああーっ!」



照れて無造作に頭を掻く。



「お・ま・さ・ちゃん」


「なっ?!もしや千里眼…?!」


「毎日毎日、あれほど浮かれて出かけたら、沖田さんもわたしも知りたいじゃん」


「つけたな!?」


「いつもは豪快なのに、左之助兄ちゃんでも照れることあるんだね。カワイイんだから」


「かわいっ…それ以上からかうなっ!」


「からかってないよ」



まっすぐ一直線の恋を応援しないわけない。



叶うといい。


ね、左之助兄ちゃん。


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