11.恋の最初のまなざし(六)

「沖田さんとこうしてると子供に戻ったみたい」


「かれんちゃんまでそうやって子供扱いして…年下なのに」


「そうじゃなくて、心から楽しいってこと」


「それならいいけど」


「もっと大人になったらこんなことできなくなっちゃう」


「みんな、何で子供扱いするんだろう?剣の腕だって新選組じゃいちばんだし、もう子供じゃないのに…」


「みんなが子供扱いするのは、昔から沖田さんを知ってるからじゃないですか?」



わたしにもその気持ち分かるな。


20歳くらいって微妙な年頃。


そんなに大人でもなくて、余裕も全然ない。



だからって子供でもない。


何も考えてないわけじゃない。



元服が早かったこの時代なら、余計にそう思うんだろう。



「あ!見世物だって。見ていこうよ」



子供扱いされるのも分かるような…


今、言ってたばかりなのに。


明るくて無邪気で沖田さんらしい。


子供扱いされるのは、みんなから可愛がられてる証拠よ。



「待って、沖田さん」



クスッと笑って追いかける。



「何だろう?」


「曲芸だって」



人が大勢押し寄せる中、頭と頭の隙間から、つま先立ちして首をのばす。


21世紀のイリュージョンやマジックやサーカス。


見たらみんな、腰抜かすんだろうな。



「あ!おつかい」



ハッと本来の目的を思い出した。



「待っててください。用事済ませてきますね」



人波をかきわけ道に出る。


何しに来たんだか。


忘れるところだった。


うっかりうっかり。






*****




おつかいを済ませ、来た道を急ぐ。


沖田さんが待ってる。



「予定外だったな、こんなに時間がかかるなんて。早く帰らなきゃ。もうすぐ日が暮れちゃう」



今夜のごはん何だろう、とか考えながら。


源さんと八木のおばさんのお蔭で、最近ではこの時代の台所にもすっかり慣れ、メキメキと家事の腕を上げてる。


…と思う。



「失礼…」


「申し訳ございません…!」



細い小道で、すれ違いざまに男の人とぶつかった。


笠を目深に被った人。



いけない。


上の空でよそ見してるから。


絡まれなくてよかった。



次の瞬間、背後から悲鳴が聞こえて歩みを止めた。



振り返ると、うつ伏せに倒れる侍。


もがき苦しむ声…



斬ったのは笠の人だ!


血の滴り落ちる刀を握っている。


辻斬り?!


暗殺?!


これが世に言う不逞浪士とかいう奴?!



「だ、大丈夫ですか?!」



青くなり声が震える。


危険と思いつつも駆け寄ったけど、どうすればいいの?


息はある。


血を止めなきゃ…


このままじゃ、この人死んじゃう!



「何でこんなこと…!」


「お前には関係ない。早く行け!」


「助けてください!誰か!」



声の限り叫ぶと、笠の浪士は声を荒げた。



「騒ぐな!死にたいか!」



脅し文句になんかに屈したくない。



「いきなり背後から斬りつけるなんて卑怯!」



局長や永倉さんが言ってた。


わたしもそう思う。


1対1なら、正々堂々真っ正面からってのが道理!



「ではお前も斬るまで。顔も見られちまったしな…」



死ぬ寸前だと言うのに、体が動かない。



死にたくない。


今すぐこの場から逃げたいけど、逃げたらこの人は殺される。



構えていた刀を振り下ろす。


覚悟して目をぎゅっと閉じた。



「うっ…いた…っ」



その場に倒れ込む。


尋常じゃない痛みと共に、左腕からは赤い血がドクドクと流れる。


傷口を押さえた右手もみるみるうちに血の色に染まる。


こんなに大量の血が自分から出るなんて…


嘘みたいに真っ赤。



全然力が入らない…


何…これ…おかしいな。



怖ず怖ずと顔を上げると、目の前に切っ先を向けられていた。



とどめだ」


「いや…」


「覚悟!」



再び目をぎゅうっと瞑った。



「どこの手の者だ?!」



この声は…



「おきた…さん…?」



不逞浪士が沖田さんに気づき振り向いたときには、目にも留まらぬ早業で、腰の刀を抜いて不逞浪士を斬った。


一瞬の出来事。


沖田さんって、やっぱりすごいんだ…


本物の天才剣士なんだね…



「かれんちゃん!しっかり!」



薄れゆく意識の中でかすかに届く、名前を呼ぶ声。


沖田さんの腕に抱かれていた。



霞む目には…


騒ぎに気づき、遠巻きに集まる野次馬。


ああ…


こんな姿見られたら、沖田さんのファンに罵られてついには呪いでもかけられるかも…


そんなどうでもいいこと考えてる場合じゃないのに…



血の気がなくなり、意識朦朧。


気力も尽きた…



もうダメ…


こんなとこで死にたくないけど…


わたし、死んじゃうの…?





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