「わたしは恋愛ゲームのオマケですか?!」

「おっ。今日は『散華転生』じゃん。新コスだな」


とその時、聞き慣れたチャラい声が背中で響いた。

振り向くと、ヨシキさんがカメラを抱えて立っている!


たった一週間しか離れていなかったのに、もう何年も会わなかったみたい。

あんなに会いたかった、、、

ううん。

見たくもなかった顔。

あんな別れ方をしたってのに、どうしてこの人、まるで何ごともなかったかのように、平然と話しかけてくることができるの?


「久し振りだな美月ちゃん。元気だった? 写真撮ってもいい?」


まるで屈託のない笑顔で、ヨシキさんはわたしを見つめ、真っ白な歯を光らせた。


さっ、、、

爽やか過ぎる!


この一週間を、わたしは鬱々うつうつと過ごしていたというのに、この人、どうしてこんなに清々すがすがしく笑えるの?

ヨシキさんにとってわたしの存在って、そんなに軽いものだったの?

それともなにも考えてないの?

バカなの?


“バシッ”


気がついたら、わたしの右手は思いっきり、ヨシキさんの頬をはたいていた。


「…ぃ、って~、、、」

「全然元気じゃありません。撮影なんか、してくれなくて結構です!」

「オレが撮らないで、いったいだれが美月ちゃんを撮るんだ!?」

「ヨシキさんじゃなくても、写真撮ってくれる人はたくさんいます!」


頬を押さえるヨシキさんを尻目に、きびすを返してわたしはその場を立ち去る。

恋子さんはうろたえながら、わたしとヨシキさんを交互に見て、結局ヨシキさんの方に留まって、わたしからぶたれた頬を撫でながら、慰めてる。


ふん。

女の友情なんて、結局そんなものよ!

恋子さんには、なんの期待もしてないし、、、



「やるじゃん、美月さん」


 人混みにヨシキさんの姿が紛れて見えなくなった頃、小さく拍手しながら、わたしに近づいてくるレイヤーがいた。

美咲麗奈だ。

相変わらず挑発的な、胸元の大きく開いたコスチュームを着て、メロンのような巨乳を揺らしている。

この前のいざこざも忘れたように、美咲麗奈は馴れ馴れしく話しかけてきた。


「ヨシキのやつ、最近はいい気になってたから、だれかがガツンとやる必要があったのよね」

「いい気に?」

「あいつ、気が多過ぎるんだから。撮影にかこつけてレイヤーとやりまくって、、、

いったい何人のレイヤーを泣かせたら気がすむのかしら?」

「…」

「ヨシキは今、恋子さんとつきあってるのよ」

「え? 恋子さんと?」

「夏休みに、ふたりで泊まりがけで新島に撮影に行ってるし、恋子さんもブログで、ラブラブっぷりをカミングアウトしてるから、確かね。

でも、持ってまあ、、 一ヶ月ってとこかな」

「そうですか?」

「ヨシキにとって恋愛はゲームなのよ。

攻略するのが楽しいだけで、手に入れてしまった景品には、すぐに飽きちゃうの」


わたしは恋愛ゲームのオマケか?!

なんかムカついたけど、とりあえずグッと呑み込み、それでも皮肉っぽく言い返してみる。


「よくご存知なんですね。ヨシキさんのこと」

「まあね。でも、あんな男と関わるのも、わたしもいい加減イヤになってきたわぁ」

「でも、美咲さんとヨシキさんは、つきあってるわけじゃないんでしょ?」

「ん~、、、 まあ、腐れ縁ってやつかなぁ」

「腐れ縁?」

「そりゃあ、写真の腕はいいし、いっしょに撮影するのは楽しいんだけど、すぐにエロに持ち込もうとするし、しつこいし、変態だし、、、」

「変態?」

「それに、知ってる?」


そう言うと美咲麗奈は、呆れたように肩をすくめ、わたしに耳打ちした。


「ヨシキのサークルにいる中学生。『ウリ』やってるのよ。

しかも、どこかのアイドルグループじゃあるまいし、本を買った客に握手とかさせてるし。

そんな枕営業みたいなことまでして本売りたいなんて、汚いわよね。

出してる同人誌も、未成年のエロ絵が載ったのばっかりだし。

ヨシキもミノルもそのうち、児ポ(*児童ポルノ禁止法)で捕まるんじゃない?」


、、、頭が痛くなってきた。


この前の『リア恋plus』撮影会のときに、美咲麗奈のいう『ウリをやってる中学生』の栞里しおりさんとは、会っていろいろな話をした。

口数が少なくてどこか無愛想だけど、きちんと礼儀正しく、頭のいい子だった。

なにより、そんな栞里さんが『ミノルさんとつきあっている』と言ったのは、すごく意外で、驚きだった。

こんな可愛い中学生が、8つも歳の離れた、オタクっぽくて地味で冴えない人とつきあっているなんて。

だけど、ぶっきらぼうな口調ながら、ミノルさんとの素敵なエピソードを、嬉しそうにひとつひとつ話してくれる栞里さんを見ているうちに、この子は人の外見にとらわれることなく、ちゃんと中身を判断できるのだとわかって、感心した。

美咲さんの言う『ウリ』の話も、本人から打ち明けられていた。

『自分への罰としてやったことで、お金目的じゃないし、今はすごく後悔してる』って。

ミノルさんも、それを知っていると聞いた時は、かれの包容力に感動し、見た目だけで、『地味で冴えないオタク』と決めつけていた自分を、恥じたりもしたものだ。


だから、美咲麗奈の話が、根も葉もない嘘っぱちだというのは、よくわかる。

こんなくだらない噂話なんて、聞きたくもない。

どれも邪推と偏見に満ちていて、信じるに足る話なんて、ひとつもありはしない。

こんな、火のない所に無理矢理煙を立たせるようなことを言うなんて…

メールの送り主は、やはりこの人かもしれない。


つづく

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