11.恋の最初のまなざし(二)

「傑作ついでに。“うぐいすや はたきの音も つひ止める”」


「俳句?」


「誰が詠んだと思う?」


「その作風なら…左之助兄ちゃん?」


「意外な人さ」


「意外な人?傑作ついでって、まさか土方さん?!」



何の捻りもないわね。


ど真ん中ストレート。


俳句はよく分からないけど、直球勝負だけで三振が取れるんだろうか。


変化球も交えたほうがよさそうだけど。



実は意外と単純なのかしら?



「ぷっ…そのまますぎて。ダメ、笑っちゃう」


「どう表現しようと芸術は自由だけどさ、これじゃ俳句は語れないよな」


「素晴らしい鳴き声のウグイスだったんじゃない?」


「この世のものとは思えないほどのね!」


「あはは!土方さんの前で思い出し笑いしちゃいそう!」




帰り道。



「あれ?左之助さんだ」



数十メートル先に姿を見つけた。


さっきまで屯所で大笑いしてたのに、急ぎの用事でもあったのね。



「おーい、左之…」


「待って、若い女の子と一緒ですよ」


「本当だ」


「あの子知ってる?」


「知らない。誰だ?左之助さんに女の子の知り合いなんて」


「最近よく出かけてるみたいだけど」


「言われてみれば」



ピンときた。


こういう予感は女の方が鋭い、はず。



…恋ね。


恋の予感。



予感も何も。


あの顔、あの態度。


誰が見ても100%間違いない。



「あの子のこと好きなんです。たぶん、いや絶対」


「恋?!」


「あっ、何か渡した」


「手紙?まさか!恋文?!」


「ラブレター?!左之助兄ちゃんが?!」



またまた物陰に隠れてじっと偵察。



あらら、はにかんじゃって。



「いつもの豪快な勢いはどこにいったの?デレデレじゃない」


「あはは!全然違うし!」



ピュアな感じに胸がキュンキュンしちゃう。


まだ恋は芽生えたばかりみたいね。



「うん、恋だね」


「恋です」


「左之助さんも恋するんだ。驚きだよ」


「うまくいくといいですね」


「そうだね。こっそり好きな人に会いに来るなんて、誰にも秘密にしてるな。島原にも行かないワケだ」


「かっこいいのに沖田さんや土方さんみたくはいかないのよね。何でみんな魅力が分からないのかな?納得できないわ」


「男ウケは抜群なんだけどね」


「おーい!かれんちゃん!」


「あ、平助だ」


「はぁ…やっと見つけた」


「どうしたの?そんなに慌てて」


「はぁ…大変だよ!屯所に會津候がっ!神保修理しゅり様と梶原平馬様と一緒にっ…」


「え?!早く戻らなきゃ!」


「まずい、今戻れば土方さんに怒られるな…」


「土方さんもそれどころじゃないですよ!行きましょ」






*****




「神保様、それにしても殿のお忍びが多くはございませぬか?あ、いえ、我々はいつお越しいただいても喜んでお迎え致しますが、いささか殿の御身が心配で…」


「近藤殿、少ない供回りで度々お忍びとはいかがなものか、と我々も再三申し上げているのですが」


「ここは屯所故、いつ不逞浪士の襲撃を受けてもおかしくはございませぬ」


「用心の上、何かござました時には無論、お守り致しますし、殿に危害を加えるような輩に容赦は致しませぬが」


「山南殿、土方殿、頼もしい限りです。実は殿はご病弱なのです。お体に障るのではないかと…」


「日々、お忙しい御政務の合間のことではご心配でしょう」


「しかし、殿達ての御希望でして…。かれん殿にお会いしたい。話し相手になってほしいと」


「話し相手…でござりますか」


「寡黙な殿がそのように仰るので我々も驚いております」


「それならばもっと上品で教養の深い女子おなごのほうがふさわしいのでは?」


「とんでもない!先日のかれん殿の殿へのご進言は誠に素晴らしいものでした」


「神保様、その節は大変なご無礼を…」


「いや、むしろ感服いたしました」


「あいつに殿のお相手が務まるかどうか…」


「殿が宮中に参内すると、女官たちがそわそわと色めき立つと伺いましたが」


「都の女子おなごたちからも大層な人気でございます。皆、殿の麗しいお姿にため息を漏らすほどです」


「はい、噂は我々の耳にも…。しかし、殿はそのような浮かれた話には興味を示さぬのです」


「かれん殿の天真爛漫さ、聡明さが良いのでしょう。疲れも心労も何もかも忘れられると仰せられまして」


「左様で。御所望とあらば是非に。ん?殿はもしや…!」


「おそらく…」


「失礼致します。かれんさんが戻りました」



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