10.彼方めぐり逢い、紡ぐ(三)
「そうまでして何で引き受けたんだよ?」
「會津には“徳川将軍家に忠誠を尽くすのが使命”という藩祖以来のご
「つまり、栄えるも滅ぶも幕府と命運を共にってことか」
「あ!会津藩祖・保科正之公は3代将軍・徳川家光公と異母兄弟だわ」
「藩祖が将軍家直系の血筋か」
「将軍の弟であるにもかかわらず、正之公は非常に謙虚で、家光将軍の信頼も厚かった。四代将軍・家綱公の後見役も務めたほどだからね」
「その藩祖の遺訓、養子とはいえ殿のお人柄であれば守り抜くでしょうねぇ」
「あのお方は義を重んじる尊いお方だ」
「局長と同じですね」
「いやいや!會津様と同じとは、とても恐れ多いよ」
「そんなことありません。お殿様は局長を信頼していると仰いました。身分は違くても、おふたりの間に絆があるからだと思います」
「ありがとう。すまん、ジーンときた…」
「近藤先生、相変わらず涙もろいな」
「忠義を尽くし、ますます京の町のために働かねば」
恥ずかしいな。
平成でも、今ここでも。
何となく毎日を過ごしてきた。
平凡なことに文句を言ってみたり。
自分の将来も曖昧なままで。
平和な時代に生まれ育ったこと。
当たり前だとばかり。
誰しも平等で身分のない世が、自分の意志で好きな道を選べることが、これほど幸せだなんて。
自分のことは棚にあげて人のせいにしたり、何か理由をつけて投げ出したり。
この人たちは決してそうはしない。
諦めたりしない。
時代のせいになどせず、自分の志と信念と正義を胸に突き進む。
自分の歩む道に責任も持ってる。
そうして真剣に生きる人たち。
それは今、国を思い、歴史を動かそうとしている人たちみんなに言えること。
「かれんさん、君の夢は何だい?」
「わたしの夢…ですか?」
ここへ来てから、考えたこともなかった。
今までの夢も目標も、現代でしか叶えられない夢だと。
諦めるしかないと思ってたから。
「ピアノと音楽、それから英語の勉強がしたいです。叶うかなんて分からないですけど…。もっともっと広い世界を見てみたいです!」
「君らしいね」
この世界にいても叶うんだろうか。
「実は…お会いして、話を聞いてみたい方もいます」
しばらく元の時代には戻れそうにはないし、せっかく幕末にいるのだから。
いつか本で読んだあの人に。
「誰だ?男か?」
「ジョン万次郎様です」
「ジョン…?」
「日本人?」
「もしや中浜万次郎殿の事では?ジョン・マン殿とも呼ばれていると聞いたことがある」
「山南さん、知ってるんですか?日本人で初めてアメリカに渡り、留学生となった方です」
「元は土佐の漁師の出だが、何でも漁に出た折り、時化で海が荒れ漂流し、米国船に救われたのだとか」
「船長さんのお世話で学校へ行き、英語や航海術、測量、造船技術などを学んだと聞きました」
「鎖国中、外国船打払令があったろう。故意でなくとも、国を出て異人と接したとなれば命の保証もない。日本に戻るまで、十年もの歳月を費やしたそうだ」
「今は?」
「幕府に招聘され、先の開国と条約締結の際にも通訳としてご活躍されたそうだ」
「難しいでしょうが、もしお会いできたら外国での話を聞きたいです」
「君に不可能はない気がするよ。不思議だが」
「そうだ、 中浜殿の著した『英米対話
と言いながら部屋を出たと思ったら、1冊の本を小脇に抱えて山南さんが戻ってきた。
「あった、あった。これだよ。君にあげるから読んでみなさい」
「ありがとうございます!」
ペラペラとページをめくる。
「わあ!これ“ABCの歌”ね!これもすでに伝わってたなんて…」
「エービーシー…?」
「日本語でいう“いろはにほへと”です。歌で覚えるんですよ」
「歌で?“いろは歌”と覚え方は同じなんだね」
「歌というのは万国共通なのかもしれないな 、もしかすると」
「どんな歌だい?」
「♪ABCDEFG,HIJK,LMNOP~,QRS,TUV,WX,Y and Z~.Now I know my ABC~,Next time won't you sing with me~?って感じで!」
「君は歌も上手だねぇ」
「へぇ~。確かに歌に乗せたら覚えやすそうだ」
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