「つまらない恋しかしてなかったんですか」

「美咲さんが言ってました。ヨシキさんにとって、恋はゲームなんでしょ?!

でもわたしにとってはゲームじゃないし、わたしはオマケなんかじゃない!」

「…わかったよ。オレには凛子ちゃんしかいない」

「わかったって… なにそれ? とってつけたように言わないで」

「ほんとだよ。信じてくれ」

「いきなりそんなこと言われて、信じられると思います?」

「『人が言う』って書いて『信じる』っていうんだよ。凛子ちゃんがまだおれのこと好きなら、オレの言葉を信じてほしい」

「じゃあ、証拠を見せて」

「証拠、、、」

「そう。証拠。それを見せてくれたら、信じますから」

「…凛子ちゃんの気持ちはどうなんだ? 凛子ちゃんはオレのこと、まだ愛してくれてるのか?」

「…わかんなくなりました」

「ってことは、、、 嫌いってわけじゃないんだな」

「それは…」

「いいよ、今はそれで。嫌わたわけじゃないなら」


安堵するように言うと、ヨシキさんは改めてわたしをじっと見つめ、しみじみと言った。


「はじめてだよ。凛子ちゃんみたいな子は」

「え?」

「ぶっちゃけ、確かにオレもいろんな女の子とつきあったさ。でも、凛子ちゃんみたいな子には、今まで出会ったことがなかった」

「…」

「こう言っちゃなんだけど、今までのカノジョはみんな、自分勝手にできた」

「自分勝手?」

「相手を自分のペースに巻き込んで、思いどおりにできたんだ。今までは」

「自惚れないで!」


なんて自信家!

なんて傲慢!

あまりの言葉に、わたしはその場を立ち去ろうとした。

だがヨシキさんはわたしの前に立ちふさがり、切羽詰まったように見つめている。


「最後まで聞いてくれ。頼むから!」

「…」


その言葉に歩を止め、わたしはヨシキさんを見上げる。ほっとした表情が、仄かな月明かりのなかに浮かんだ。


「だけど、凛子ちゃんにはそうできなかった。オレの思いどおりにできない。正直、すごい女だと思うよ、凛子ちゃんは」

「それって、ほんとに褒めてますか? 単に、わたしがワガママだって、言いたいだけじゃないですか?」

「違う。オレは生まれてはじめて、対等フィフティ・フィフティな恋愛ができると感じたんだ。凛子ちゃんとなら」

「フィフティ・フィフティな恋愛?」

「どちらが主導権を握るわけでもなく、連星のように、お互いが相手を惹きつけ、影響を与えることのできる、理想的な関係」

「理想的?」

「ああ…」


そう言いながらやさしく微笑み、ヨシキさんはわたしに一歩近づいた。


「オレは今まで、恋愛に対してどこか醒めた所があって、どんなに惚れられても、相手のことをそこまで好きだとは思い込めなかった。

自分が相手を想うのと同じくらい、相手も自分のことを想ってくれるなんて、奇跡みたいなもんだろ。

オレにはそんな『奇跡』なんて、一生起こらないと思ってた」

「…」

「『相手を思いどおりにできる』ってことは、相手の気持ちより軽いってことだろ?」

「相手の気持ちより、軽い?」

「恋は惚れたもん負けだ。

より惚れてる方が、相手の言いなりになってしまう。オレが今までつきあってきた子はみんな、オレの言うなりで、振り回されるだけでしかなかった。

でも、それってつまんないもんだよ。オレは今まで、そんなつまらない恋しかできなかった」

「…」

「でも、凛子ちゃんは違った。

オレが求めるのと同じくらい、凛子ちゃんはオレを求めてくれたし、自分でも信じられないくらい、オレは凛子ちゃんに夢中になった。

そこまで思い込めた相手は、凛子ちゃんが生まれてはじめてだ。

凛子ちゃんに巡り会えたのは、奇跡だよ。

こんな恋はもう、二度とできない。

空前絶後の恋だ。

凛子ちゃんとつきあえて、オレ、今まで知らなかった世界を見ることができた。生まれ変わったみたいだ。これも凛子ちゃんのおかげだよ!」

「…」

「もっとワガママ言ってくれ。もっとオレを振り回してくれ。どんな凛子ちゃんでも、オレはすべてを受け入れるから。凛子ちゃんなら無条件に、オレは愛することができるんだ」

「…」


ヨシキさんの口から溢れ出てくる言葉は、無理やり冷まそうとしていたわたしの情熱に、少しずつ、火を灯していく様だった。


心が熱い。

からだが火照る。


気がつけばヨシキさんは、わたしのすぐ隣に寄り添っていて、やさしく肩を抱き寄せていた。

久し振りに感じるぬくもり。

からだが火照る。

ヨシキさんはわたしの顎に、恐る恐る手を添えた。

甘美な過去の記憶が一瞬で甦り、条件反射のようにわたしはを閉じる。

様子を見るように、軽く唇を触れたあと、想いのすべてを込めて、ヨシキさんは情熱的にわたしの唇を貪った。

からだが甘く痺れて、力が抜けていく。

なにもかもが、懐かしい感触…


つづく

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