Level 26

「花嫁と同じ色のドレスを着ていいのですか」

     level 26


「う~ん。なかなかいいんだけど、この前髪もう少し形整えて、固めてもらえない?」


真っ白なウェディングドレスを纏って、姫椅子に座る優花さんは、目の前の大きな鏡を覗き込みながら、注文をつける。


「了解で~す(*`・ωW)b

それにしても優花さんの髪って、キューティクルつやつやで、とっても綺麗ですぅ°˖✧◝(・∀・)◜✧˖

今日のハレの日に合わせて、コンディション高めてきてくれたのがよくわかって、桃李もやる気満々でイケイケドンドンでっす(((o≧▽≦)o」


櫛の柄で器用に毛先を整えながら、桃李さんは嬉しさを隠せずに微笑んでいる。

わたしも桃李さんも、今日はお揃いのドレスを着ていた。

背中がレースアップになった、ビスチェタイプのミニドレス。

色はオフホワイト。

今日は花嫁ヒロインしか着れない色のはずだけど、『ブライズメイド』のわたしたちだけは、特別に花嫁と同じ色のドレスを着れるのだ。




「ブライズメイド? なんですか? それは」


センター試験が終わって、ほっと一息ついた日の夜。

携帯に電話をかけてきた優花さんは、『試験お疲れさま』と言い終わらないうちに、いきなり、『ブライズメイドをやってくれ』と頼んできた。


「ま、平たく言っちゃえば、『花嫁の世話人』ってとこね。ドレス選びとか衣装の着付けとか、当日の身の回りの世話なんかをやってくれて、雰囲気を盛り上げる係」

「そんなこと、わたしにできるかどうか、、、」

「できるわよぉ。ブライズメイドを従えた結婚式ってのは、わたしの夢だったのよ。

ブライズメイドってのは、独身の友達とか身内とかにお願いするのがお約束だから、真っ先に凛子ちゃんのこと思いついたわけ。

ね。お願い?

衣装は全部こっちで用意するし、身の回りの世話といっても、そんなにたいしたことするわけじゃないから。ただ、わたしにつき添っててくれればいいだけだから」

「そうなんですか?」

「ほら。凛子ちゃんとは去年、ヨシキさんの件で気まずくなったじゃない。これから身内としてつきあっていくんだから、ちゃんと仲直りもしときたいわけよ」

「確かに、わたしもそれは思いますけど、、 ほんとにそんな理由ですか?」

「えへ。実は、映画でブライズメイドを扱ったものがあってね。それがすっごく可愛くておしゃれで、ぜひわたしもやりたいって思ったのよ。

だいいち凛子ちゃんみたいな、モデルやってるような超絶美少女を隣にはべらしとくなんて、女として快感じゃない!」

「はあ、、 そっちの理由の方が、納得できます」


そういうことで、わたしは優花さんのブライズメイドを引き受けた。

確かにヨシキさんの一件でもめて以来、優花さんとはどこかよそよそしいところがあったから、わたしもこの機会にすっきりさせたかったし。


 引き受けたからには、いい加減なことはしたくない。

ネットを検索したり、ウエディング情報誌を買ったりして、わたしはブライズメイドというのがどんなものなのか、予習しておいた。


『ブライズメイド』


そもそも中世のヨーロッパで、幸せを妬む悪魔から花嫁を守る目くらまし役として、未婚の姉妹や友人たちが、花嫁と同じようなドレスを着て、悪魔を攪乱かくらんさせたことが起源らしい。

今では、優花さんが言ったように、花嫁のドレス選びや結婚式の準備、式の準備に追われる花嫁の精神的なサポートをする役割を担っている。

挙式前にはブライダルシャワーという、花嫁とブライズメイドたちだけで、花嫁を祝福する女子会のようなものをやったり、挙式当日はドレスの着付けや、花嫁が動きやすいようにベールやドレスのトレーンを整えたりと、花嫁の近くにいて介添アテンドをするのだ。


ブライズメイドと同じように、花婿のアテンドをするのが、『グルームズマン』。

こちらはタキシード姿で、ブライズメイドと人数を合わせる。

一般的に、ブライズメイドやグルームズマンは、2人から5人程度選ばれるけど、人数が多い程ステイタスが高いらしい。

なにより、可愛いドレスを纏ったブライズメイドや、かっこいいタキシード姿のグルームズマンたちが、新郎新婦を囲んでるってシチュエーションが、おしゃれで素敵。

映画の影響もあって、最近日本でも知られはじめているらしいけど、流行はやりモノにめざとい優花さんが好みそうな演出だ。


つづく

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る