「最悪のタイミングで最悪の選択をしますね」

「ごっ、ごめんなさいっ!!!

わ、わたし。てっきり、知ってるものだと思ってました(((o(*゚▽゚*)o)))

わたしでさえ教えてもらってたくらいだから、ヨシキさんの究極にして至高、最愛のカノジョさんの美月姫なら、当然聞いてると、、、」

「、、、、、」


それは桃李さんにとって、なに気ないひとことだったろうけど、わたしには痛恨の一撃だった。


当たり前のように桃李さんが知ってるヨシキさんの過去を、わたしはなんにも知らない。

いや。

なんにも教えてもらえなかった。

はじめてヨシキさんの部屋で朝を迎えたときも、わたしはヤツに訊いたのに。


『ヨシキさんのこと、もっとたくさん知りたいです』

『オレのことか… あまり教えたくないかもな』

『え? どうしてですか?』

『知れば知るほど、凛子ちゃんに嫌われそうだから』

『そんなことないです。絶対』

『絶対、か…』


わたしの言葉をうつろに繰り返し、窓の外の景色に目をやったヨシキさんの瞳は、心なしかかげっていた。


『ヨシキさんはどうして、『恋人を作らない主義』なんですか?』


そう訊いたときも、『人の気持ちが信じられないから』とヨシキさんは答え、挙げ句の果てには、

『恋人なんてはかない。別れてしまえばただの夢。みんな消えてなくなる』

なんて、無情なことを言われる始末。

そのあとも、ヨシキさんはわたしの前で、自分の生い立ちに触れたことは、一度もなかった。


わたしって、自分の過去さえ打ち明けられない程度の、『カノジョ』なの?

そんなんで『究極にして至高』って言えるの?!

結局ヨシキさんにとって、わたしは表面的なつきあいだけ。

写真を撮ってエッチして、、、

アクセサリーのように、連れて回るだけ。

自分の弱い面や情けない面を、ヨシキさんは決してわたしに見せることがない。

からだはひとつになっても、わたしたちの心は、繋がってなんかなかった。


なのに、、、


なのに桃李さんは、わたしの知らないヨシキさんを、たくさん知ってる。

桃李さんには、ヨシキさんは心を許してる。

桃李さんといることが、ヨシキさんにとっての心の癒し。

寂しいときや辛いとき、心が弱ってるとき、そばにいてほしいと、ヨシキさんはそう思って、桃李さんに連絡して、桃李さんの癒し力と、ついでにからだを求めてるんだろう。

『コンビニエンスな肉便器』だなんて、桃李さんは自分を卑下してるけど、なんて大きな存在感…


『美月姫~』と慕ってくれる桃李さんのことを、いつかわたしは、心のどこかでバカにするようになっていた。

わたしより容姿が劣る彼女のことを、見下し哀れみ、つまらない存在だと、軽く扱うようになっていた。

ヨシキさんの取り巻きがファミレスに集まったときも、ヒエラルキーの最下位の席に座ってる桃李さんのことなんて、問題にもしてなかった。

なのに、その優越感も、今のひとことで、一気に打ち砕かれてしまった。


『わたし、てっきり、知ってるものだと思ってました』


そのたったひと言が、まるでオセロの駒を白から黒に全部ひっくり返すように、わたしと桃李さんの立場を逆転させてしまったのだ。


完全に、わたしの、負け、、、、、


「それで、、、 桃李さんはわたしにどうしてほしいわけですか?」


こんな惨めな気持ちを、よりによって彼女に気取けどられたくない。

さもイラついたような口調で、わたしは言い放った。

桃李さんの顔は、とたんに狼狽うろたえていく。


「どうして。。。 どうしてって、、、」

「わたしにそんな告白して、桃李さんは自分を軽くしたいだけじゃないんですか?」

「そういうわけじゃ…」

「大きな荷物を降ろせて、桃李さんは『やれやれ』ってところでしょうけど、代わりに背負わされたわたしは、どうすればいいんですか?」

「…」

「わたし、来週はセンター試験なんです。こんな気持ちで試験が上手くいくと思いますか?!」

「あ…((◎д◎ ))ゝ」


どんなに桃李さんを責めてみたって、わたしの負けはもう確定してる。

なんとか見返してやりたいと足掻いてみても、負け犬の遠吠えにしかならないのは、わかってる。

なのに、そんな悪態をついてしまう自分が、余計に惨め。


「ごめんなさい。ごめんなさい ・°・(ノД`)・°・。ゥエエェェン

美月姫になにかしてほしいなんてこと、まったく思ってないです。今、わたしが言ったことが、美月姫の負担になるなんて、わたし、考えてもいませんでした;;

ほんとうに申し訳ありませんっ;;;;; 

気づきませんでした。美月姫には来週、とっても大切な天下分け目の受験たたかいがあるんでした;;;

それなのに、最悪のタイミングで最悪の選択をする、桃李はどうしようもない不幸を呼ぶ女でした!!!!

こんなわたしなんて、消えてなくなればいいんですっ!!!!!!!」


わたしの厳しい言葉に、桃李さんは肩を震わせて泣いた。

さすがにその光景を見ていると、これ以上責めることもできない。


「でも、ひとつだけ言わせて下さい。わたし、心配なんです;;」


つづく

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