「最悪のタイミングで最悪の選択をしますね」
「ごっ、ごめんなさいっ!!!
わ、わたし。てっきり、知ってるものだと思ってました(((o(*゚▽゚*)o)))
わたしでさえ教えてもらってたくらいだから、ヨシキさんの究極にして至高、最愛のカノジョさんの美月姫なら、当然聞いてると、、、」
「、、、、、」
それは桃李さんにとって、なに気ないひとことだったろうけど、わたしには痛恨の一撃だった。
当たり前のように桃李さんが知ってるヨシキさんの過去を、わたしはなんにも知らない。
いや。
なんにも教えてもらえなかった。
はじめてヨシキさんの部屋で朝を迎えたときも、わたしはヤツに訊いたのに。
『ヨシキさんのこと、もっとたくさん知りたいです』
『オレのことか… あまり教えたくないかもな』
『え? どうしてですか?』
『知れば知るほど、凛子ちゃんに嫌われそうだから』
『そんなことないです。絶対』
『絶対、か…』
わたしの言葉を
『ヨシキさんはどうして、『恋人を作らない主義』なんですか?』
そう訊いたときも、『人の気持ちが信じられないから』とヨシキさんは答え、挙げ句の果てには、
『恋人なんて
なんて、無情なことを言われる始末。
そのあとも、ヨシキさんはわたしの前で、自分の生い立ちに触れたことは、一度もなかった。
わたしって、自分の過去さえ打ち明けられない程度の、『カノジョ』なの?
そんなんで『究極にして至高』って言えるの?!
結局ヨシキさんにとって、わたしは表面的なつきあいだけ。
写真を撮ってエッチして、、、
アクセサリーのように、連れて回るだけ。
自分の弱い面や情けない面を、ヨシキさんは決してわたしに見せることがない。
からだはひとつになっても、わたしたちの心は、繋がってなんかなかった。
なのに、、、
なのに桃李さんは、わたしの知らないヨシキさんを、たくさん知ってる。
桃李さんには、ヨシキさんは心を許してる。
桃李さんといることが、ヨシキさんにとっての心の癒し。
寂しいときや辛いとき、心が弱ってるとき、そばにいてほしいと、ヨシキさんはそう思って、桃李さんに連絡して、桃李さんの癒し力と、ついでにからだを求めてるんだろう。
『コンビニエンスな肉便器』だなんて、桃李さんは自分を卑下してるけど、なんて大きな存在感…
『美月姫~』と慕ってくれる桃李さんのことを、いつかわたしは、心のどこかでバカにするようになっていた。
わたしより容姿が劣る彼女のことを、見下し哀れみ、つまらない存在だと、軽く扱うようになっていた。
ヨシキさんの取り巻きがファミレスに集まったときも、ヒエラルキーの最下位の席に座ってる桃李さんのことなんて、問題にもしてなかった。
なのに、その優越感も、今のひとことで、一気に打ち砕かれてしまった。
『わたし、てっきり、知ってるものだと思ってました』
そのたったひと言が、まるでオセロの駒を白から黒に全部ひっくり返すように、わたしと桃李さんの立場を逆転させてしまったのだ。
完全に、わたしの、負け、、、、、
「それで、、、 桃李さんはわたしにどうしてほしいわけですか?」
こんな惨めな気持ちを、よりによって彼女に
さもイラついたような口調で、わたしは言い放った。
桃李さんの顔は、とたんに
「どうして。。。 どうしてって、、、」
「わたしにそんな告白して、桃李さんは自分を軽くしたいだけじゃないんですか?」
「そういうわけじゃ…」
「大きな荷物を降ろせて、桃李さんは『やれやれ』ってところでしょうけど、代わりに背負わされたわたしは、どうすればいいんですか?」
「…」
「わたし、来週はセンター試験なんです。こんな気持ちで試験が上手くいくと思いますか?!」
「あ…((◎д◎ ))ゝ」
どんなに桃李さんを責めてみたって、わたしの負けはもう確定してる。
なんとか見返してやりたいと足掻いてみても、負け犬の遠吠えにしかならないのは、わかってる。
なのに、そんな悪態をついてしまう自分が、余計に惨め。
「ごめんなさい。ごめんなさい ・°・(ノД`)・°・。ゥエエェェン
美月姫になにかしてほしいなんてこと、まったく思ってないです。今、わたしが言ったことが、美月姫の負担になるなんて、わたし、考えてもいませんでした;;
ほんとうに申し訳ありませんっ;;;;;
気づきませんでした。美月姫には来週、とっても大切な天下分け目の
それなのに、最悪のタイミングで最悪の選択をする、桃李はどうしようもない不幸を呼ぶ女でした!!!!
こんなわたしなんて、消えてなくなればいいんですっ!!!!!!!」
わたしの厳しい言葉に、桃李さんは肩を震わせて泣いた。
さすがにその光景を見ていると、これ以上責めることもできない。
「でも、ひとつだけ言わせて下さい。わたし、心配なんです;;」
つづく
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