11.恋の最初のまなざし(五)
わたしと話がしたいとご指名をいただくとは。
普通に考えて絶対にあり得ないこと。
こんなふうに面と向かって話すことは恐れ多いし、未だに信じられない。
数回のお目通りで粗相も多々あっただろうに、大きな心で許してくれる。
寛大なお殿様だなぁ。
「それにしても會津候はかれんちゃんが気に入ったみたいだね。はい、文が届いたよ。前のお忍びから二週間くらいかな?」
「わたしが会津の娘だからですよ」
「ピアノもまた聞かせてほしいって言われたんだろ?」
「もう二度とそんな機会はないって思ってたんだけど」
「この大量の譜面!全部稽古すんのか?」
「もちろん!容保様がくださった楽譜だもん。死ぬ気で練習しなきゃ」
「會津候がお認めになったんだからよ、かれんは新選組の楽師だな!んじゃ、俺はちょっくら」
「左之助さん、どこ行くんですか?」
「んにゃ、野暮用さ…」
とか何とか言っちゃって!
鼻歌を歌い上機嫌。
「バレバレだよね」
「わたしたちは知らないと思ってるんだから当然ですよ」
行き先はひとつ、例の彼女のもとへと。
もとい、彼女の“代理人”のもとへと。
どうやら毎日毎日、雨の日も風の日も積極的にアプローチしてるみたい。
どっからどう見ても肉食男子よね。
左之助兄ちゃんの愛しの君。
菅原まさちゃん。
背も小さくて、守ってあげたい系の可愛らしい子みたいだ。
お父さんはすでに亡くなっていて、お店のほうはお兄さんが跡を継いでいるとか。
どうやって調べたのか、沖田さんが教えてくれた。
どうやら、この間左之助兄ちゃんが会っていた女の子はまさお嬢様ではなく。
お嬢様のお付きの女中さんだったそうで。
「そりゃあ、そうだよ。大商家のお嬢様ともあれば箱入り娘さ。お付きも付けずに出歩くなんて、ましてや男と逢い引きなんてありえないよなぁ」
「そっか。お付きの方に手紙を渡すように託したってわけね」
「何でも、名字帯刀を許されたお家柄らしいよ」
「筋金入りのお嬢様かぁ。えっ?てことは、ご両親が決めた許嫁とかいるんじゃ…」
「あ…ありえない話じゃないな…」
うまくいくといいなぁ。
許嫁なんかいませんように!
万が一、許嫁がいたとしても、どうにか理解してもらって祝福されるといいなぁ。
いつの時代も、恋のときめきやドキドキは変わらない。
それがすごくうれしかった。
がんばれ!
左之助兄ちゃん。
早くおおっぴらに応援したいけど…ガマン、ガマン。
「沖田さんは好きな人、いないの?」
「いないよ」
「そう?みんな、島原に行ってるのに」
「そりゃ、私もお供したことはあるけど」
「土方さんなんて、
「土方さんは昔から手が早いから。モテるのも分かるだろ?」
「来るもの拒まず?拒むことあるのかな?」
「さすがに土方さんだって拒むことはあるよ」
「あっちこっちに女がいるってどうなわけ?」
「もしや土方さんが気になるの?」
「違います!絶対嫌だ~!わたしだけを見てくれる人じゃなきゃ」
「ムキになっちゃって」
「もう~!沖田さんの話してたんですよ」
「私は今はそれどころじゃないから」
「その発言は、
「うん、近藤先生の役に立ちたいんだ」
「十分お役に立ってるじゃない」
「まだまださ。すぐ子供扱いするし…」
「すごいなぁ。自分の道を決めて」
わたしなんて、まだなーんにも。
英語好きで、外国と関わる仕事がしたいと思って大学も選んだけど、将来これがしたい!ってのもまだ模索中。
アメリカかイギリスか、英語圏に留学してみたい。
でも、まだ将来は見えてない。
沖田さんみたいに見つかるかな?
自分の道が。
はっきりとした志。
自分の道を行く姿が、今日は立派な大人に見えるよ。
そんなことを話しながらおつかいに出る。
手伝いという名目で一緒に来た沖田さん。
「左之助さんとおまさちゃんに何か進展あるかもしれないから」
って…完全におもしろがってる。
ま、左之助兄ちゃんの恋を応援したいってことだよね。
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