「日に日に大きくなっていく時限爆弾かも」

 はじめてのモデルの仕事は、成功した。

額に汗を滲ませながら、気迫たっぷりになぎなたを振ってるドラッグ撲滅啓蒙のCMやポスターは、代理店の方にもクライアントさんにもとても評判がよく、視聴者にも好評だということだった。

さっそく、続編を作ろうという話や、全国キャンペーンに拡大して、わたしになぎなたの演武をやってもらおうという話まで持ち上がってきた。

それ以外にも、CMを見た別の会社からの問い合わせやオファーもいろいろ舞い込んできて、わたしのまわりは一気に活気づいてきた。

もちろん、それは嬉しいことだし、光栄なこと。

だけどわたしには、ずっと心に引っかかってることがあった。


わたしは、親を騙してる。


最初は小さな言い訳だった。

みっこさんからモデルレッスンを受けるとき、『課外授業で遅くなるから』と、嘘をついたのがはじまり。

そのあとも、一度ついた嘘の整合性をとるために、嘘を重ね、モデル事務所に所属するという話も、それまでに積み重ねてきた嘘がバレないようにするために、やはり、親を欺いてしまったのだ。


みっこさんからは、あらかじめ念を押されていた。

事務所に所属するためには、肖像権や著作権についての契約書、まだ未成年だということで、親の同意書などの書類を、提出しなきゃいけないということを。

だけどわたしは、親にはいっさい、モデルの話をしなかった。


『これからは、わたしには嘘をつかないでちょうだい。これ以上わたしを悲しませないで』


いつか母からはそう釘をさされたものの、正直に話したところで、どうせ反対されるに決まってる。

モデルなんて不安定な仕事、許してもらえるはずがない。

華やかだけど浮き沈みが激しく、弱肉強食のイメージの強いモデルの世界なんて、教師みたいなお固い仕事をしてるわたしの両親に、理解してもらえるわけがない。

それなら、説得に無駄なエネルギーと時間を費やすより、内緒にしてた方がいい。

どうせうちの親は、年中仕事と研究に明け暮れてて、ほとんど子どもに構わないし、テレビだってろくに見ないくらいの世間知らずなんだから、バレっこない。

モデルの話は実績作ったあと、なし崩し的に認めてもらえばいい。


そう思って、わたしは親のタンスからこっそり印鑑を持ち出し、サインは親の筆跡を真似て自分で書いて、諸々の書類を事務所に提出したのだ。



…今になって、それが心に重くのしかかってくる。

テレビでCMを目にするたび、仕事の話がやってくるたびに、その重しがずしんと心を塞いでくる。


長期戦で、少しづつ認めてもらう作戦が、こんなにいきなりメディアに露出するようになるなんて。

こんなことなら、最初から正直に話しておけばよかった。

そうすれば、こんなにモヤモヤしたうつな気持ちを溜め込まずにすんだのに…


後悔してももう遅い。

わたしがモデルをしていることが、親にバレたら、きっとひどく叱られるだろう。

みっこさんや事務所の方々にも、迷惑をかけ、場合によってはやめさせられるかもしれない。


、、、絶対に言えない。

だけど、秘密にしてても、いずれバレるに決まってる。

それなら少しでも早い段階で、打ち明けた方がいい。

だけどやっぱり、話すのは怖い。


そうやってズルズルと日一日、告白するのが延びていくと、その分、わたしのプレッシャーも、親の怒りも溜まっていく。

まるで、日に日に大きくなっていく、時限爆弾。

そしてそれは、最悪のタイミングで爆発するのだった。


つづく

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