Level 16
「抜け落ちた愛のかけらは埋められません」
level 16
「ひどい顔ね… 凛子」
翌朝、洗面台の前に立ったわたしは、鏡に映る自分に向かって、つぶやいた。
真夜中に泣いたのと睡眠不足で、目が充血していて、まぶたも腫れぼったい。
頬はこけて、髪も跳ねまくっている。
こんな顔と気分で、学校なんかに行きたくない。
それでもわたしはノロノロと顔を洗い、機械的に朝の支度を整え、家を出た。
学校での一日は、なんの張り合いも感動もなく、無為に時が過ぎるだけ。
時計の針が進むのが、遅すぎる。
虚しい。
心のなかに、ぽっかりと大きな穴が開いたみたい。
ヨシキさんの存在は、他に埋められるものがないくらい、大きなものだった。
これってやっぱり、失恋なのかなぁ、、、
そんなことない!
あんな人のことなんか、もうどうでもいい!
あいつを好きなわけがない!
だけど…
どんなに否定してみても、ごっそりと抜け落ちた愛の
一日が長い。
やっと夜になったと思ったのに、今度は暗闇のとばりが、孤独を募らせてくる。
無意識のうちに、わたしは携帯に目をやっていた。
『待っても無駄よ凛子。わたしたちもう別れたんだから、連絡くるはずがないわ』
そう何回も言い聞かせても、心の底でどこか期待して、携帯を見つめてしまう自分がいる。
もちろん、携帯はピクリとも動かず、机の隅で化石のように固まったまま。
あれほどわたしを愛してくれて、この携帯から優しい声をいつも聞かせてくれていたヨシキさんなのに、こんなにあっさりと連絡が途絶えるなんて。
いくら、わたしから先にさよならを告げたとしても、あまりにそっけない態度。
一度くらい、未練がましい言い訳をしてくれてもいいじゃない。
結局わたしの替わりなんて、いくらでもいるってわけ?!
こうしてわたしが悶々としている今も、他の
なんか、ムカつく。
、、、いけない。
また、思考のループに陥っている。
孤独の中でイライラが昂まっていき、どうにも気持ちのやり場がない。
なんとか自分を落ち着けなきゃ。
とにかくだれかと繋がっていたくて、わたしは携帯を手にとり、ボタンを
“RRRRR RRR…”
「あ、凛子ちゃん? どうしたの、こんな夜中に。なにか用?」
電話の向こうの声は、優花さん。
「ええ。用ってほどでもないんですけど、、、 なんとなく、声が聞きたくて」
「え~?! なんか嬉しいなぁ。そんな風に言ってくれると」
「そうですか?」
「こないだの撮影会、楽しかったね。ヨシキさんの速報が楽しみよね」
「え? ええ…」
「『すぐに送る』って言ってたのに、まだ来ないけど。仕事忙しいのかな?」
「…そうですね」
「凛子、ちゃん?!」
「…え?」
「元気ないけど… なにかあったの?」
「え。ええ… ちょっと」
「話してみてよ。力になるからさ」
「…ええ。実は・・・」
問われるまま、例のメールのことや掲示板のこと。そして昨日のヨシキさんとのいきさつを、わたしは優花さんに打ち明けた。
『うん』『うん』『それは酷いわ』『ありえない』と、相づちを打ちながら、優花さんは話を聞いてくれた。
「まあ… そんな事になるんじゃないかと、思ってたけどね」
したりと、優花さんは話しはじめた。
「はじめて会ったときから、警報鳴りっ放しだったのよ」
「警報?」
「『こいつは危険人物だ』ってね」
「…」
「凛子ちゃんたち、つきあいはじめてまだ1ヶ月くらいでしょ?」
「ええ」
「酷な言い方かもしれないけど、よかったかもよ。傷が浅いうちに別れられて」
「そ、そうですか?」
「このままズルズルはまっちゃうと、致命傷になりかねないし。
ああいうタイプは、別れた女に未練なんか持たないから、凛子ちゃんもヨシキさんのことはさっさと忘れて、新しい恋探した方がいいわよ」
確かに、優花さんの言うとおりなんだろうけど…
なにかもやもやする。
「新しい恋なんて… まだ…」
「女の恋は上書きよ。いい男が現れたら、昔の恋なんてさっぱり忘れられるから」
「でも、そんな簡単に忘れられないです」
「ん~、、、 まあ、初めての
でも、あれは女を喰っては捨てるタイプよ。犬に噛まれたとでも思って、ヨシキさんのことは早く忘れた方が、凛子ちゃんのためよ」
『女を喰っては捨てる』
フレーズがピタリと重なった。
もしかして、あの陰湿なメールを送ってきたのは、、、 優花さん?
まさか?!
つづく
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