「わたしはちゃんとやっていけるんです!」

「優花さんですか? あのメールは」

「え?」

「あんな陰湿なことしたの、優花さんなんですか?!」

「なっ、なに言ってるの。わたしがそんなことするわけないでしょ」

「優花さん。もしかして、ヨシキさんのことが好きなんですか?」


わたしの問いに、優花さんはかすかに慌てた口調で返す。

そういうところが、なんだか怪しい。


「え、、? な、なんでそうなるの? わたしは別に…」


彼女の言葉を遮り、わたしは畳みかけるように言う。


「『素敵な人ね~』って言ってたじゃないですか? イベントではじめて会ったとき。

『わたしも思わずグラグラきちゃった』って優花さん、嬉しそうに話していたし、昨日の撮影会でもずいぶんヨシキさんのこと、褒めていたじゃないですか」

「そりゃ、、、 あれだけカッコよくて才能もあって、面白い人だもの。素敵って思うのも当然じゃない」

「だから、わたしたちを別れさせたかったんですか?」

「それは違うわよぉ! わたしは凛子ちゃんのためを思って」

「嘘!」


思わず声を荒げた。

いったん疑いはじめたら、どんな台詞も悪い方にしかとれない。

いつでもお姉さん口調で、知ったような顔でわたしを諭して、上から目線で…


前から胡散臭いと思っていた。

大友優花さんのことは。


恋人の妹とはいえ、わたしのことを『超絶美少女』だとか『凛子ちゃんみたいな、可愛い妹がほしかった』だとか、やたら褒めて持ち上げて。

今考えてみれば、わたしのこと、懐柔しようとしているみたいだった。

本心では、疎んでいたくせに。

わたしを手なずけて、今度はヨシキさんとも仲良くなろうとしているわけ?


じゃあ、兄はどうなるの?

なにも知らずに優花さんのことを本気で愛していて、結婚の約束までしている兄は、ヨシキさんと天秤にかけられ、あっさり捨てられてしまうの?

それとも、二股でもしようって魂胆?

そんな酷いこと、このわたしが許さない!


「もういいです! 優花さんに相談したのが間違いでした! もう電話しませんから!!」

「凛子ちゃん、まっ…」


一瞬、躊躇ためらう気持ちがかすめたが、勢いの方がまさって、わたしは通話を切った。


『しまった』


そのあとで、罪悪感がじんわりと湧き上がってくる。わたしはほぞを噛んで携帯を握りしめた。


とんでもないことしちゃった。

優花さんがメールの送り主だと、決まったわけでもないのに。

いくら苛立っていたとはいえ、根拠のない妄想が先走って、勝手に犯人だと決めつけちゃって。


優花さんはお姉さんのような存在で、いい友達で、いつもわたしのこと、親身になって考えてくれて…

今回のことだって、優花さんの言うことはもっともだ。

わたしとヨシキさんの関係をはたから見れば、『別れた方がいい』と、だれもが忠告するだろう。

なのにわたしは、被害妄想でなにも見えなくなって、ひとりで空回りして、、、


最低なわたし。

だけど、どうしようもない・・・


だれもがみんな、敵に見えてくる。

あんなに優しくて、親身でいてくれた優花さんさえも。


それもこれも、あのメールと掲示板のせい。

考えれば考えるほど、すべての元凶だ。

あのメールが来たせいで、みんながわたしから離れていく。

たった一晩で、わたしは奈落の底に落とされてしまった。

どうあがけば、ここから這い上がっていけるのだろう。


もしかしてわたし、メンタル弱いのかな?

なぎなたとか、武道を習っているくせに。

精神修養は大事だって。

自分を律する精神力を養えって、いつも教わっているのに。

勢いに流されて、自分を制御できなくなってしまって。

もっと精神、鍛えなきゃ。


、、、とにかく頑張らなくっちゃいけない。

見返してやる。

ヨシキさんなんかいなくたって、わたしはちゃんとやれるんだということを、証明してやる。

コスプレだって、だれからも馬鹿にされないようにしてやる。

『へたレイヤー』だとか、『くずレイヤー』だとか、もう、だれにも言わせない。

美咲麗奈や百合花や魔夢なんかに負けない、すごいレイヤーになってやる。

そのためには、いろんなコスプレやって、コスプレSNSもはじめて、写真をたくさん更新して、大勢の注目を集めなきゃいけない。

掲示板で嘲笑あざわらっている奴らを、見返してやる。


とにかく・・・

頑張るしかないんだ!


つづく

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る