【第2章 いとし】

11.恋の最初のまなざし(一)

神様。


教えてください。



どうしてわたしをこの時代に送ったのですか?


理由があるのですか?


誰かに呼ばれたのでしょうか?



わたしの使命は何なのか。


そろそろ教えてくれませんか?






「沖田さん、そーっとですよ。起きちゃうから」


「分かってるよ。かれんちゃんも早く」



こういうとき、小声は必須。


あうんの呼吸を発揮して、ある作業に夢中になる。



今、イタズラの真っ最中。



その餌食となったのは…


土方さんだ。



今日は非番で、めずらしく昼寝してるのを発見。


ここぞとばかりにイタズラを決行!



顔の前でさっさっと手を振り、熟睡してるのを確かめてから。


沖田さんが後ろに回り、ポニーテールに花を結ぶ。


この髪型、総髪そうはつって言うんだって。



わたしは正面から唇に指で口紅を。


それから左右のほっぺにチークものせて。



「よし!できた」



バッチリ。


色白でキレイな顔立ちだから、赤い紅が映える。


ほんの数分、軽い化粧でも妖艶な姿。


思わず見とれてしまうほど。



音を立てないよう、横に手鏡を置いた。


起きたらこれで確認してね。



「行こう」



庭の物陰に隠れ、少し顔を出して様子を見る。



「おい、左之助!見ろよ。土方さんの顔」


「そこらの女よりイケるんじゃねぇか?!ぎゃはは!」



通りかかった左之助兄ちゃんと永倉さんが堪えきれずに大爆笑。


ふたりの大きな笑い声に、うるさくてたまらないという感じで目覚める。



「美しいお嬢様、お目覚めですか?」


「はぁ?!」


「あーっはっはっはっ!」


「気でも狂ったか?」


「ちげーよ。やべ、笑いが止まんねぇ」


「ぎゃはは!左之、転げ回るほど笑って」


「新八だって人のこと言えるかよ」


「笑い茸でも食ったか?」


「ぶーっ!駄目だ」


「頼むから、その顔でこっち見ないでくれ」


「人の顔見て大笑いするとは失敬な」


「わりぃ、わりぃ」


「その格好!」



源さんも見慣れない土方さんに驚愕し、やはり耐え難いと顔を背けてクスリ。


笑わないようにとがんばっていたけど、ついに吹き出した。



何を笑っているのか状況が掴めず、眉をひそめる。



「何だよ…んな面白いことがあんのか?」


「面白いのなんのって!」


「その鏡…自分の目で確かめてみろよ」


「やられたねぇ、ほら」



手鏡の中の自分を見た途端、顔色が変わった。


わなわなと震え、叫ぶ。



「なん…何だ!これはーっ!!」



怒り心頭。


ゴシゴシとメイクを落とし、声を上げて誰かを捜す。



「クソッ!あいつら!」


「「大成功~!」」



パンっとハイタッチ。


成功の喜びに満面の笑み。



捜してるのはわたしたちでしょ?とばかりに、ひょっこり顔を出し、居所をお知らせ。



「土方さーん!お似合いですよ」


「すっごくキレイ」


「てめぇら!ただじゃおかねぇ!」



お褒めの言葉に、さらに怒りが倍増。



「いつものことだろ。落ち着けって」


「逃げろっ」


「待ちやがれ!」



声を背に大急ぎで逃走、がいつものパターン。


沖田さんとわたしにとってはお手のもの。



捕まったら一大事。


ホンモノよりも数倍恐ろしい雷が落ちる。


怒りが鎮まるまで姿を隠さねば。



そのまま町に出て甘味屋さんに入る。


今でいうカフェかな?



「あはは!傑作だ」


「局長や平助さんにも見せたかったですね」


「左之助さんと永倉さんなんて、腹がよじれるほど笑ってさ。源さんも吹き出してたよね」


「あーでも、戻ったら怒られますね」


「その頃には怒りは収まってるよ」



あんみつを待ちつつ、楽しい会話は続く。



「それにしても綺麗だったな」


「ほんと!女形の役者さんみたい」


「元々が美形だからね」


「ですね。いいな、羨ましい」


「変なの。男の美しさを羨ましがるなんてさ」


「あの美しさは反則級ですもん」



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