8.義を見てせざるは(三)
驚いたのは斎藤さんが同じ年だってこと。
斎藤一。
わたしにでも名の知れた超有名剣士だ。
血気盛んな集団にいても、常に自分を見失わない。
鋭い流し目がクール。
随分落ち着いてるから年上かと。
剣の実力は沖田さんと永倉さんと並ぶほどらしい。
真剣白刃取りとかできそうな独特の雰囲気だし、後世に名前が残る人だもの。
3人ともお互いを認め合っていて、うぬぼれたり、腕をひけらかしたりしないのがまたカッコイイ。
ひとりが好きなのか、あまり声を聞いたことがない。
一匹狼ってやつ?
ピーンと背筋を伸ばして、膝に拳、正座で精神統一したりして。
黙って何を考えているのか。
ひとり出かけたときは何をしてるのか。
何ともミステリアス。
かと思えば、洗濯の腕はカリスマ級。
今のところ謎だらけの人だけど、シャイなだけだと思うんだよね。
この時代にいて、疑問が山ほどあるわたしの先生は山南敬助さん。
文筆に秀で、学才豊か。
剣の腕もたつ上に知識も豊富だ。
部屋には崩れそうなほどに積まれた書物や資料。
毎日難しそうな本を読んでいる。
冷静沈着で論理的。
頭脳派もいなくちゃね。
知らないこと、気になることはすぐに調べなきゃ気が済まない性分。
仕事の合間を縫い、夜を徹して解決への道を進む。
温和で誰にも親切だから、仲間だけでなく壬生村の人からも好かれてる。
沖田さんや平助さんやわたしのことを本当の弟や妹のように可愛がってくれるの。
「奇想天外な子だ」とか「好奇心が歩いている」とかよく笑われるけど、現代人のわたしにとっては未知の世界。
…まぁ、幕末の人から見ればそうなのかも。
日本だけど、知らない日本。
ここでの当たり前を平然と質問したりして、とても驚かれる。
たぶん女だから、多めに見てくれてるのよね。
あ、だから左之助兄ちゃんとウマが合うのかな?!
性格も感覚も昔の人って感じじゃないし。
直感型タイプだし。
喜怒哀楽ハッキリしてるし。
局長の近藤勇さんは、例の写真のいかついイメージとは違って人当たりがいい。
新選組の局長を務めるなんて、よほど怖い人なのかな?と勝手に思っていたけど、驚くほど優しい。
わたしとも気さくに接してくれる。
何たって、どっからか転がり込んできたわたしをここに置いてくれてるんだもん。
それほど情に厚くて面倒見がいい。
心から感謝しています。
武士道や義の心をとてもとても大事にしていて、実は涙もろい。
心を打たれる話を聞けば涙腺が緩んで、ほろり。
それが知っている人の話でも、知らない人の話であってもだ。
人の好さとそんな涙もろいところに母性をくすぐられるからか、意外と女性にモテる。
意外と、っていうのは失言でした…。
もうひとつ意外だったのは、甘いものが好きだってこと!
お気に入りの大福があるらしい。
義理堅い局長は、一度恩を受けた人のことを決して忘れずにいて、その恩には必ず報いるんだって。
みんなが惚れこんでついていくのも納得。
特に土方さんとは無二の親友だ。
土方さんは局長のために生きてるとさえ思う。
局長みたいな人、探してもなかなかいないんじゃないかなぁ。
他の流派の道場では木刀や竹刀だけでお稽古するらしいのだけれど、天然理心流では日頃から刃を潰した真剣も使っている。
武道に詳しくないけど、これには驚いた。
普段のお稽古に使う木刀だって、こんなに太いものを使っているのかとビックリしたのに、本物の剣で練習するとは。
真剣でお稽古したことのない人が、いきなり実戦で真剣を使っても使いこなせない。
木刀や竹刀に比べて重い真剣に慣れているのと慣れていないのでは、実戦で大きな差が出るから、らしい。
真剣に慣れ、特性をよく知り、稽古する。
時には少ない人数で、多くの敵に立ち向かわなければならないし、構造上狭い京の町で戦うには必要なことなんだって。
実戦主義なのね。
お稽古を見ていると、そこらの武士より相当強いんじゃないかと思えてくる。
あ、そういえば。
ここへ初めて来た日、襲われたわたしを助けてくれた土方さんも、5対1で勝ってたっけ。
新選組の剣は会津のお殿様・松平容保にも認められ、頼もしいと言わしめた。
スマートで洗練されてる、とは言えないけど。
男気があって、芯が強く、誠の志を持つ人たち。
局長の“義を守り、貫く”という断固たる精神は仲間にも浸透してる。
“幕府の犬”なんて言われるけど、絶対そうじゃない。
ひとりひとりが志を持っているんだもの。
神様もちゃんと考えてここにタイムスリップさせたの?
今となってはせめてそうであってほしい。
じゃなきゃ、わたしの人生報われない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます