3.月あかりは今宵しも(一)

これは…神様の気まぐれですか?


それとも運命だとでも言うのですか?


さもなくば、神様が与えた試練なのでしょうか?





サーっと血の気が引いてく、この感じ。


信じらんない…


こんなこと誰が信じられる?



「おっと」



力が抜けたところを支えてくれた。



「顔色が戻らないね。悪化したんじゃないか?」


「…すみません」



頭が働かない。


何から考えよう。


まず整理してみる?


って、認められないから!


タイムスリップしたなんて!



「君の名は?」


「秋月かれん…です」


「“可憐な花”などという、あの?」


「はい…平仮名で」


「それはめずらしい」



そりゃ、斬り合いも迫力あるワケだよ…


演技じゃなくて本物中の本物だもん。



謎すぎて、半信半疑…


認めたくないのに、認めざるを得ない状況。


状況証拠は揃ってる…



「先ほど壬生浪士組と仰いましたが…」


「申し遅れてすまないね。壬生浪士組副長助勤、山南やまなみ敬助と申します」



それって新選組の前身の名前?


歴史は詳しくないけど、察しはいいほうだと思う。



だって、あの羽織は新選組だという証明のようなもの。


てことはやっぱりさっきの人は…


土方歳三ひじかたとしぞう?!


嫌だ!やめてよね!



着物だから怪しまれずに済んだ。


幸い髪も染めてないし。


仮に洋服だったら、髪が茶色かったら…どう見られてたか。


せめてもの救いね。



それより、なぜこんな展開になったのかと頭を抱えて困惑しまくっていると、用事を済ませた土方歳三らしき人が戻ってきた。



「山南さん、すまんな」


「彼女と話をしていたよ」


「落ち着いたか?」


「こちら秋月かれんさん」


「かれん?変わってるな」


「君は京の生まれではないね。どちらの藩の出だい?」



“藩”って何て古めかしい。


都道府県は通じないのね。



とりあえず!


この人たちが新選組だとしたら、少しは話していいかもしれない。


不審に思われない程度に。



「会津若松…会津藩?の出身です」


「「會津!」」



ふたり声を揃える。



「なぜ都に?身形といい武家の姫君でございますか?もしくは商家のお嬢様でございますか?」


「秋月…會津藩公用方こうようがたの秋月悌次郎ていじろう様のご息女かご親戚か?」



誰…?


どちらの秋月様?!



「ああ、會津候の側近で、會津藩きっての秀才と名高い」


「それは…」


「もしそうであれば、秋月様も奥様もさぞや心配なさっているのでは?」



決定的…


な証拠はないけど、ここ、絶対平成じゃない…



黒谷くろだにの會津藩本陣で身元を確認してみるか?」


「えっ…?!」


「君にとってもそのほうが良いのでは?国元の方々のところであれば安心じゃないか?」



よくなーい!


わたしのこと知ってる人なんているわけないじゃん!


我が秋月家のご先祖様が何者かも分かんないし…


運良く武家の家柄で京都に来ていたとしても…それはそれで不都合があるんだから。


うちの子でも親戚の子でもないとなれば、戸籍でも調べ上げられて不審者扱いされたりして。


牢獄行き?!


そんなことになったら、どうしてくれんのよっ!



「げ…しまった、泣きやがった」


「あわわわ…泣かないでっ。ひとまず落ち着こうではないか…!弱ったな…」



言葉を選び慎重に答えていたけれど、感情が高ぶり、耐えきれず涙がボロボロ流れた。



「涙がっ…勝手に…出てくる…」


「はぁ…。ほら、涙を拭いてあげよう。息を吸って、吐いて。深呼吸だ」



さすがは侍紳士…


ジェントルマンだわ。



「大丈夫だから。泣かないで。教えてくれないか?何か事情がありそうだね。行くあては?」



山南…さんの問いに、首を大きく左右に振る。



常識で考えられない状況にショックを受けてる場合じゃない。


行くあてもない、どうすれば家に帰れるかも分かんない。


やむを得ず判断した結果、こう切り出した。



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