第5話

9。『俺は本気を……ダシタクナイ!』




゛…私、幽霊なんです!゛



顎を引き、両の拳をその顎に添え…相手を上目遣いに視認する…だと?!


…あ、あれは伝説のピーカブースタイル!?。



いや、もしかして 超古代に失われた秘法……゛ブリ。゛というヤツ…なのか?




えーと。


……幽霊?……何この人、突然。


…全く…何、言ってるん…。



「!?」


透け…透けるんですけど?!…透けてるんですけど、この人!?



それに……近い! 近い近い近い近い近い!!


貞○さんバリに、向かいのドアから這い出て…近付いて来るんですけど!



恐い、恐過ぎ⁉



゛あ……す、すみません!…私、余り目が良くないもので。…つい…゛



………へ?


まあ…確かに、昔懐かし瓶底眼鏡を掛けていらっしゃるが…。



………あの、幽霊ってさ。


視力下がったまま為るもんなの? 一般的に。



ちなみに俺は、視力下がってないみたいだ…。


見え方に違和感は、ないな…うん。



…………まあ幽霊を自称する、多少イタめの女マジシャンが見えるようにはなったが…問題ない。


そう、全く問題ないな。



゛へ?! いや、問題あります! 大ありですよ!…確かに私、女魔術師ソーサレスではありますが…゛



何か違うの?


゛あなたが仰ってるのは奇術師きじゅつしさんの事でしょう? 私は魔術…゛


あああああうあいあああああああああ!


゛な、何ですか…突然?!゛



聞きたくない聞きたくない聞きたくなああぁい!



゛は、話が進まないじゃないですか!゛


いや!進めないでいいから! もう少し…もう少しだけ 希望を下さい!


もう少しの間で良いから、異世界転生モノの可能性から逃避させて下さい!


お願いします!!



゛…まあ困るのはあなたですから…そこまで仰られるなら、もう言いませんけど…゛



ありがとう!



それで、君…。


゛あ、申し遅れました。私は…スターマと申します゛



あ…これはご丁寧に。



まあ…そつない挨拶の仕方。


いい所のお嬢様という存在『だった』…のかな?


えと、それで…スターマさんは何でここに?



゛あ、はい。それが…この宿の上空を散歩してたら…゛



へぇー。……最近のマジシャンは空も飛べるんだー?


フーん。



゛…………あの?゛



…ん、ナニ?


゛…こういう自己欺瞞的な自虐行為って、見てるこちらが…居たたまれないのですが…゛


そうかイ。

だが俺ハ、大丈夫ダ。


マダ俺は、本気だしテないし。


出シたくなイし。



゛ほら!やっぱり何か言動がおかしいですよ…もう、止めて! 何かもう一切合切認めて楽になって…゛



お、俺は…本キ、ヲ出さナイ。

ダサナイ、ダサナイダサナイダシタクナイ。









10。『主人公は、〈三田〉の名称を今更…獲得する』





…………………………………………。




…………認めます。




……はいはい、認める事にしますよ。



………ええ、そうしますとも。



…え、何です?…………は?…三田みた


…………そ、そうなの?


……なら、それで行くけど…。






「………………………………………」



…ユッサ…ユッサ。



…ぅ?…ぐ………。


…はあぁああ、また逆さまですか。


そうですか。



ええ、何かもうね…慣れたね。


えーと、状況整理からでいいですかね…?




…………………………………………………。



まあ、思い出せるのは…。


…いきなり、言語野か何かをヤられて…。



…幽霊?…あ、スターマか…の前で意識を失ったのか、な?



………何か、夢を見た…気が。………ん?



…んん!……夢を、見た?


……ミタ?…………三田?……そう、三田!



三田だ!


俺の名前は三田だ!!


ひゃっはおぉ~!

うっし。テンション上がって来たぁ~~!!



名前、ゲットだぜ!




すると…。


…ギュン!



…?!意識が……いや。 景色が加速して見えて…。



ググググ……


身体に、四分五裂しそうなほど縄が食い込んで、来て?



ズドスッ!!


腹部に壊滅的打撃音…と。



「………うるさい」

と一喝したローテ嬢は、更に…。


「………名前」



………はい?



「…名前、思い出したの…?」と、聞いて来た。


おう!オイラ、三田ってんだ!

よろしくな、怪力!



ドボスン!!


天地が、揺れ…そして、踏まれた…。


…いや、踏み抜くような勢いで顔面を震脚しんきゃくされた…。


…この女、中国武術の使い手か?!



戦士じゃなくて、カンフーマスターなの? ローテって…。



とにかく…。


相変わらず『希望』はないが、名前を…自らを規定する『記号』を獲得したのが嬉しすぎて、テンション戻すのを忘れてたな。


いや、失敗失敗。



「………ミタ、ねえ…」

怪訝けげんそうにつぶやくローテ嬢。



だが…すぐに彼女は 俺=ヌイグルミット=三田を担ぎ直す。


遺憾ながらも…。

すでに定位置となりつつあるローテ嬢の尻…じゃなく、後背に回されて気付いたのだが…。


彼女は俺とは別に、もう一つ…外套マントの下に物を襷掛タスキがけで背負っていた。



……ギター?ウクレレ…じゃあないな。


…琴、でもない……………琵琶、か?近いのは…。


…………い……………………異世界なら…リュート、とか言ったかな?

…………………吟遊詩人バードが持ってるアレ、だよな…。


なんで、物理戦闘者が持ってるんだ…。



ギラリ…。



ローテは肩越しに獰猛な眼光を向けて来た…。


そして俺は、黙る。…黙らされる。



「……大体、いつ戦士だって言ったのよ」

憤慨されているご様子のローテ嬢。



確かに、仰られてないかと…。



「……なら、あ…アタシが、バードでもいいじゃない」

何故か赤面のローテ嬢。


……お、仰るとおり!

仰るとおりでござんすヨ、姐さん!



「………フン」



…やはり、バードなのか?!


だが…ここは突っ込みを入れるべき所ではないだろう。

これ以上、ブッ飛ばされてたら命に関わるし、話が進まない。


とにかく、色んな意味で分水嶺な感じがする!



だから俺、頑張れ!

頑張ってローテ嬢のフォロワーになれ!


ご機嫌を損なわせるな!



そうして何とか、ご機嫌取りに成功したのか。


俺を再度、担ぎ直すローテ嬢。



……しかし、本当に嫌そうな顔してるなローテ嬢は。

いっそ清々しいよ、ええ。


はいはい。

これが俺の異世界生活の予定調和。


いわゆる俺用の『お約束』というものなんですよね?


分かった分かった…。


これが、この世界の流儀で俺の立ち位置。


独り言が うるさいから、腹に遠心力を利かせた膝蹴り一閃。

…てのも、軽いジャブ程度の挨拶なんですよね?


…OKブラザー。いやシスターか?

とにかく承知したよ。




゛そ、そんなに卑屈にならなくても…また、ぶり返しますよ?゛



やあスターマ、元気か?相変わらず幽霊か?



俺は、後から宙に浮きながら付いてくる女魔術師の幽霊に挨拶した。


゛まあ元気ですけどね…幽霊ですけど…゛



そうか、それは何よりだ。



゛それはそうと……ふふ。゛


ん、何だ?


゛お二人は、仲がよろしいのですね?゛



……………………………はあ?


何言ってるんですかね、この幽霊女は!


見てなかったんですかね、あの!あの惨状を!


もう視力が悪いんじゃなくて、臨終と同時に目が腐ったんじゃないですかねスターマさん。



゛…うううう。そこまで言わなくても…゛



と、突然…ローテがまた、肩越しに話し掛けて来る。


「…あのさ。さっきから誰と…いえ、『何と』話してるの?アンタ…」



…………へ?

いや姐さん、ここに居る…スターマさんって女性が…。


「何処にいるのよ…女性なんて」



…!?

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る